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【キーパーソンレポート#4】松浦 由美(まつうら・ゆみ)さん/仙台市愛宕橋地域包括支援センター 生活支援コーディネーター

特集【せんだい・みやぎ発!地域の「キーパーソン」に聞いてみた!】
せんだい・みやぎソーシャルハブでは、仙台市を中心に、地域や社会貢献活動で活躍されている「キーパーソン」にインタビュー。今の活動や大切にしてきた想い、今後どんな人の力が必要かなどを語っていただき、みなさんに、「キーパーソンレポート」としてお届けします。

松浦 由美さんプロフィール

看護師(生活支援コーディネーター)。
千葉県の病院で勤務後、アースサポート仙台へ入職。2015年より仙台市愛宕橋地域包括支援センター勤務。地域で活動する様々な団体がつながり合うイベント『地域ワンダー』in 向山 を2022年に立ち上げるなど、地域づくりに奮闘している。


1|「発想の転換」で生まれた坂の街の大イベント


ー『地域ワンダー』in 向山 について教えてください。

毎年秋に愛宕中学校を主会場に開いているイベントです。
「みんなが繋がり合えるまち向山」をスローガンに、地域で活動している様々な団体の発表と交流の場として、2022年に始まりました。
ダンスやカラオケ、和楽器、絵画など、幅広いジャンルの発表があり、毎回のべ300人くらいの方々でにぎわいます。3回目となった2024年には、過去最多の44団体に参加していただきました。
年に一度の大イベントとして住民の皆さんに定着してきたようで、会場の雰囲気は旧友との再会を喜び合う同窓会のようでした。

ーなぜ『地域ワンダー』in 向山 を始めたのですか?

向山は、斜面や丘に住宅が立ち並び、市内でも高齢化が進んでいる地域です。当初は、地域にスーパーマーケットがほとんど無く、狭くて急な坂道が多いことから、住民の移動手段の確保が課題だと考えていました。
2020年頃に提案したのは、「猫バスプロジェクト」という名称で地域内の乗り合い移動手段を作れないか、というものです。
 
しかし、実際に地域の皆さんに話を聞いてみると、予想に反して移動手段へのニーズは高くありませんでした。
「なぜ、客観的に見て不便な環境なのに、住民の方々は移動に困っていないのだろう」。この疑問を突き詰めてたどり着いたのが、「そもそも地域に『行きたい場所』が少ないのではないか?」という結論でした。
仮にそうであるならば、地域の中に魅力的な場所をつくり、外出する機会を増やせないかと考えました。

ー確かに、外出する機会が減ると、介護が必要になるリスクも高まりますよね。

そうです。でも、自分たちで何か施設を作るわけにはいきませんよね。
そこで着目したのが、すでに地域で活動している団体の皆さんです。
実は向山では、介護予防やカラオケなどの様々なグループが存在し、地道に活動していました。
ただ、どこも世代交代に苦心しており、新たな参加者をどうやって集めるかが課題でした。「こうした団体が自分たちの活動をPRできる場があれば、住民の方々が自ら『行きたい場所』を見つけることができるのではないか」という発想が、『地域ワンダー』in 向山 の構想につながりました。


2|住民とワクワクを共有し「包括」にもプラスに

ー新しい試みに、地域の皆さんの反応はいかがでしたか?

2022年に第1回『地域ワンダー』in 向山 を開催しました。初めての試みだったので、私も地域の皆さんも手探り状態でしたが、皆さん好意的に受け止めていただき、ドキドキとワクワクを共有していたように思います。
 
町内会の役員や各団体の方々が地域に広く協力を呼びかけてくださり、第1回には35の団体に参加していただきました。向山でこれだけの数の団体が活動していたことに驚いたのですが、もっと驚いたのは第1回の後に、「うちも出たい」「あの人にも声をかけてみよう」と、新たに参加する団体が増えていったことです。第3回には44団体に参加していただき、次はもっと増えるかもしれません。これほどの潜在的なニーズがあったことに驚きました。
 
もう一つの変化は、私たち地域包括支援センターを気軽に利用してくださる方が増えていることです。地域包括支援センターというと、どうしても介護保険を利用する時に相談するところ、というイメージが強いと思います。それが、地域ワンダーを通じて私やセンターのことを知っていただいたことで、普段から「地域づくりの拠点」として、気軽に頼ってくださる方が増えてきました。住民との心の距離が縮まり、センターの業務にも良い変化が起きていると感じます。

ー素敵なことですね。活動で大切にしていることを教えて下さい。

大切なのは、こちらから参加を押し付けるのではなく、住民自身が『参加したい』と思える場を作ることです。これは初回から一貫して大切にしています。活動を発表する団体の皆さんも趣旨を汲んでくださり、ただ発表するだけではなく、交流を楽しみながらつながりの輪を広げている様子が心強いです。

また、「共生社会」を目指すという理念も当初から大切にしてきました。シニア世代だけではなく、外国籍の方や障害のある方、子どもたちなど、様々な住民の方のつながりを作っていければと考えています。実際、子育て世代などの参加も増えてきました。世代や立場を超えた住民同士の新たなネットワークができてきたように感じます。

3|地域への思いを「一人ひとり」に伝えるところから

ー今後の展開をどのように考えておられますか?

これからは、地域として自立した持続可能な運営のあり方を考えていきたいですね。イベントの運営は決して簡単ではありませんが、地域で協力してくださる方はどんどん増えています。
今回の地域ワンダーには外国人(インドネシア)の方もステージ発表で参加してくださってました。圏域内にある施設で勤務していて、その施設からの推薦でつながっています。
次回の地域ワンダーにも参加し、インドネシア舞踊を披露してくださるとか。私たちの目指す姿が、この度、実現に近づきました。
参加だけでなく、協力金を拠出してくださる団体も増えていて、ゆくゆくは地域の力で自立した運営ができるのではないかと考えています。
これまでは私が中心となって動いてきましたが、これからもずっと関わり続けることができる保証はありません。もし私がいなくなったとしても、誰が見ても運営の流れが分かるような「アクションシート」を整備し、段取りやノウハウを新しい実行委員と共有できる仕組みづくりを進めているところです。

ー地域を何とかしたいと思っている方は多いと思います。
 どうしたら初めの一歩を踏み出せるのでしょうか?

私も1年目は本当に不安でしたが、地域を元気にしたいという思いを、一人ひとりに丁寧に説明し、理解を広げていくことで、少しずつ形になってきました。時には方向性に迷うこともありましたが、つながりを作っていく中で、住民の方々と共に地域づくりができることを実感し、今に至ります。
 
0から1を生むのは確かに大変です。でも、思いを胸の中にしまい込むのではなく、住民の方と一人ずつつながり、巻き込んでいくことで、新しい可能性が開けてくることもあります。私は住民ではありませんが、「働く人」として、住む人たちと協力し合える関係を作ってきました。「地域を元気にしたい」という思いを活動のあちこちで表現しながら、皆が楽しんで活動を続けていければいいですね。

2025『地域ワンダー』in 向山 令和7年11月1日(土)開催予定!
こうご期待!



この記事を書いた人
佐々木 佳(プロボノ)
フリーランス取材記者、仙台市出身・在住。東北地方の新聞社で記者として勤務後、メディアベンチャー、社会福祉法人広報を経て現職。仙台・宮城のマニアックな話題を楽しむWEBメディア『ウラロジ仙台』編集部でも活動中。



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