肉玉そばの誘惑
もともと明治になるまで、四つ足の動物を公に食べる習慣のなかった日本では、肉の取り扱いに関しては、まだまだ欧米にはかなわないと思う。
いやいや、和牛霜降りステーキが!なんて声もあるけど、あれは別枠ですよね。世界のクロサワ、キタノを基準にしてはいけないのと一緒。
肉といえば?
わが国の肉食文化をおおざっぱにとらえると、東の豚、西の牛、でしょう。江戸時代の農耕用家畜の流れで、西日本では牛を食べるようになりました。
ところが農耕馬を活用していた東日本では、馬食にはなりませんでした。可食部分が少ないですし、軍馬にもなりますからね。で、雑食でなんでもよく食べて、早く育つ豚が飼われるようになったとか。
まあ、北海道は羊、宮崎なら地鶏などそれぞれのお土地柄もありますが、「肉食べに行こうぜ!」といわれれば、ほとんどの人が牛の焼き肉だな、と思うはずです。
肉そば
では、肉そばはどうでしょう。立ち食いスタンドで「大将、肉そばって牛?豚?」なんて聞いているひとを見かけたことはありません。そう、店しだいなのです。
とはいえ、私の住む関東圏ではほぼ豚肉です。脂の少しのった甘辛く炊かれた豚肉がヒラヒラとそばの上で舞い踊る光景は悪いものではありません。
七味をハラリと、そばをすするとみせかけて、肉をするするとすすります。甘い脂と熱いツユのコントラストは悪くない、というかステキやん。
肉そばの醍醐味
だいたいのそばがそうですが、食べているうちにトッピングとツユが渾然一体となって、お互いの旨みを相乗効果させていくのですね。
肉そばの場合、少しケモノくさい豚の脂の香りがツユに溶けだし、そばをすすると少し唇が油っぽくなる。肉自体も、ツユの熱気と旨みを吸って、どんどんおいしくなるのです。
あと、玉子をどう扱うかもポイントです。私はツユが濁るのがイヤなので、最初に白身をツルリとツユと飲み込み、少し黄身に熱を入れてからそばと絡めてそばボナーラにして食べるのが好みですね。ここは、人によりけりですが。
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いいこと尽くしのようですが、肉そばはいうほど取り扱い店は多くありません。残念。飯田橋界隈に何店かある、肉そばの名店豊しま、そこから独立した淡路町の豊はるなどがオススメです。