ビジネスパーソン必読!日本企業に足りない「ロジカル・シンキング」
「ロジカル・シンキング」とは、物事を筋道立てて整理する思考能力と、矛盾のない説明をするコミュニケーション能力のことを指します。
厳密に言うと、この「ロジカル・シンキング」は「物事を筋道立てて整理する思考能力」と、「矛盾のない説明をするコミュニケーション能力」という2つの要素に分けられます。
現代社会の膨大な情報を正確に理解し伝えるためには、情報を整理し理解することが必要です。ロジカル・シンキングは「思考力」で整理・理解し、「コミュニケーション力」で伝えるためのツールとも言えます。
今回は、ロジカル・シンキングとはそもそもどのようなものなのか、なぜ今必要とされているのか解説します。
ロジカル・シンキングの定義
ロジカル・シンキングというのは、論理的な思考力を指し、物事を論理的に整理して、矛盾のない考え方をする方法です。ビジネスの場でもよく使われる表現であり、ロジカル・シンキングの意味を理解することは多くの人にとって重要です。しかし、ロジカル・シンキングには法的な定義や学術的な定義が存在しないため、専門家の説明や書籍を見ても、ケースごとに異なる説明があるため、やや混乱が生じることもあります。
"ロジカル・シンキング"という言葉は、現代の日本のビジネス用語として一般的に使用されていますが、その意味は単純な論理的思考だけではありません。むしろ、演繹的・帰納的な思考法やツリー手法、ピラミッドストラクチャー、そしてMECE(ミーシーまたはミッシー)と呼ばれる完全なる重複のない心構えなど、さまざまな要素を含んでいることが多いのです。
つまり、ロジカル・シンキングには統一された定義が存在しないため、どのような手法が含まれるのかは異なることがあります。
ロジカル・シンキングの歴史
1980年代に入ると、海外進出や多角化などにより、事業の構造が複雑になりました。同時に技術革新も進み、ますます複雑化が進みました。2000年代初頭からは雇用慣行も変化し、正社員以外の雇用形態も増え、人材も多様化しました。これまでの経験では対応しきれず、過去の経験則はほとんど使えなくなりました。
ロジカル・シンキングブーム
社会人教育は、度々流行性を持った経営手法や研修手法が、時代背景と併せて導入生成、成長成熟、衰退というプロセスを辿っており、メディアや研修会社、ビジネススクール、コンサルティングファームなどのファッションセッターによって普及されています。一般的にはマネジメントファッション論と呼ばれています。
東洋経新報社から2001年に出版された「ロジカル・シンキング」(照屋氏, 岡田氏共著)も同様にブームを巻き起こしました。このベストセラーの登場をきっかけに「ロジカル・シンキング」という言葉が広まり、多くの人がブームに乗ってロジカル・シンキングの本を出版しました。他の一時的な流行とは異なり、ロジカル・シンキングは20年経った今でも広まり続け、ビジネスの常識として確固たる地位を築いています。
日本企業におけるロジカル・シンキングの必要性
日本のビジネス現場で今日のロジカル・シンキングが定着した背景には、日本の独自の事情があるとされています。それは、1980年代頃から、日本的な組織の特徴である強い同質性・凝集性が、強みから弱みに転じるケースが増えてきたことにあります。
日本の集団の強い同質性・凝集性は、日本の高度成長の原動力となり、終身雇用や以心伝心、一致団結といった考えがわかり、気持ちが通じていました。
しかしながら、1980年代以降、海外進出や多角化などにより、既存事業で培った経験則でビジネスを進めるには困難となりました。
成長性の鈍化とともに成熟化が進む中で、日本企業のコミュニケーションは反対や異論を考慮せずに行われ、その結果、経営としてのデメリットが目立つようになりました。このような状況の中で、経営陣や企業は外部のコンサルティング会社や有識者から学びを得ようとしました。
その際、提供される内容だけでなく、わかりやすく整理された資料や説得力のあるプレゼンテーションに学ぶ点が多く、ビジネスマンの一部はその手法を真似し始めました。当時、参考とされた書籍としては、バーバラ・ミント著の「考える技術・書く技術」(ダイヤモンド社)等がありました。
同じ時期に登場したのは、「ロジカル・シンキング」という本で、著者の照屋氏と岡田氏は当時マッキンゼーにいたコミュニケーション担当のコンサルタントでした。ちなみに、この本のタイトルは「ロジカル・シンキング」となっていますが、副題はLogical Communication Skill Thinkingとなっており、文章でも統一して「ロジカル・コミュニケーション」という言葉を使っています。まさに多くのビジネスパーソンが抱えていたコミュニケーションの解決策の一つだったのです。
余談ですが、日本の学校教育では論理や議論をする科目がほとんどない一方、欧米では小学校の低学年からディベートやディスカッションなど、論理的に整理し議論することが教育の中心になっています。つまり、日本においては社会人になって初めて学ぶ内容であると言えるでしょう。
ロジカル・シンキングの思考的側面とコミュニケーション的側面
日本においてロジカル・シンキングは、名前から思考や概念についてのものと思われがちですが、実際は「わける」という思考技術(Thinking)と「分かる」という分かりやすく整理し、伝えるコミュニケーション技術(logical)に大別されます。下記で詳しく解説します。
ロジカル・シンキングの思考
ロジカル・シンキングとは、決められた枠組みに従って情報を整理し、分析するスキルの集まりを指します。具体的には「分け方」を用いて情報を理解する方法と言えます。この「決められた枠組み」とは、数学や幾何学のようなものです。ロジカル・シンキングは、事象を分解して整理し、矛盾のない状態にする行為です。つまり、ロジカル・シンキングは、論理的思考方法であり、物事を筋道立てて矛盾のない形で考えることができる方法です。
自分の頭の中に存在する多様な情報を、基礎的な条件や筋道を前提にして整理する思考行為を行わなければ、伝えたり表現したり、可視化することは不可能です。ロジカル・シンキングを身につけることで、情報を分析し本質を理解することができ、複雑な情報でも頭の中で論理的に整理して正確な情報を相手に伝えることができます。
ロジカル・シンキングのコミュニケーション
コミュニケーションにおいては、お互いが共通の基盤を持つことが必要です。ロジカル・シンキングのコミュニケーションスキルとは、受信者が正しく理解するために、発信者が論理的に組み立てた情報を伝えるスキルです。
一般常識があるのと同様に、ビジネスに関してはビジネスの常識や業界の常識が存在するものです。ロジカル・シンキングにおいては、コミュニケーションは論理的な土台を持ち、ロジカル・シンキングの思考プロセスを経て考えられたものを言語化し、可視化し、数式化し、関係性などを明確にすることで、それらをロジカルな常識に基づいて伝えることがロジカル・シンキングにおけるコミュニケーションとされます。
ロジカル・シンキングがビジネスシーンで求められる理由
ビジネスシーンにおいて、ロジカル・シンキングが要求される直接的な理由としては、ビジネスの複雑性の高まりと人材の多様性の拡大が挙げられます。ビジネスの複雑性は情報量が増加し、変化のスピードが上がったことにより、非常に高まりました。
一方で、人間の脳の情報処理能力は急激に向上はしません。思考、判断、コミュニケーションは以前よりもはるかに困難になりました。Googleで検索したり、Excelで計算したり、ChatGPTに質問したりと、ツールも進化しましたが、これらのツールを十分に活用するには基本的な思考力が必要です。
要するに、便利なツールの開発によって、誰もが平等に便利になるわけではないということです。その恩恵は、それらのツールを使いこなす思考力に応じて受けることができます。
高度経済成長期が終わり、産業の成熟化に伴い、大手企業は多角化を進めました。自律分散化により、意思決定権限や責任が現場に委ねられ、企業を超え、地域を超え、業界を超えた連携がますます増えることが予想されます。経験則では判断できない問題や事象が急速に増え、専門領域、業界、社会をまたぐ複雑な問題を解決する必要があります。
先で述べたように、過去、日本経済は年功序列や終身雇用、企業内組合といった日本独特の経営スタイルに基づいて成り立っていました。しかし、現代のビジネスシーンでは経験則では把握できない問題や事象が急速に増え、専門的な領域や業界、そして社会を超えて判断しなければならない複雑な状況になりました。
また、グローバル化の進展により、コミュニケーションの対象が海外の従業員にも広がりました。雇用形態の異なる派遣労働者や外部業者なども増加し、人材の流動性が進み、転職や出向、外部連携がいつでも起こり得る状況に変化しました。このような中で、阿吽の呼吸や以心伝心といった日本の伝統的なコミュニケーション方法が通用しにくくなってきています。
上記のような状況において、ビジネスの複雑さと問題解決の主体者には、問題の因果関係を明確にし、複雑な問題を理解・共有・解決する能力が求められます。このような考え方を実現するために最適なのがロジカル・シンキングです。ロジカル・シンキングの思考プロセスを通じて仮説を立てて解決策を導き出せば、新たなセオリーとなるでしょう。
まとめ
ビジネスシーンにおいて、ロジカル・シンキングを活用するためには、経験を論理的に整理することが重要です。成功体験や失敗体験を振り返ることで、経験値は組織や個人のスキルアップにつながります。振り返りをデザインするためには、経験を論理的に整理することが必要です。ロジカル・シンキングを活かすことで、個々の経験が複線のように結びつき、自分自身で言語化できるようになります。
振り返りをデザインする際には、主観的な反省点だけでなく、客観的な意見やレビューが非常に重要です。これはメタ認知とも呼ばれます。
ロジカル・シンキングによる論理的なアウトプットができれば、周りの人々からの意見を収集しやすくなるでしょう。
ロジカル・シンキングは、繰り返し実施し、振り返りを行うことで誰でもスキルを向上させることができます。「なぜ成功したのか」「失敗を次にどうすればいいのか」など、他の人々と一緒に振り返る機会を創出することが大切です。