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【レビュー】ジャイアントキリング 第13節 レアル・ソシエダ - バルセロナ
ついにこの日が来てしまった。
ここ数年でもっとも強いバルセロナを、ホームに迎えての一戦。
レアル・ソシエダは前節のリーガでセビージャに勝利。
調子を上げてきてはいるものの、3日前に行われたミッドウィークのEL第4節でプルゼニに敗れ、なんとなく勢いに乗り切れていない。
一方のバルサはべらぼうに強い。
相手がバイエルン(4-1)だろうがマドリー(4-0)だろうがお構いなしに大量得点をあげ、とにかく勝ちまくっている。
前節、セビージャ戦はこちらから
チームコンディション
📋 Biharko partidarako 𝗱𝗲𝗶𝗮𝗹𝗱𝗶𝗮. AUPA REAL!!!#RealSociedadBarça pic.twitter.com/7Ri4boCRUe
— Real Sociedad Fútbol (@RealSociedadEUS) November 9, 2024
バレネチェアが戻ってきた。
直前のプルゼニ戦後に負傷が伝えられたアゲルドもいる。
スターティングメンバー
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セルヒオ・ゴメスが出ないのは意外。
左SBには第6節マジョルカ戦以来のスタメンとなるアイエンを起用。
ヤマルは怪我のため欠場。
試合結果
1ー0
得点者:ベッカー
🔚 AMAITU DAAAAAAAAAAAAA!!!! A ze garaipena!!! 𝗜𝘇𝘂𝗴𝗮𝗿𝗿𝗶𝗮𝗮𝗮!!! 𝗔𝗨𝗣𝗔 𝗥𝗘𝗔𝗔𝗔𝗔𝗔𝗔𝗔𝗟!!!!!! 💙💙💙#RealSociedadBarça pic.twitter.com/q8yc4pS4hY
— Real Sociedad Fútbol (@RealSociedadEUS) November 10, 2024
チームスタッツ
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まさに堅守速攻。
オフサイドの数も驚異的な少なさ。
シュート位置
前半
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後半
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個人スタッツ
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主だったところを目立たせたが、この試合は特に、個々の数字はあまり重要ではない。
バルセロナの攻撃システム
試合内容のレビューに入る前に、バルサの攻撃パターンと考え方を整理しておきたい。
キーワードを4つに絞った。
・レヴァンドフスキのポスト
・ポジションチェンジ
・リスク回避
・密集と孤立
レヴァンドフスキのポスト
バルサのビルドアップにおいて、最重要ピースなのがレヴァンドフスキ。
その役割を見ていく。
スタートは自陣ゴール前、左のCB5番イニゴがボールを受けたところから。
なお右のCB2番クバルシを起点とするパターンは以降の説明とは少しだけ異なるが、今回のソシエダ戦とは関係がないので割愛する。
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CB5番イニゴはさっそくレヴァンドフスキのポストを狙う。
もしポストに出せない場合は、SB3番バルデを経由。
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トップ下のペドリが右サイドに流れることでマークを引き連れ、その空いたスペースにレヴァンドフスキが下りてくる。
このとき両WGは、次のプレーへの助走として中央に向かう。
レヴァンドフスキの落としを前向きで受けたピボーテから、縦パスで一気にゴールへ迫る。
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これがどう機能するか、ディフェンスを置いてみる。
次の図は、2週間前に行われた24-25CL第3節バイエルン戦での一幕。
バルサのビルドアップに対し、バイエルンは完全マンツーマンのハイプレスで対応した。
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今回のソシエダ戦とは少しだけメンバーが違う(ヤマルがいてフレンキーがいない)が、選手の配置に関しては一緒なのが分かると思う。
で、レヴァンドフスキに当てるとどうなるか。
マンツーマンゆえに、レヴァンドフスキのマーク担当であるCB(キム・ミンジェ)が釣り出され、最終ラインの中央にスペースが生まれてしまう。
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加えて、レヴァンドフスキの落としを受けるピボーテ(ペドリ)のマーカーは、ボールとマークが同一視野に収まらなくなっている。
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一気に縦へ繋ぎ、ハフィーニャが中央レーンを独走しゴールに至った。
ハフィーニャの抜け出しは助走がある分も手伝って、めちゃくちゃ早い。
これが開始1分の出来事。
レヴァンドフスキがポストに下りる動きからのパターンはいくつかあり、これはその1つに過ぎない。
具体例を挙げておくが、その内容にあまり意味はない。
・ダイレクトのフリックで前線に送る
・ディフェンスを背負いながらも前を向く
・レヴァンドフスキはおとりで、直接ウラを狙う
・ポジションチェンジしたハフィーニャが代わりを担う
重要なのは、レヴァンドフスキのポストが攻撃の軸であること。
そして、マンツーマン&ハイプレスでバルサの攻撃を防げたチームはまだいないという事実。
ポジションチェンジ
前線の4人は頻繁にポジションチェンジを繰り返す。
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これにより、マンツーマンで守るディフェンス側の並びが乱されやすい。
ポストに入るのは基本レヴァンドフスキだが、時にハフィーニャが入ってくることもある。
リスク回避
バルサのビルドアップにはリスク回避の意識が浸透している。
たとえばレヴァンドフスキのポストがどうしても狙えない時。
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中央でフリーの味方がいたとしても、自陣の深い位置ではサイドから中へというパスはしない。パスミスやトラップミス、背後からのプレスに気付けていなかった時に、一瞬にしてピンチを生んでしまうからだろう。
そんなことするぐらいならロングボールで前に。
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常に勝つための、徹底的なリスク管理をしているように思える。
密集と孤立
最後は相手陣内まで押し込んだ時の話。
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左WGのハフィーニャも中央に寄り、意図的に密集を作る。
バルサはとにかく誰も彼も基本スキルが高く、ライン間で受けるのも苦にしない選手だらけ。そしてここでも頻繁にポジションチェンジを繰り返し、わずかなスペースを作って使うまでが抜群に上手い。
ちなみにこの密集はネガトラという面からも効果的で、このエリアでのロストなら少ないエネルギーで即時奪回を行える。
相手も中央に寄ってきたら右に孤立させたヤマルで1対1。あるいはヤマルも中に絞ってさらに密集、大外にいる右のクンデと左のバルデからクロスと、バルサは本当に多彩なパターンを持つ。
今回ヤマルがお休みだったのは、ソシエダにとってかなりありがたかった。
試合内容
ソシエダの守備設計
そんなバルサのシステムを踏まえ、この試合の布陣とソシエダの守備設計を見ていく。
注目は4−1−3−2の3、スチッチとブライスがマンツーではない点。
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ブライスとスチッチの2人で3人(カサド、フレンキー、バルデ)をカバーすることで、ソシエダは1人余り、最終ラインで+1が作れる。
両SBアランブルとアイエンはゾーンを重視。
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両WGフェルミンとハフィーニャの裏抜けを警戒しながらも、ポジションチェンジしてくることを考慮し、マークを受け渡せる場面では受け渡す。
スビメンディは8番ペドリのマークと、ピッチ中央のゾーンを担当。
ペドリの動きはスビメンディを中央から引っ張り出す目的もあるが、離してアゲルドに預けると最終ラインが同数になってしまう。なので、明確なポジションチェンジ以外はマンマークを優先。
ベッカーはスビメンディの左脇をケアする意識を持っているが、ペドリのマークを引き受けることはしない。あくまでクンデの担当。
レヴァンドフスキのポストにはスベルディアが前に出て対応。
実際のシーンを見ていく。
前半9分。
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久保はイニゴを離してスタンバイ。
ソシエダは明らかにイニゴからのビルドアップを誘っている。
パスが出たところで、久保がプレスを開始。
イニゴはテンプレに従い、レヴァンドフスキの下りてくる位置を狙う。
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この時はレヴァンドフスキではなく、ポジションチェンジしていたハフィーニャがポストのエリアに進入。フリックから一気にソシエダの裏を狙った。
見てもらいたいのはソシエダのディフェンスの並び。
バルサがポジションチェンジしているにも関わらず配置が崩れていない。
中央のアゲルドがカバー要員として余っているところも完璧。
バルサの得意とするパターンに、しっかりと対応ができている。
問題があったのは、自陣に押し込まれた時。
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例によって中央で密集が起こっている。
よく見ると右WGのフェルミンが中央にこっそり移動してきているせいで、スベルディアが1人で2人(フェルミンとハフィーニャ)を見なくてはならない状況になっている。
このエリアはスビメンディがペドリに引っ張られる関係上、どうしてもギャップが生まれやすい位置であり、バルサの方も注視している印象がある。
なお近くにいるアランブルは左SBバルデの担当であり、もしハフィーニャの対応に行ってしまった場合、クバルシから大外のバルデに綺麗なロングボールが飛ぶ。フリーでクロスを上げられかねない。
ここは序盤からかなり危なっかしく、久保のプレスバックや、ボックスに入られてからのブロックなんかでぎりぎり難を逃れていた。
失点未遂からの変化
前半13分。
やはり自陣に押し込まれたところから、ブライスが釣り出され、またもやスビメンディの右脇にギャップを作られる。フレンキーの前進からシュート、レヴァンドフスキの超反応でゴールを許した。
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(疑惑の)VAR判定により救われたソシエダは、このVARチェックの時間を使って守備を修正。
修正内容は2つ。
ひとつはスビメンディの右脇。
久保の位置を少し下げ、そもそものスペースを狭める。
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大外にいるSBバルデの対応も久保とアランブルで分担。
もうひとつの変更は、まさかのマンツーマン&ハイプレス。
アランブルがプレスに加わる位置を1列上げ、前線からのプレスを強める。
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案の定ペドリに裏を取られるし、フレンキーに中央から持ち上がられるしとでもうヒヤヒヤ。
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それでもアゲルドのスピードやベッカーのプレスバックでなんとか凌ぐと、徐々に流れが変わってきた。
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一応、この2つの修正に関するロジックは分からないでもない。
自陣に押し込まれた局面で、久保の位置を下げてスビメンディの右脇を対応するということは、ポジトラのカウンター時に走る距離が伸びる。
カウンターの成功率が悪くなるだけでなく、トランジション毎の負荷も上がる。ただでさえ体力的にきつい試合で、さらに運動量を求められてしまう。
だったらバルサにはささっと縦に速いお得意の攻撃で攻めてもらって、早めに攻撃を終わらせてもらう。
その分ソシエダは、久保や前線の選手をなるべく前めに残したまま、マイボールにしてしまうという魂胆だろうか。
でも問題は、それでバルサの攻撃をしのげるかどうか。
そのために出来ることは、パスの出どころへのプレス。
バルサが狙ってくる縦パスの精度を落とすこと。
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先に説明した通り、バルサはこの位置でリスクを負うのを嫌がる。
ドリブルでの局面打開はおろか、GKへのバックパスすら絶対にしない。まず間違いなく縦パスを入れてくる。
プレスを強めてミスを誘発できたら最高。でもミスを引き起こせなくても、プレスバック含め、とにかく手を抜かずに走ってなんとかする。
そんなプランに思えた。
ディフェンスの強度を上げ、バルサ相手にハイテンポな攻防を挑んだその姿勢は、無謀にも思える一方で、とてもかっこよかった。
オフェンスの話をさらっと
守備面でのシステムの話はおしまい。
一応、後半に見られたバルサの変化を以下に挙げておく。
・レヴァンドフスキのポストを使う頻度が減った
・中央から繋いでくる展開が増えた
・前半よりも両SBを上げて前掛かってきた
ソシエダの方も直前の局面の流れから久保が最前線に上がっていたり、ベッカーが逆の右サイドに流れていたりということもあったが、人の配置が変わっても守備におけるシステム自体は変わらなかった。
ということで、続いてはオフェンスの話。
といっても本当に少しだけ。
ソシエダはいつもとは異なり、ポジトラから縦に早い展開を志向。
ビルドアップに関してもパスを繋ぐこと自体にはそれほど重点を置かず、バルサの最終ラインの裏を狙うようなパスが目立った。
ポジトラからのカウンターでは、主にSBバルデとクンデが上がった時に生まれるスペースを狙い目としていたように思う。特に右の久保サイド。
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バルデへの守備担当をアランブルに設定していたおかげで、こうしたカウンターに久保を絡めることができる。
そしてバルサの2CBに対して、ソシエダは必ず複数人で裏抜けを狙う。
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オフサイドトラップを狙うバルサに対し、ソシエダは一番前を走るオヤルサバルをおとり的に使う。最終ラインを管理するクバルシがオヤルサバルに反応し、オフサイドラインを止めれば、その背後から2列目が抜け出せるという設計。
パスが出なかったとしても、そのままボックス付近まで運ぶことが出来れば、ゴール前に人数を掛けることにも繋がる。
ちなみにゴールシーンでのスチッチに関して。
直前の前半28分にも同様にバックヘッドでチャンスが生まれたシーンがあったことからも、バックヘッド自体は用意していた形のひとつだったと思われる。
💫 Gau 𝐚𝐡𝐚𝐳𝐭𝐞𝐳𝐢𝐧 bateko gola.#LaLigaHighlights pic.twitter.com/BmjvIHUpf4
— Real Sociedad Fútbol (@RealSociedadEUS) November 12, 2024
オフェンス面は以上です。
短くてすみません。
でもオフェンス面に関しては久保が見せた個の力がソシエダ最大の武器であり、その活躍をここで解説やら形容やらする必要はないと思ったわけです。
とにかくすごい存在感でしたね。
✨ Tiki 𝐓𝐀𝐊𝐄 ✨
— LALIGA (@LaLiga) November 10, 2024
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総評
激闘を制したソシエダ。
判定に救われたところもあったし、バルサの攻撃を完全に防ぎ切れていたという印象もない。
再三あったチャンスを決め切れていなかった点も含めて、勝敗はどっちに転んでもおかしくはなかった。
それでも、マークを剥がされようがずらされようがプレスバックでなんとかするソシエダの気迫と運動量は素晴らしく、賞賛に値する。
バルサがバルサにしかできない攻撃を見せたように、ソシエダもソシエダにしかできない実直で献身的な守備を見せてくれた。
開幕からの苦しかった時期を忘れさせてくれるほどの、最高の勝利だった。
久保選手のプレーに思う、ひとり言
久保に関してちょっとだけ。
この試合、ディフェンス面でとても印象的だったシーンがある。
後半の半ば、GKペーニャとCBクバルシのパス交換に、久保が1人で何度もチェイシングを行なっていた場面を覚えているだろうか。
この時、すでに久保は攻守に渡って何本ものスプリントを繰り返しており、体力的に相当きつかったことは間違いない。
それでも全力でチェイシングを続ける姿は、チームにいま何をすべきかを思い出させ、強度を落とさないための気力を与えた。
いつかのインタビューで、久保はこんなことを言っている。
「シルバはチームメイトを走らせる存在なんです。彼が走っているなら、僕たちがそうしない理由なんてどこにもないですよね。ボールを失って、一番最初に走るのがダビドなんて決まりが悪いじゃないですか。彼はすべてを勝ち取った選手で、もしそうしたいなら歩いていてもいいんです。それでも選手としてのクオリティーは余りある程なので。だけど最初に走るのはいつも彼で、だから僕たちも激しくプレスを仕掛けて、それで多くのボールを奪うことができているんです」
久保の中に、シルバから学んだマインドを見つけた。
とんでもなく胸が熱くなった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。