【科学者#035】狂犬病のワクチンで少年を救った近代細菌学の開祖【ルイ・パスツール】
現在私たちが安全に新鮮な状態で牛乳を飲むことができるのですが、これは腐敗を防ぐために低温で殺菌しているからになります。
この低温殺菌法を考えた科学者は、様々な国の科学者が国籍や人種を越えて科学を作り上げていく様子を「科学には国境はないが、科学者には祖国がある」という言葉で表現しています。
今回は、狂犬病のワクチンで少年を救った近代細菌学の開祖ルイ・パスツールを紹介します。
ルイ・パスツール
名前:ルイ・パスツール(Louis Pasteur)
出身:フランス
職業:生化学者・細菌学者
生誕:1822年12月27日
没年:1895年9月28日(72歳)
業績について
普通食品が腐敗しないようにするためには、菌が生きることができない温度に加熱する加熱殺菌法というのがあります。
大抵は100度以上の高い温度で殺菌するのですが、それでは食品の味が変わってしまうものがあります。
そこで開発されたのが低温殺菌法と呼ばれるもので、100℃以下で殺菌を行う方法になります。
これは1866年に、パスツールとクロード・ベルナール(1813-1878)によってワインの殺菌法として開発されました。
この低温殺菌法は、パスツールの名前を取ってパスチャライゼーションと名付けられました。
この方法では微生物を完全に死滅させるわけではなく、人間の体に害のない程度まで菌を減少させるので、賞味期限は一般的なものよりも短くなります。
生涯について
パスツールは、フランスの本土の中で最も海から遠いジュラ地方のドール生まれで、父親は皮なめし職人でした。
1843年にはパリの高等師範学校に入学し、1846年には博士号を取得しています。
パスツールが20代後半には、結晶構造と旋光性の関係を解明して、旋光性を示す有機化合物は生物によってしかつくられないことを突き止めます。
ちなみに、旋光性とは物質中で光の振動面が回転する性質のことになります。
そしてこのことにより、発酵の過程で生じる化合物の中に旋光性を持つものが含まれることから、発酵とは微生物が関与する化学反応であると考えるようになります。
その後1849年には酒石酸の性質を解明し、この博士論文によりストラスブール大学の化学の教授の地位を手に入れます。
ちなみに酒石酸とは、酸味のある果実、特にブドウやワインに含まれる有機化合物のことを言います。
1854年には、フランス北部の都市であるリールの新しい理科大学の学部長に指名されます。
その後1857年には、高等師範学校の事務局長兼理学部長になります。
そして、ちょうどこの時期にアルコール製造業者から、ワインの腐敗原因を調べて欲しいという依頼を受けます。
1860年には、加熱した肉汁を特殊な工夫を施したフラスコに入れて観察します。
この当時は目に見えない微生物に関しては、親がいなくても突然物質から生物が出現するという自然発生説がまだ根強く残っていたのですが、この実験により外から微生物が入り込まなければ肉汁を腐らせる微生物が発生しないことを示します。
1861年には、『自然発生説の検討』を書き、従来の『生命自然発生説』を完全に否定します。
1865年、当時微粒子病と呼ばれる病気によりたくさんのカイコが死んでいたため、パスツールは養蚕業の救済に取り組みます。
調査した結果、微粒子病がカイコの卵につくノゼマと呼ばれる原生生物の感染であることを突きとめます。
1867年には、脳卒中で倒れ左半身不随になります。
その後1895年には、微生物学で最高の栄誉である第16回で紹介したアントニ・ファン・レーウェンフックにちなんで創設されたレーウェンフック・メダルを受賞します。
パスツールという科学者
パスツールの時代、狂犬病は深刻な伝染病のひとつでした。
狂犬病にかかった犬が人間に噛みついた場合、人間の体内にウイルスが入り込みます。
その後しばらくの間潜伏期間があり、そのままにしておくと発症し亡くなってしまいます。
しかし、潜伏期間内にワクチンを投与することができれば抗体ができるため病気を抑えることができます。
実は、このワクチンをつくったのもパスツールでした。
1885年狂犬病の犬に咬まれたジョセフという9歳の少年がいたのですが、パスツールは開発中だったワクチンを使って命を救います。
そして、このジョセフが狂犬病のワクチン第一号の成功例になります。
その後、この功績により1888年パリにパスツール研究所が創設されます。
実はこの話には後日談があり、パスツールが亡くなった後の1940年にパリに進行してきたドイツ軍が、研究所の門番にパスツールの納骨室を開けるように命じます。
しかし、門番はパスツールの尊厳を侵す理不尽な命令と判断し、ドイツ軍の命令を拒絶しました。
そして門番は自ら命を断つのですが、その門番が実はパスツールに命を助けてもらったジョセフだったんです。
パスツールは、この狂犬病のワクチンや低温殺菌法など、今の私たちの生活に欠かせないものを多く研究し、細菌学の分野を発展させました。
今回は、狂犬病のワクチンで少年を救った近代細菌学の開祖ルイ・パスツールを紹介しました。
この記事で、パスツールのこと少しでも興味を持っていただけると嬉しいです。