見出し画像

大切な人の自死とグリーフをめぐる語り合い――wish you were hereの対話を通して|第6回 自殺は特別な死なのか

0歳のときに自死で母親を亡くした筆者が、小学生のときに母を自死で亡くした友人とともに、自死遺族や大切な存在を自死で失った人たちとSNS等で繫がって対話をする活動と、それぞれの率直な思いを話し、受け止め合う音声配信を、約2年間続けてきました。10人のゲストの人たちとの、自死にまつわるテーマでの話しあいや、聞いてくれた方からのメッセージからの気づきと、筆者自身の身近な人の自死の捉え方や心境の変化、グリーフについての学び、大切な人を亡くした人たちへのメッセージを綴ります。
※この連載では、遺族の立場から、自死・自殺についての話をします。それに関連するトラウマ的な体験をしたことがある人や、死にまつわる話が苦手な方などは、読んで辛くなることもあるかもしれませんので、お気をつけください。
※月1回更新

リヴオンのボランティア研修

「wish you were hereの対話」の7回目の配信で扱うテーマ、”記念日反応”について調べていたときに偶然見つけた、グリーフケアやサポートを行う一般社団法人リヴオン。リヴオンは、19歳のときにお母さんを自殺で亡くし、のちに2012年にお兄さんを亡くした尾角光美さんが2009年、20代のときに立ち上げた団体だ。
いまでは、若者向けのグリーフサポート(「大切な人を亡くした若者のつどいば」(以下、つどいば))の他、小学校から大学まで、学校で行うグリーフにまつわる出前授業(「いのちの授業」)や、日常的に身近な人を亡くした人に接することの多い僧侶の方がグリーフについて学べる 「僧侶のためのグリーフケア連続講座」など、数多くの取り組みをしている。

2022年、たまたまリヴオンのことを知ったタイミングで募集をしていた、つどいばのボランティアスタッフ養成研修に参加することにして、複数回に分けて京都で行われた研修に足を運んだ。初回はどんな人がいるのか少しドキドキしていたけれど、部屋には穏やかで素敵なBGMが流れ、ワークで使う可愛らしいマスキングテープやシール、折り紙などが並べられていた。スタッフも優しい雰囲気の人ばかりでとても包容力のある場だったから、部屋に入ってすぐに安心できた。

つどいばの研修では、グリーフについての知識を身につけるだけでなく、実際につどいばで参加者と一緒に行うワークを体験させてもらった。なかには折り紙をちぎったり貼ったりして自分の気持ちやイメージを表現するようなアートのワークもあった。言葉にして表現するのが苦手な人や、その段階にない人にも配慮されているらしい。

「聴きあう時間」という、参加者が車座になって、それぞれの喪失体験を互いに聴きあうワークでは、大切な人を病気で亡くした経験を、涙を流しながら語るスタッフもいた。それまで僕は、いわゆる遺族会とか、セルフヘルプグループと呼ばれる集まりに参加したことがなく、初対面の人と対面で、こうした思いを分かち合うような場に参加するのははじめてだった。場を丁寧にセッティングすることで、会ってまだ間もない人にも心のうちを語ることができるのが新鮮で、同時に、そういった場のぬくもりに浸りながら、心が溶けていくような感じがしていた。

また、それまで母の死が自殺であったことを重くとらえてきた自分にとっては、たとえ自殺でなくても、身近な人を亡くした苦しみを多くの人が抱えているという、考えてみれば当たり前の事実を体感した時間でもあった。

自死の話をしても良い場所

研修のなかで、実際のつどいばでも取り入れている「当事者ミーティング」というワークを体験させてもらった。「当事者ミーティング」は、たとえば、「遅刻ぐせを直したい」とか、「母の日がしんどい」といった、悩みや実現したいことなど、一人ひとりが抱える課題を、みんなで一緒に考えるワークだ。参加者が扱いたいテーマを決めたら、A3の紙の真ん中にそれを書いて、最初は周りの人がひたすら本人に質問していく。悩みや望みを掘り下げて具体的にしたり、関連する質問をしたりして、本人はそれに答え、周りの人がA3の用紙の周りにその内容を書き込んでいく。その次の時間は、本人は黙ったままでいて、周りの人が、ひたすら悩みを解決したり、希望を叶えるのに役立ちそうなアイデアを出していく。課題を出した人は、そのなかから、いいなと思ったアイデアだけを持ち帰ることができて、活かすかどうかは自分次第。それで実際に解決するかどうかはわからないけど、誰かの課題をみんなで一緒に考える時間は、とても温かい。
 
僕はそのワークで、「自殺の話がタブーでない社会にしたい」という、ちょっと大きな希望を、一緒に考えてもらった。それまでのwish you were hereの活動を通して、周りの人に身近な人の死を話せずに苦しんできた人が、自分以外にもいることを知って課題意識を持っていて、グリーフケアに携わっている人たちなら、こういう重いテーマも一緒に考えてくれそうだと思ったからだ。

そのワークのなかで、岐阜県の光蓮寺というお寺で当時副住職をされていたスタッフの五藤広海さんが、「グリーフをテーマに扱っているような場では自殺の話はタブーではないし、もりもとさんがwish you were hereのような活動を続けていたら、もりもとさんの周りは、タブーじゃない社会になっていく」ということを言ってくれた。

たしかに、リヴオンは代表がお母さんを自殺で亡くしたことを公言しているし、参加者も、身内や友人の自死の話をしやすい。ただ、当時の僕は、言葉にはしていなかったけど、心のなかでは反論していた。グリーフケアの場とか、遺族会のような特定の場所では、たしかにタブーじゃないかもしれないけれど、そういったところに参加しにくい子どもたちにとってもタブーじゃない世の中にしたいと思っていたのだ。僕自身、言えずに苦しんでいたのは、子どもの頃だったから。

でも、こういう活動をしていたら、自分たちの周りで自殺の話がタブーじゃない社会が広がっていくというのは、その通りだと、活動を続けるにつれて実感した。僕たちがこういう活動をしていると知ってくれて、話をしたいと連絡をくれる人もいたし、自殺に限らず、大切な人を亡くした話を打ち明けてくれる人もいた。

そして、リヴオンはこれまで、小中学校などでも死やグリーフについて一緒に考える「いのちの授業」をやってきたし、自死遺児支援にも取り組もうとして、子どもたちにもアプローチをしている。活動を続けることで、子どもたちの周りにも、身近な人の死について話せる場ができて、話していいと思える子どもたちも、着実に増えていくのかもしれない。

遺された人にとって、自殺は特別な死なのだろうか

僕は子どもの頃に、母の死が自殺だったと知って、大きなショックを受けた。だからこそ、自死というテーマに長い間こだわって考え続けてきたし、昔からメンタルヘルス領域への関心も強かった。
ただ、リヴオンのつどいばの研修やボランティアを通して、若者たちの、大切な人を亡くした経験についての語りに触れるにつれて、自死だけが特別ではないのかもしれないと思うようになった。たとえば複数の家族を事故で同時に亡くした人や、片親家庭で、小さい頃から二人三脚で歩んできた親を若くして亡くした人が直面する状況は相当に厳しくて、死因が自死でないからといって苦しみが小さいわけではない。

この活動を続けるにつれて、自死を特別なものだと思っていた自分に気づかされた。残された人にとって、自死ははたして、他の死とは違う、特別な死なんだろうか。
自殺や自死というものに対する世間のスティグマは確実にあるだろうし、そのネガティブなイメージにとらわれて、遺された側が苦しむことはあるだろう。何度も書いてきたように、周りに話しづらいことも苦しさの理由のひとつだ。生前に、その人が生きることに苦しむ様子を身近なところで見て支えようとしてきたからこその辛さもあると思う。
一方で、予期しづらい死という点では事故死も共通していることだし(むしろ事故死の方が予期しづらい)、亡くなった人に何かできなかっただろうかという後悔は、病死で大切な人を亡くした人たちも感じることがあると知った。
どんな死因であれ、大切な人を亡くしたことが、誰かの人生を大きく揺るがすことはあって、それは決して、自死遺族だけに閉ざされたものではなかった。そして、多くの人たちが人生のどこかで、大切な人の死を経験する。そう思うと、不思議なことに、少し心が安らいだ。たくさんの人が苦しみを経験して、たくさんの人が支援を必要として、たくさんの人が、誰かや何かに支えられながら今日も生きているのだ。

だからこそ、死因を問わず、身近な人の死を分かち合って、支えてもらえるような場は必要なのだと思うし、どの世代の人たちにも、そういった場や、話を聞いてくれる人の存在が、近くにあってほしいと思う。そのうえで、それでもやっぱり、大切な人の自死の話を周囲にできない人がたくさんいるのも事実だから、僕はこれからも、wish you were hereの活動も続けて、こういった対話を、できるだけ開かれたものにしていきたいと思っている。

【著者プロフィール】
森本康平
1992年生まれ。0歳のときに母親を自殺で亡くす。京都大学で臨床心理学を専攻後、デンマークに留学し社会福祉を学んだのち、帰国後は奈良県内の社会福祉法人で障害のある人の生活支援に従事。その傍ら、2021年の冬、自死遺族の友人が始めた、大切な人を自死で亡くした人とSNS等で繋がって話をする活動に参加し、自死やグリーフにまつわる話題を扱う番組“wish you were hereの対話”をstand.fmで始める。これまでに家族や親友の自死を経験した人、僧侶の方、精神障害を抱える方の支援者など、約10名のゲストとの対話を配信。一般社団法人リヴオンにて、”大切な人を亡くした若者のつどいば”のスタッフとしても活動。趣味はウクレレと図書館めぐり。
“wish you were hereの対話”
https://lit.link/wishyouwerehere