映画『渇水』感想:社会の規律と人間性の喪失
結構ツッコミどころの多い映画ではあったのですが、業者の視点からの物語というのが結構新鮮で面白かったですね。ちなみに僕は、水道は有料の方がいいと思う派です。限りなく安くするっていう意見なら賛成できるけどね。やっぱり無料にしちゃうと際限なく資源を使う人がでてきちゃうのでね。水は無料でいいんじゃね?っていう意見はわかるんだけど、そもそも水道の水は手間がかかってるので自然の水とはまた別物だと思うですよ。だから、公園の水場のような公共の水源を確保しつつ、個人宅に引くような水は有料でいいよなって思うし、もし水道代が厳しいような家庭であれば、各々で対応するっていうのが現状の最適解なのかなとは思いますね。
映画のシーンでも、姉妹が公園に水を汲みにいくシーンがありましたね。なんかアフリカとかの貧困国の水汲みシーンを想起しちゃいました。実際、水が止められたらああいうふうに対処するしかないですよね。
この映画の不思議なところは、ネグレクトを絡めてる部分なんですよね。まあ水道の停止っていうのと絡めやすいのはわかるなぁ。だけど、ネグレクトってそれ単体で映画が一本成立するような大きなテーマなんで、水がどうこうとかそういうのと絡められると、ちょっと見てる側としては落ち着かないというかね。なんかご都合主義な感じはしました。別の形でも良かったんじゃないかなと思います。結局、ネグレクトの部分はすごく中途半端に終わったなぁという印象。お母さんどうなった。
まあお母さんに関しては、最低だなという感想しかでないです。なんか中途半端に出てきたなぁって感じ。水の匂いがするという意味深なセリフを吐いて、それきり泡のようにぱったり。なんだったんだろう。
求めてるものって、求めているときにあげないと信頼関係も壊れるし、後から埋めようと思っても、もうそのときには相手は求めてなかったりするんですよね。僕はもう戦隊もののおもちゃとかいらないんですよ。求めているときに埋めてあげないとね。埋めてあげなかったことを後悔するのは自分ですから。子供時代ってあっという間に過ぎていくし。どんどん成長していく。埋められない欲求がある姉妹たちを見てるのはなかなか辛かったですね。お母さんが置いて行ったお菓子を投げるしーんとか辛かった。怒りをぶつける相手がいないんだもん。残された残骸に気持ちをぶつけるしかないよなぁって。怒りの裏にある感情は寂しさだから。
一番つらかったシーンは、水道代をお姉ちゃんが自分の財布から払おうとするシーンです。つれぇえよ。くぃいいって言いながら見てました。ほんとなんなんでしょうね。岩切さんも対応が難しかったと思います。業者の二人組が人間らしさを持ち合わせていたので柔軟な対応になっていましたが、そうじゃなかったら全然違ったんだろうね。
僕はね、最近。寂しさを埋めたり、人を笑わせたりっていうことが一番尊いよなあと思っていて。お金なくて水が止まる。そこで惨めな思いをするとか、とっても悲しいじゃないですか。でも、そこで人らしい対応をすると不都合が生じる。でもやっぱり、そういうときは人間らしい対応したいなって思いますよ僕は。表向き、難しいことがあってもなるべく惨めな思いをしなくていいように対応したい。まあそれが簡単でないことはわかる。結局他人ですからね。だけど、うーん。規律やルールを重んじることで、人間性を捨てないといけないのなら、僕はそんな規律やルールは破りたいなって思いますね。社会性を重視することで、人間らしさを捨てたくはないかな。最終的に、岩切さんはそれをやってクビになったわけですが。クビに関しては、どう考えたってもうちょっと柔軟に対応できただろと思うのですが笑
あの水道の水を撒き散らすシーンはめちゃくちゃ謎でしたね。謎というかアートでしたね。岩切さんはアーティストになったほうがいい。あんなんパフォーマンスやん。まああれのおかげで、心を全然開いてくれない姉妹からの信頼を勝ち得たんですけどね。やっぱり信頼を勝ち取るのは、綺麗事じゃなくて共犯や逸脱なんじゃないかって思って。柴田理恵は綺麗事しか言わなかったし、結局表面的な心配しかしてないので、まあ信頼は勝ちとり得ないよなぁと。まあ柴田理恵に関しては、普通にデリカシーが無さ過ぎだけど。
岩切さんについて触れると、僕は最初の対応が好きなんですよね。あの姉妹の家の。一番最初の停水勧告あったじゃないですか。で、お母さんが払ってくれないから、しかたなく止める気マンマンだったわけだけど。子供がプールから帰ってきて、それを見て一週間の猶予を与えてましたよね。なんか、規律だからとか、止めると言ったから、っていうので停水処理を行わなかったのは柔軟な対応ができていいなぁと思ったんです。もちろん、子供の前ではちょっとっていうのはわかる。だけど、それでも停水する人のほうが多そうだなって思って。そこを柔軟に対応できるの、人間味があっていいなって思ったんですよね。で、ただ同情とかじゃなくて、ちゃんと停水はしないといけないっていう部分を持ち合わせたままやってるのもよくて。
まあ僕たちも、生活してたらいろんな業者に会うわけで。そういう人たちから人間味を感じたりするのって難しかったりするじゃないですか。どこかシステマチックうに動いているというか。で、僕たちも業者に対して気に留めないですよね。でも、業者も人間で、葛藤や愚痴や、あそこの家はどうだとか、そういう部分を抱えながらやってるわけですよね。この映画のいいところは、そういう普段の生活で雑に対応されがちな人=業者を描いてるところなんですよね。そして、水道業者っていうのもいい。水道代って、実際一番舐められがちというか。そこに絡む業者も舐められているだろうという部分を描いているのが好き。滞納してる大人たちの対応をみてると、まだ払わんくていいだろ、みたいな空気感がひしひしとでてたじゃないですか。舐めてるんですよね。そういうトップレベルで蔑ろにされがちな業者を取り上げて、その業者の視点から物語を進めていくのがとても評価できるなぁと。
ただ、冒頭でもいったとおり、この映画は違和感がいっぱいあるんですよねぇ。まず姉妹の演技の部分。ターン制のゲームを見ているような感じ。ちょっと掛け合いが不自然だなぁと思って。冒頭の、水が入ってないプールではしゃぐのもあんまり共感できないというか。たぶん子供ってそんなに単純ではないと思う。そういうリアリティの部分でちょっと違和感がありましたね。つっこみどころは結構多くて。業者の岩切さんが川でタバコを吸うシーン。普通あんなところに車止めないよ。とか。時間の経過が分かりずらいとか。そういうちょっとした違和感の部分が結構あったので、そこは残念でしたね。テンプレが多すぎるのも気になりました。水商売の母親、純粋無垢な妹、子供らしく振る舞えない姉。母親の化粧棚ではしゃぐ妹。どれもテンプレのようでどこかでみたような感じ。残念。
とまあ、色々書いてきたけれど、粗い部分に目を瞑ればおもしろい映画だなあと思いました。特に僕は、社会の仕組みと人間性の喪失っていう点について考える上ではいい題材ではないかとおもいましたね。人間らしくいたいし、寂しさを埋めてあげることはとても尊いことだよなぁって思うんですわ。