修正が多いデザイナー向け|デザイン提案の建設的な合意形成のプロセス
前提として、ココで言うデザインは表層設計を指しています。
クライアントワークにおいて、
クライアントの要望が引き出せない
なかなかデザインが通らない
終盤でデザインが大きくひっくり返される
あたりで悩んでいるデザイナーの方、多いと思います。
分かります。
定量的に表せるものと違って、デザインという正解のない定性的な成果物の合意形成はやはり難易度が高いと感じます。
ですが、以下のプロセスによって、建設的に合意形成に向けて進めることが出来ます。
営業提案の商談への参加
初回ヒアリング
デザインプレ提案(ヒアリング)
デザイン本提案
デザイン修正(複数回)
合意形成
営業提案の商談への参加
プロジェクトが始まる前の営業をかけている段階の商談のことです。
なぜ参加する必要があるかと言うと、プロジェクトに対する解像度を上げるためです。
デザインの合意形成が上手く行かないケースは、以下のいずれかに原因があります。
プロジェクトに関する情報の不足
クライアントに意思決定してもらうための材料の提示不足
デザインクオリティの不足
デザイナーの商談への参加は「プロジェクトに関する情報」を仕入れるために有効です。
商談段階で、直接的にデザインに関する言及がなされることはあまりありませんが、「ビジネス観点で達成したいこと・要望」を取得することができます。
これらの情報は、デザインを制作する上で最も重要な根幹の材料になります。
会社の体制によって参加できない場合や、プロジェクト化した段階でデザイナーがアサインされる場合などあると思いますが、セールスメンバーからのまた聞きだとどうしても情報の解像度が下がりますので、極力参加することをオススメします。
初回ヒアリング
デザイン(表層設計)を作成するために必要な情報をクライアントに聞き出す、初回のヒアリングです。
ヒアリングは、準備が非常に重要です。
手ぶらで挑んで「どんなデザインにしたいですか?」なんて聞いたところで、有効な情報は何も引き出せません。
ヒアリングに向けて準備するものは2つです。
ヒアリングシート
ベンチマークシート
ヒアリングシート
ヒアリングシートの詳細は別の機会で書きますが、基本は「今回のプロジェクトで達成したいこと」や「ターゲットとしている顧客属性」など、ビジネス観点での質問項目を用意すると良いです。
他に、クライアント側でVI(ビジュアルアイデンティティ)が策定されている場合は、使用可能なカラーやロゴ等、ブランディング観点での制限の確認項目を用意します。
この段階で、商談参加、あるいはセールスへのヒアリングにより、ある程度の情報は取得していると思いますので、各質問項目の解答欄にはまず「こちら側の認識」を記載します。
単純に「◯◯◯ですか?」と質問するだけだと、クライアントが回答に困るからです。
そうでなく、「こちら側の認識として◯◯◯なのですが、過不足や認識違いなどありますか?」という質問にすれば、クライアントも回答しやすくなりますし、より深い情報が引き出せる場合があります。
ベンチマークシート
デザイン提案の前に、大枠のデザインの方向性を確認して大きな手戻りが発生しないようにするためのシートです。
商談時に得た情報から、おそらくこのあたりの方向を目指しているのではと思われるベンチマークを複数見繕います。
制作物がwebサイトの場合は、ベンチマークサイトのスクショをfigmaなどに貼り付けて提示すると良いです。
ベンチマークは4、5のカテゴリに分け、どのカテゴリがイメージに近いかを探ります。
ヒアリングしながら1、2のカテゴリにまで絞ることで、デザイン提案時に「いや全くイメージと違う」といった事態を回避することができます。
これで初回ヒアリングは完了ですが、重要なのは初回ヒアリングの段階から「常に提案の姿勢でいること」です。
基本的に、クライアントは目的を達成するための有効な表層設計に関しての知見が薄いため、文字通りヒアリングをしてもデザインを起こすための有用な情報が出てくることはあまりありません。
なので、商談で得た情報を駆使してこちら側で情報の整理を牽引をしていく必要があります。
デザインプレ提案(ヒアリング)
次に、ヒアリングで得た情報をもとにデザインのプレ提案を行います。
この際、デザインは必ず複数パターン提示します。最低3パターンはあると良いです。
というのも、前述の通りクライアントはデザインのプロではありませんので、1パターンだけ提示したところで、「うーん…悪くは無いんだけどなんかイメージと違うというか…」のような曖昧な回答しか得られません。
3パターン出すことでクライアントは「指をさすこと」が出来ます。
各パターンのバリエーションはマイナーチェンジでなく、大きく差を出しておくと、クライアントも指をさしやすくなります。
「しいて言うならBパターンかな…。ただメインビジュアルはAパターンの方が今回のプロダクトで表現したいイメージに近いかも…。」のような有用な回答を得られやすいです。
また、(ヒアリング)としているのは、この工程もあくまでヒアリングがメインだからです。
初回ヒアリングで得た情報は実際の「絵」を元にせず議論した内容なので、まだまだ情報の精度という意味では低い状態です。
クライアントが企業・自身の要望を精度高く言語化できるとは限りませんので、ここまで得た情報は、あくまで参考程度に留めておいた方が良いです。
それらの不確かな情報の精度を、このデザインプレ提案の工程で「絵」を元にした議論によってより確実なものにしていきます。
コチラとクライアントの共通認識を形成していく作業です。
で、デザインを提示したところで、ほぼ間違いなく多くの修正が入ります。
インパクトの大きな修正もあると思います。
今回の記事で1番言いたかったのがこの部分なんですが、
この修正を「後退・停滞」と捉えるか、「前進」と捉えるかで、この先の進みが大きく変わってきます。
結論から言うと、クライアントからの指摘は全て「前進」です。
ゴールのデザインを作成するための材料が増えた状態です。
これらの修正を「後退・停滞」と捉えると、「どうしよう、クライアントが満足してない…」「スケジュールに間に合うかな…」という焦りが生じ、冷静さを欠き、さらに修正が増え、永遠に合意形成が取れない負のループに入っていきます。
「引き」を出すために記事のタイトルを「修正が多いデザイナー向け」としましたが、クライアントの頭の中を一発で完全再現できるデザイナーなんていませんので、修正が多いのは当たり前です。
修正を前向きに捉えることで、ものすごく気が楽になるし、建設的に進めることができますよ、ということを言いたい記事です。
そういうわけで、この工程も「提案」としていますが、実態は「絵」を用いたヒアリングの続きです。
「文字」ベースでのヒアリングの時より、より精度の高い情報が得られます。
ここまでが「発散」のフェーズで、ここから「収束」のフェーズに入っていきます。
デザイン本提案
プレ提案により、精度の高い情報が出揃っていますので、ここでようやくデザインの本提案を行います。
プレ提案同様、3パターン用意することをオススメします。
ただ、ここまででかなり方向性は絞れていますので、各パターンの差異はマイナーチェンジ程度で良いです。
ここでもバリエーションに差を出してしまうと、逆にクライアントを迷わせることになる可能性があります。
あくまで合意形成に向けた「収束」のフェーズであることを意識すると良いです。
パターンを出す際は、必ず各パターンの特徴を言語化して提示します。根拠を元にした「推奨パターン」も定義しておくことで、クライアントの意思決定の手助けをしてあげます。
ここでも必ずと言っていいほどなにかしらの修正は入りますが、これももちろん「前進」ですので安心してください。
デザイン修正(複数回)
ここからまた何ラリーか修正と提案が続きますが、デザインの方向性は定まっていますので、最終的に決定した1パターンを元に、細かい修正を繰り返していくだけです。
合意形成
「発散」のフェーズでクライアントを「伝えたいことは伝えた」状態にし、「収束」のフェーズで「こちら側のビジネス的な要望をデザインのプロが解釈して根拠をもって絵にしてくれた」状態にしているので、クライアントは安心感と納得感を持って意思決定することができます。
意思決定には責任が伴いますので、基本的にはみなさん意思決定することを怖がっています。
その不安が払拭できないと、
ココのデザインってこれでいいんだっけ・・・
上司がこの配色嫌がってるんだけど・・・
やっぱりこういうパターンも見たいんだけど・・・
といつまで経っても感覚的な修正が続き、いつまで経っても合意形成することができません。
クライアントの不安の払拭には、
要望が反映されていること
根拠を持って提案できていること
が重要になると思います。
意思決定をクライアントに丸投げせずに、意思決定をこちら側で牽引する気持ちで、どの工程でも根拠の提示と提案の姿勢を崩さないことが、合意形成に向けた建設的なデザイン提案を可能にします。