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大切な人の自死とグリーフをめぐる語り合い――wish you were hereの対話を通して|第5回 stand.fmやpodcastから広がるご遺族の方たちとの繫がり

0歳のときに自死で母親を亡くした筆者が、小学生のときに母を自死で亡くした友人とともに、自死遺族や大切な存在を自死で失った人たちとSNS等で繫がって対話をする活動と、それぞれの率直な思いを話し、受け止め合う音声配信を、約2年間続けてきました。10人のゲストの人たちとの、自死にまつわるテーマでの話しあいや、聞いてくれた方からのメッセージからの気づきと、筆者自身の身近な人の自死の捉え方や心境の変化、グリーフについての学び、大切な人を亡くした人たちへのメッセージを綴ります。
※この連載では、遺族の立場から、自死・自殺についての話をします。それに関連するトラウマ的な体験をしたことがある人や、死にまつわる話が苦手な方などは、読んで辛くなることもあるかもしれませんので、お気をつけください。
※月1回更新

podcastコミュニティで繫がった人の発信から、ご遺族の方に対話が届く

stand.fmでの配信をはじめてから、更新の頻度は決めずに、話を聞いてみたい人をゲストに呼んだり、話したいテーマが浮かんだら2人で対話をしたりして、結果的にだいたい月に1回程度のペースで対話の配信を続けていた。あるとき、この活動を知ってくれた友人に、音声配信をしている人向けのオンラインコミュニティへ誘ってもらった。
 
そのコミュニティにはたくさんのpodcast配信者が参加していて、有名なpodcastのパーソナリティをしている方から番組づくりについて学んだり、配信者どうしで交流や情報交換をしていた。参加して間もない頃、そのコミュニティを運営をされている方が、「wish you were hereと通じるものがあるかもしれない」と言って、石垣島で「石垣ラジオ」というpodcastをしている人を紹介してくださった。石垣ラジオは、石垣島在住の2人、らっきーさんとひでさんが、その島でいろいろな活動や生き方をしている人を、笑っていいとも!のテレフォンショッキングのように、リレー形式でゲストに呼んでインタビューをしていくpodcastだ。そのなかでときどき、「うつ病を語る回」と称して、うつ病経験者やメンタルヘルスに関わる仕事をしている人をゲストに呼んで、当事者や支援者らの語りを発信していた。

らっきーさんは、過去にお父様を自死で亡くされていて、他にも身近にうつ病を患う人がたくさんいることに関心を持って、そのような取り組みをpodcastのなかで始めたらしかった。

「配信することに何か意味があるんじゃないか」と思って、まだまだ人に話せないことの多い精神病について発信しているというらっきーさんに、僕は勝手に仲間意識を持って、連絡をとるようになった。

よだかさんとZoomで3人で話したときには、身内の精神疾患のような少し重い話でも、似た境遇の人どうしで話したら「あるある」になって、盛り上がることができるのが良いという話をしてくれていた。そうでない人には伝わりづらい話でも、似た境遇の人どうしだったら、細部まで似た経験をしていることもあって、「そんなこと自分もあったあった」と盛り上がることができる。精神疾患の話で盛り上がるのは少し不謹慎かもしれないけれど、たまたま自分の身にふりかかってしまったいろいろな出来事を、似たように経験している人と打ち明けあって、自分だけじゃなかったんだと思えてほっとできるのは嬉しい。

stand.fmの配信でらっきーさんにゲストとして来てもらった回では、石垣ラジオの「うつ回」の話を聞かせてもらったり、身内の死などのしんどい話や、いろいろな悩みを人に打ちあけやすいコミュニティとはどういったものなのかとか、まだ身近に悩みを話せる人がいない人が相談しやすくなったりSOSを出しやすくなるような居場所についても話をした(対話その10|ゲスト らっきーさん|精神疾患や自殺の話をタブーにしないこと)。

その年の秋、らっきーさんがご自身のpodcast「ハルサーのつぶやき」で「wish you were hereの対話」の活動を紹介してくださって、それを聞いて僕たちのことを知って音声配信を聞いてくれた方から「レター」が届いた。(stand.fmには、アプリ上でリスナーから配信者にメッセージを送る、レターという機能がある。)家族を数か月前に自死で亡くされたという方からのレターだった。丁寧な文章に、その方がとても辛い日々を送っておられることが書かれていたけれど、僕らの対話を聞いて「一人ではないと思えた」と伝えてくださった。

大切な人を亡くされて間もない人、深い苦しみの中にいる人に、僕たちの活動が届いて、少しでもほっとしてもらえたことが、本当に嬉しくて、この活動をしていて良かったと心から思えた瞬間だった。

元々は、残された人どうしで繫がって、ときどき話をしながら一緒に生き延びていく活動のための配信だったけれど、継続的な関わりを持つことはなくても、しんどい時に音声配信を聞いて少しでも気持ちが救われる人がいたら、それだけでもとても嬉しい。そして、その感想をこうして僕たちに届けてくれたことも、とてもありがたかった。

継続して関わり続けている人もいれば、一度ゲストに出てくれた人、配信を聞いて僕たちと話したいと言って連絡をくれた人、いつも聞いてくれてレターをたくさん送ってくれる人、気になるタイトルの回だけ聞いてくれる人もいる。音声配信をすることで、いろんな関わり方、繫がり方ができるようになった。

10代の頃にお母さんを自死で亡くされた方が立ち上げた団体、「リヴオン」との繫がり

時期が前後するけれど、その年の春、7回目の対話で、記念日反応についてよだかさんと話すことになった(対話その7|記念日反応について)。記念日反応は、自死に限らず、大切な人を亡くした人が、その人の命日や、誕生日、あるいは母の日や父の日、結婚記念日やクリスマスなど、その人との思い出や、その人に関連する時期に、心身の調子を崩すことを指す言葉だ。

僕は母の日の時期が昔からどうも苦手で、よだかさんは、お母さんが亡くなった冬になると、毎年調子を崩していた。

このテーマで話をする前に、記念日反応のことをインターネットで調べていたら、リヴオンという、グリーフケアに関する事業をしている団体の代表の尾角光美さんという方がnoteに綴った文章に出会った。そこからリヴオンのことを調べていて、尾角さんが10代の頃にお母様を自死で亡くされたこと、リヴオンでは、「大切な人を亡くした若者のつどいば」(以下、つどいば)と呼ばれる、若者向けの、体験の分かち合いやグリーフワークの場づくりをしていることを知った。若い頃の辛い経験から、団体を立ち上げて、自らそうした活動をしている人がいることを知って驚き、勇気づけられた。

そしてたまたま、その頃リヴオンでは、つどいばのボランティアスタッフ養成研修の受講者を募集していた。

当時僕は、wish you were hereの活動のなかで、これからいろいろな人と、大切な人の自死についての対話をしていくことに、少し不安を感じていた。相手の話をどのように聞いて、どう受け止めればいいのか、グリーフ、つまり、大切な人を亡くしたり、離別したりしたことによるいろいろな感情を、どう扱えばいいのか、学びたいと思っていた。

たまたま受講者の募集期間が延長されていて、今からでも申し込めば研修を受けることができるようだった。ウェブサイトの素敵なデザインやメッセージにも惹かれて、思い切って、養成研修に申し込み、研修を受けてボランティアスタッフとして活動することになった。

次回はつどいばの研修での体験と、実際の活動を通して感じたことを書きたいと思う。

【著者プロフィール】
森本康平
1992年生まれ。0歳のときに母親を自殺で亡くす。京都大学で臨床心理学を専攻後、デンマークに留学し社会福祉を学んだのち、帰国後は奈良県内の社会福祉法人で障害のある人の生活支援に従事。その傍ら、2021年の冬、自死遺族の友人が始めた、大切な人を自死で亡くした人とSNS等で繋がって話をする活動に参加し、自死やグリーフにまつわる話題を扱う番組“wish you were hereの対話”をstand.fmで始める。これまでに家族や親友の自死を経験した人、僧侶の方、精神障害を抱える方の支援者など、約10名のゲストとの対話を配信。一般社団法人リヴオンにて、”大切な人を亡くした若者のつどいば”のスタッフとしても活動。趣味はウクレレと図書館めぐり。
“wish you were hereの対話”
https://lit.link/wishyouwerehere