見出し画像

本屋さんが選んだ大学生に読んでほしい5冊の絵本

将来に不安を抱える君に

「ブタノくん のほしみがき」 小沢 正・文 にしかわ おさむ・絵

ブタノくんが直面する悩みは、私たち大学生が経験しそうな仕事についての悩み。ブタノくんがお酒を飲んでいるシーンはくすっと笑えます。人に何と言われても自分の好きなことを貫いてほしい。そんな思いから選ばれた絵本です。

「それしかないわけないでしょう」 ヨシタケシンスケ・作

いろいろな情報があふれる中で、未来が不安に思えたり、大人たちの言葉で怖くなったり、決まった未来しか見えないときに、おばあちゃんの「だいじょうぶ」「それしかないわけないでしょう」が心を軽くするかもしれません。新しい視点がほしいときにおすすめの本。

「ぼくがここに」 まど みちお・詩 きたむら さとし・絵

小さいころに聞いたであろう童謡「ぞうさん」の詩を書いたまどさんの詩。ぼくがここにいることは他の何にもかえられない。地球の上で守られている「いること」の尊さが感じられます。さみしさを感じたときに読んでみてほしいです。

せわしない日々に疲れた君に

「よるのおと」 たむら しげる・作

多くの大学生にとって、夜は、授業の課題やアルバイトをする忙しい時間。しかしこの絵本からは、夜本来の静けさが聞こえてくるようです。スマホを置いて、小さなよるのおとを聞いてリラックスしてほしいと思います。

「世界」 junaida 作

文字がなく、細かにいろいろな世界の絵がページいっぱいに描かれています。最後にこれら1枚ずつの絵が1つの大きな絵の一部であることが分かります。おすすめは絵をじっくり少しずつ見ること。それぞれの物語が想像でき、想像力を働かせながら時間のゆったりとした流れを感じることができます。


この5冊の絵本を推薦してくれたのは、ブックセレクトショップ「の君に本を」(大阪市中央区瓦屋町1-2-11「からほりかわらやえん」103号)の店主、chieさん(52)。絵本が中心の品ぞろえで、コンセプトは「贈り物にこそ本を」。絵本好きにはたまらない本屋さん。開店して2年がたちました。私は、小さいころから本が好きで、本に関わることを書きたいと思っていました。chieさんに取材を申し込むと、快諾していただき、絵本やchieさん自身のことを聞きました。【2年・清水美奈】

――子どもと大人それぞれに、絵本はどんな魅力がありますか

絵と文章が一つになって一つの作品というところが面白いなって思うんですよね。面白い絵本やかわいい絵本はもちろんですが、大人から見てこういう絵はちょっと子どもには怖いんじゃないかな、難しいんじゃないかなという絵本も全然受け入れられていて、子どもの世界は自由だなと思います。絵本は子どもにも分かるように作られているので、短くてシンプルな文章なんですが、すごい深いことを語っていたりします。だから、子どものときだったら単純に楽しいと思って読んでいたものが、大人になって読んでみると自分なりの解釈ができるので違った見方ができるところも面白いと思います。お客様にもいらっしゃるんですけど、大人になって働きだしていろんなことに疲れたりしんどいなと思ったりしているときには、長々とした文章ではなく、シンプルな言葉の方が心に響く場合があるのではないでしょうか。

――どうして絵本を中心としたお店にしたのですか

絵本は学生の時からずっと好きでした。子どもが生まれてから読み聞かせをして、それから絵本にハマって、息子が幼稚園のときに読み聞かせのボランティアグループに入りました。今も所属しているので17、8年たつんですけど、その関係で絵本がすごく好きになって、ライフワークとして本と人とをつなぐことをやっていきたいと思って、本屋を開くとなったとき、絵本かなってなりました。

――書店を開いた経緯を聞かせてください

私は贈り物としてよく本を渡します。でも、世間では、プレゼントに本が選ばれていないんじゃないかな、それが残念だなと思っていました。人に贈り物をするときって相手の環境や気持ちを考えたり、自分の気持ちを届けようと思ったりというときだと思うんですけど、本はそれ自体に物語や言葉があるので、物語と相手の気持ちや環境とがリンクした本をプレゼントできたらより深い贈り物になるんじゃないかなという思いがありました。そういうのを提案できたらいいと思ったのがきっかけです。

――お店を開いていて大変なことはありますか

私は、本屋をしたことはなく、出版畑の人間でもないので、わからないことだらけでした。はじめに店に置きたいと思う本を選んだとき、絶版か品切れ状態で仕入れられない本が100冊以上ありました。置きたい本を多くそろえられなかったのは残念でした。また、新刊だからとりあえず置くということはしていません。まずは見て、読んで、気に入った本しか置いていません。日々の業務が忙しいといろいろと滞ってしまい、そういうところのバランスが難しいとも思います。
私は来店してくださったお客様にいきなり話しかけるんですよ。カテゴリー分けしていることや探し物や相談があったら言ってくださいとか。お客様が3組ぐらい同時に来られたとき、「ご来店いただきありがとうございます」とみなさんに向けて言うとすごいびっくりされたので、私も笑ってしまいました。でも、しっかりとした思いがあるのだから、それをお届けしたい。笑われてもいいかと思って店のことを紹介しています。

――一番うれしかったことは何ですか

お買い上げいただいた後、「選んでもらったやつすごい喜んでくれた」といった感想を時々教えてくださるので、それは本当によかったなと思います。自分用だとしても、私もそうですが、落ち込んだときなどに本を読んで元気を出してきた人間なので、同じように癒しを求めるお客様が「いいな」と思う本と出会っていただけたるとよかったと思います。
この店が本との出会いの場になれたらうれしいなあと思います。本をプレゼントしたことがないという人が来て、「変わったプレゼントでよかった」と言ってもらえるとご提案できてよかったと思います。本の力を信じているので、押しつけではなく本の楽しさを感じてもらえたらうれしいと思いながらやっています。

――ふくふく(本を包装した後につけている手作りの折り紙の飾り)をつけているのはどうしてですか

「贈り物にこそ本を」がコンセプトなので、この店の気持ちをプレゼントと一緒に届けてもらえたらいいと思っているので手作りをしています。本はどの店でも買えるのに、それをわざわざうちで買っていただいたことへの感謝の気持ちを届けたいというのもあります。同じ本を買うにしても、うちで買おうと思ってもらえる何かが必要だなと思ってもいました。うちはネットの店ではない、アナログにこだわりたいと思っていて、せっかく実店舗に来てくれるのだったら、リボンもいいけど、リボンにかわる何かかわいいのが付いていたらうれしいだろうと思っていました。贈られた方もうれしいけど、贈る側も選ぶ楽しみがあるともっと楽しくなるんじゃないかなと思って始めました。

――活字離れが進んでいると言われています

そう感じますね。読みたくないと思っている人に長い文章の本を「面白いよ」と勧めるのは難しい。でも、興味のある内容の本から読んでみたり、「読む」より「見る」楽しみがある本から読んでみたりしたらどうかなと思いますね。それをきっかけに他の本も見るようになったり、そのうち物語の本にも興味がわいたりするかもしれない。物語が全てではないですけど。

――本離れを深刻にとらえているわけではないのですか

「自分にぴったりくるポイントに出会えているかいないか」が大事と思っています。本って面白いものなんだと気づいてくれたら、そのあとは面白い本にどんどん出会ってもらうだけ。そうなると、本は面白くないものという意識がなくなると思うんです。少なくとも「本なんて」という気持ちにはならないと思いますね。今はなんでもスピードが早い。物語を読むというスローな感じがなかなか合わないと感じる子がいっぱいいるでしょうけど、その思いを超えるような面白い本、好きな本と出会えるかどうかじゃないかな。ぴたりとくるポイントはどんな人にもあると信じています。