D2CブランドSOÉJUが考える、私たちらしい展示会とは
ソージュは流行や年齢に左右されずに、ライフスタイルの「基(ベース)」になる装いを、手にとっていただきやすい価格でお届けしたい、という思いで商品を作っているブランドです。定番商品の継続的な販売を大切にしながら、シーズン毎に一部の季節商品も展開しています。ファッション業界でビジネスを営む上で、この思いと展開方法をかなえるためには実は様々な工夫が必要です。今回は、ソージュらしいありようを模索しながら6月に実施した「展示会」についてのお話です。
ソージュの展示会の主眼は広報
品質を保ったまま価格をおさえるためには、ある程度製造ロットを大きくするために、一定以上の流通量にし続ける必要があります。そのためブランドPR(広報)によるブランド認知や理解のための活動は欠かせないものになってきます。しかし、PRをするにはニュースバリューが必要です。わかりやすいニュースバリューは新作の発表なのですが、前述の通りソージュは定番を大切にするブランド。季節ごとに商品の大半が入れ替わるようなことはなく、新作の出る割合は限られています。
一般的な展示会の目的は新作の認知と卸売の商談
ファッション業界では卸売の商談やPRのために「展示会」という催しが行われています。これは一般的にはブランドや商品を取り扱う卸売業者などが商品の展示紹介を行い、取引先に対して商品のオーダーを受け付ける場を指します。そうすると、主な目的は以下のようになります。
取引先にブランドを認知してもらうこと
今シーズンの打ち出し商品を展示し、見たり触ったりしてもらうこと
商談の機会を設け、実需の時期に生産が間に合うようにオーダーを受け付けること(オーダーが少ない場合は生産されないケースも)
(多店舗展開をするブランドの場合、この機会を活用して社内へも商品説明を行うことも)
そこで先のシーズンに打ち出すための商品が展示され、その場で商談も行われます。複数のブランドやメーカーを集めて開催される合同の展示会は、毎年開催時期が決まっていますが、単独で行う展示会も大体時期が決まっています。買い付ける側の小売事業者やセレクトショップも、この時期に合わせて予算を組むのが慣例になっているためです。国内のブランドでは秋冬ものは5-6月、春夏ものは9-10月頃の実施が中心です。(春、夏、秋、冬などとさらに分けて実施するところもあります)
ソージュは新作の割合が上記のようなブランドより少なく、商談が主目的ではないため、独自の方法を探る必要がありました。
ファッションショーにも目を向けてみるとヒントが
ファッションショーは展示会とは趣旨が異なり、一つ一つの商品の紹介ではなくシーズンのイメージを持ってもらうことが主な目的となります。そのためイメージを重視したセレクトになっていることが多く、逆に売れそうな商品でもメッセージ性の低いものはファッションショーでは発表しないこともあります。ファッションショーには大口の取引先やVIPに加えて、ファッション誌などのメディア関係者も多く招待されます。
近年、SNSなどを通じてファッションショーの情報が直ちに一般に配信されるようになり、ファッションショーの意味合いは変わってきました。ファンが見て欲しいと思ったらすぐ購入や予約をできるような仕組みを採用するブランドも出てきています。
”D2C”と呼ばれるお客様に直販のみを行うブランドでは、取引先(卸売先)への商品紹介の必要がないため展示会を行わなかったりやり方を変えるケースも増えているようです。どちらかというとファッションショーのような情報発信や、熱心なファンのお客様への早期受注会の意味合いで開催されることが多そうです。
こうした流れを踏まえて、私たちソージュでは、主目的を「ブランドを知っていただくこと」に置きつつ、どんな形態で”展示会、もしくはファッションショー的なもの”を行うのが私たちらしいのかと考えました。
4つの要素に込めたソージュらしさ
結果的に、まだまだ理想形とは言えないものの、ソージュらしさを4つの要素で表現することにし、6月に秋冬の展示会を常設の代官山のショールームで行うことにしました。
紙のメディアの方の秋冬ものの情報収集タイミングにも間に合う時期(6月)に開催すること
ブランドの幹をなす定番アイテムをきちんとそれと分かるように展示すること
合わせてニュースバリューも意識し、新作もテーマ性を持ってプレゼンテーションすること
ブランドの出自が分かる常設のショールームで開催すること(目的来店に焦点を絞って喧騒から離れたファッションエリアを選んだことを実際に体感いただき、リースなどの際に再訪もしていただきやすいように)
定番アイテムをきちんとPRしつつ、シーズンの新作もテーマ性を持ってプレゼンしたい。そのために今回とったのは、お客様のご試着やカウンセリングのための「サロン」に定番商品を展示し、同じ建物内の別区画のショールームにシーズン商品を展示するという方法です。「サロン」では普段お客様に感じていただけることを意識している「友人のリビングでファブリックに触れているような感覚」をイメージし、シアーなカーテンが揺れる、ソファーやラウンドテーブルのあるリラクシーな空間に、定番の4つの生地グループをパネルとラックで展示しました。
※定番の4つの生地についてはこちらの記事をご覧ください。
ショールームはシーズンのテーマカラーであるネイビー、ボルドー、グリーンとそれらをつなぐニュアンスのあるグレージュの商品を中心に構成。説明的になりすぎず、美術館のように感じていただくことがテーマのため、あえて「わかりやすい意味を想起させない」形の展示台を製作、展示しました。会場の装花も、「サロン」は白い花とグリーンでくつろぎと華やかさを表現したのに対し、ショールームではグリーンのみで構築的でアーティスティックなしつらえに。「サロン」とショールームを行き来しながら、定番をベースにシーズン毎にテーマ性を掛け合わせようとしているソージュのあり方を感じていただていれば、と意図しました。
ファッションショー的な意味合いの展示会では、葛藤も
今回葛藤があったのは、
気持ちのうえでは、ソージュをご愛用くださっているお客様に一番最初に情報をお届けしたい
メディアの方々の中にも、個人的にご愛用くださっている方も多くいらっしゃるのでオンシーズンのものも網羅的に展示したい
といったことでした。6月の開催のため、展示する商品は定番を除きほとんどが「サンプル」(一見商品と同じに見えますが、縫製仕様などディテールが完全には一致しないもの)です。サイズ展開も揃っていないことがほとんどなのですが、実は商品の価格を極力おさえるためには、商品とは異なるサンプルを作りすぎないこともポイントの一つなのです。
お客様にはきちんと「商品」の仕様になっていて、色やサイズも揃った状態でお披露目したいと思い、展示会はメディアの方限定での開催とすることにしました。ただし同時に近隣のスペースを借りて、販売中のほぼ全アイテムをご予約なしで試着いただけるお客様のためのイベントも同時期に開催。
立ち上げ当初から支えてくださっているお客様からは「アイテム3点のクラウドファンディングから始まったソージュのこれまでの歩みを眺めたようで感動しました」とのお声もいただき、通常のコージーな「サロン」とは別の趣旨のイベントも良いものかもしれないと新たな発見にもつながりました。
一方で、限られたスペースでの展示会となったため、メディアの方の中には、ご自身のためのアイテム選びもしたいのでお客様向けのご試着イベントの方も見たかった、というお声もありました。ファッションショーのように、メッセージ性を意識すると要素を絞ることも大事ではあるのですが、訪れてくださった方に喜んでいただきたいというシンプルな願いを元に次はどのような展示会にするのか、まだまだ私たちの試行錯誤は続きます。
写真で振り返る、ポップアップにも繋がるソージュ展示会
ブランドからのメッセージという意味合いでは、展示会の世界観で、商品の情報やご試着のためのサイズ展開の準備が整ったタイミングでお客様にもお届けできたら理想的です。そこで、一部の展示什器は「ポップアップでも展示できること」を念頭に製作しました。会場の様子を写真に収めているため、ここでいくつかご紹介できればと思います。
ソージュがブランド立ち上げの時から惚れ込んでいる「エスダブルクロス」シリーズは、今年から来年にかけてさらにアイテム展開が広がる「ライトグレー」を中心に展示しました。パネルにはブランドのアイコンである「コクーンブラウス」を型取り、生地に触れていただける仕掛けに。
ショールームでは、シーズンのキーカラーであるネイビーを中心に、秋冬のスタイリングをご紹介。今年で3年目の展開になるウールリバーローブコートにも新色のネイビーが加わります。同じ生地でジレも加わるため、重ねたり、一枚で着たりとさらに着こなしの提案も広がります。7月に予約販売を開始したヴィーガンレザーシリーズも、展示テーマである「美術館」に合わせてアーティスティックな並べ方をしてみました。「わかりやすい意味を想起させない」形の展示台(上の写真の濃いグレーの台)は、展示会に続く秋冬のポップアップストアでも使用を予定しています。
展示会に続く秋冬のポップアップストアでのお客様へのプレゼンテーションをどう考え、その結果どうなったのか、は後日またnoteでレポートできればと思います。これからの展示会でも、今回葛藤したポイントを昇華できるアイディアが出せるように考え続けながら、既成概念にとらわれない私たちらしいあり方を模索していければと願っています。
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