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【仮面ライダーガッチャード完結記念】プロレスオタクが見る、ガッチャード第5話があまりに素晴らしすぎるという小話

仮面ライダーガッチャードが本日最終回を迎えました。
まずは、演者、スタッフ、関係者の皆様、大変にお疲れ様でございました。

前作の評価が高かった分、携わる方々のプレッシャーはかなり大きかったと思います。しかし、まっすぐで見ていて気持ちのいい主人公である一ノ瀬宝太郎をはじめ、個性豊かで魅力的なキャラクター達、少年漫画のように熱く、時に悲しく、美しい物語は、毎週多くの視聴者の心を強く動かし、大きな楽しみと原動力となりました。

さて、そんなガッチャードですが、お気に入りの1話を選ぶとしたら、やはり第5話「燃えよ!斗え!レスラーG!」でしょう。
このエピソードは視聴者からの評価も高く、「ガッチャードはプロレス回から面白くなる」なんて言葉を見かけることもあります。実際エピソードとしての完成度は高いのですが、個人的には製作陣のプロレスに対する理解とリスペクトがとにかくすごい印象です。もうほんと、仮面ライダーを見たことないプロレスファンにも堂々と自信を持ってお勧めできる回だと思います。

ガッチャード全体の感想はおそらく他のクリエイターの方々がたくさん書いてくれるだろうと思いますので、今回はお気に入りの第5話について、プロレスファン歴13年くらいの僕の視点から、この回がいかにリスペクトの込められたエピソードであるかを語らせていただきます。

あらすじ

ラケシスの蟻迷宮から協力して無事抜け出し、絆を深めた宝太郎とりんね。
次なるケミーライザー反応のもと、蓮華、錆丸たちと向かったのは、廃業寸前のプロレスジム。
そこにいたのは、ジムのオーナー「旭」と、プロレス人形に憑依したケミー「レスラーG」。
なんとレスラーGは、廃業寸前で地上げにあう旭のジムを守っていたのだ!そして旭も、レスラーGとともにリングに上がり戦うことを夢見ていた。
『ケミーと共に生きる』という新たな可能性を目にした宝太郎たち。
しかし、そこに立ちはだかる「ケミーの掟」、「ケミーを目撃した者の記憶、そして記録全て消し去るべし」。
旭とレスラーG、そして宝太郎たちが出した答えとは?

仮面ライダーWEB【公式】より

宝太郎たち一行がケミーを追いかけてやってきたのは、プロレスジム「旭プロレスジム」オーナーの旭はケミーのレスラーGと共に、廃業寸前のジムを地上げ屋から守っていました。

個人的にすごくいいなと思ったのが、プロレスジムという設定。日本国内ではプロレスラーになるというと何かしらのプロレス団体に入るというのが一般的。しかし、普段プロレスを見ない一般層からしてみれば「野球やサッカーのチームに入るなら分かるけど、団体っていうのはイマイチ分からない。チームと何が違うの?」と。あまりピンと来ない事が考えられます。そこでボクシングや格闘技などで一定の認知があるジムというのは落とし所として非常に上手い設定。かつアニマル浜口ジムやアメリカのプロレスアカデミー等の実在性からしてみても違和感のない設定です。

そしてもう一つ。廃業寸前のジムに地上げ屋、もといヤクザが押し寄せてくるのですが、プロレスと暴力団の関わりというかなりマニアックな点を攻めているなと。というのも、今でこそプロレス業界のみならず社会全体でコンプライアンスが求められたり、プロレスラーが暴力団撲滅大使を勤めたりと、プロレスと暴力団の関係性は既に断ち切られましたが、戦後間もない頃のプロレス業界と暴力団の関係はまさに公然の秘密。日本プロレスの父である力道山が現在も続く指定暴力団の大物組長と親交があったりと、少なからずその関係性は薄くありませんでした。(ちなみに先述の力道山はナイトクラブで暴力団員に自分から因縁を吹っ掛けた結果、腹部を刺され負傷。それが原因で急死したのは有名な話です)
今でこそ関係性は続いていませんが、日本プロレス史を語る上で欠かすことのできない、もとい昭和プロレスの一種のパブリックイメージが連想されるような描写です。無論、製作陣がそこまで意識したかは不明ですが、プロレスを知っているからこそニヤッとさせられるワンシーンです。

風車式バックブリーカーというチョイス

地上げ屋を追い返したのも束の間、今度は元プロレスラーの剛力が現れ、ゴリラマルガムに変貌します。宝太郎はガッチャードに変身し応戦しますが、ゴリラマルガムは必殺技の風車式バックブリーカーでガッチャードを追い込んでいきます。間一髪、味方であるヴァルバラドが現れゴリラマグナムを追い返し、宝太郎はなんとか救われます。
旭曰く、剛力は一度キレると手がつけられない壊し屋。しかも相手レスラーはおろか観客にまで手を出すという文字通り危険な男です。宝太郎は旭のプロレスとジムへの情熱に心打たれ剛力と戦う事を決意しますが、剛力にを破るには彼の必殺技である風車式バックブリーカーを打開しなければなりません。そんな時、レスラーGが旭に憑依、旭は現役時代のレスラーに変貌します。旭の大切なジムを守るため、旭、そしてレスラーGと共に風車式バックブリーカーを破るための特訓が始まります。

壊し屋というプロレスにおけるセンシティブな事柄だったり、剛力役の納谷幸男氏がDDTプロレスリングに所属する現役のレスラーだったりと注目すべき点は多々あるのですが、個人的に「お!」っと思ったのが、剛力の必殺技が風車式バックブリーカーであるというチョイス。プロレスの古典技でありながら、相手を一回転させて自分の膝に落とすという初見でもインパクトが大きく、かつ痛みの伝わる理想的なチョイスです。後述の剛力との決戦でも記述しますが、この回のプロレス技のチョイスは基本技や古典的な技が多く、特撮技術に頼らないプロレスラーの素の強さや技術をできるだけ表現するよう意図されたように感じます。

剛力との決着戦

翌る日の朝、剛力が再びジムに現れます。迎え撃つは特訓を終えた我らが仮面ライダーガッチャード、2人はそれぞれ変身し、時間無制限一本勝負のゴングが打ち鳴らされます。
特訓の成果を発揮しゴリラマルガムを追い詰めるガッチャード。痺れを切らしたゴリラマルガムはついに必殺の風車式バックブリーカーを放ちます。しかし、華麗な切り返しで風車式バックブリーカーを回避。再度ゴリラマグナムを追い込みます。そんなガッチャードの姿に心動かされたのか、レスラーGがセコンドにいる旭になんと憑依。理屈を超えた奇跡によって現役時代の力を取り戻した旭とガッチャードのツープラトン攻撃によりゴリラマグナムを見事撃破。剛力に勝利しジムを守り抜きました。

やはり注目すべきは剛力との一戦。ゴング直後の間の取り方やロックアップ、実際の試合でもよく見られる攻防を交えたグラウンドから、特撮番組らしいダイナミックなロープワークを見せます。このシーンではCGや特殊演出は使わず、スーツアクターの動きやカメラワークで試合のダイナミックさに拍車をかけているのが実に見事です。セカンドロープに飛び乗ってからのフライングエルボーのシーンについてはおそらくワイヤーアクションが取り入れられていますが、メキシコの伝統的なプロレスであるルチャ・リブレの動きを仮面ライダー風にアレンジしたように感じ得ます。カウンターのダイビングエルボーも世界的に有名なプロレスラーであるAJスタイルズの得意技、フェノメナール・フォアアームを彷彿とさせる見事な空中姿勢でした。

そして、特訓の成果でもある風車式バックブリーカー対策。それは回転させられた勢いを活かし腕固めへ移行するというなんともオーソドックスかつプロレス的な方法でした。相手の技を切り返してカウンターを行うのはプロレスではよく見られる光景ですが、それを基本技である腕固めで返すという意外性も含めて唸らせられました。考えすぎかもしれませんが、プロレスラーでもない宝太郎(ガッチャード)に古典技の風車式バックブリーカーをなんとか打開させるとなると、技術の必要な技や動きではなく、あくまで基本技である腕固めが最も有効かつ習得に時間をかけさせないという旭なりの判断だったかもしれません。こういった細かいところから、旭のプロレスラーとしての技量、さらに指導者としての上手さが想像できます。

そして、この回1番の見せ所である旭&レスラーGとガッチャードのツープラトン攻撃。ゴリラマルガムの打撃を受け止め、腕をロックするとともにガッチャードの攻撃をアシストする一連の動きは、往年のベテラン技巧派レスラーを連想させます。ガッチャードに授けたの技が腕固めだったりと、「実は旭は現役時代、技巧派のレスラーだったのではないか」と妄想を掻き立てられる動きです。また、直後のダブルラリアットのシーンでも、プロレスの力強さ、迫力を表現するため複数アングルで技がヒットする瞬間を写し、かつ汗が飛び散るエフェクトも加えることで、迫力を十分増しています。こういった演出は普段プロレスを見慣れている層にも新鮮かつダイナミックに映るよう考慮して演出されたのではないでしょうか。
また、旭のコスチュームが緑とシルバーのロングタイツ(かつマスクマン)というのも、往年の名レスラーである三沢光晴選手を連想させ、プロレスファンとしてはニヤリとさせられます。

そして、トドメは必殺技のライダーキック。ここでもプロレス風にドロップキック式で、しかも相手をロープに振り、帰ってきたところをカウンターで放つという徹底っぷり。最後までプロレスで見られる光景を活かした、製作陣のプロレスへのリスペクトが感じられるシーンです。ドロップキックというと入門した新人レスラーが受け身の次に教えてもらう技。プロレスの基本中の基本とも言える技の一つです。それを仮面ライダーのお家芸であるライダーキックし昇華しフィニッシャーとして持ってきたのは、まさに発想力の勝利。風車式バックブリーカーにしろカウンターの腕固めにしろ、最初から最後まで徹底的に基本を重視した演出、否、プロレス的に言うならセンスのある試合の組み立て方と言えるでしょう。

タッグ解消、なれど…

 錬金術の掟により剛力は記憶を消され逮捕、旭もレスラーGとの別れ、そして彼との思い出の記憶が消される事を受け入れます。ゼロからやり直すという旭を追いかけようとするレスラーGを突き放す旭。宝太郎たちはレスラーGの悲しげな叫びを聞き、人とケミーが共に暮らせる世界の実現へ決意を新たにするのでした。

錬金術の掟により、レスラーG本人(本体?)だけでなく、その記憶をも消されなくてはならない旭。その背中をレスラーGは追いかけますが、もうこのジムはレスラーGの居場所ではないと突き放す旭。しかし最後に、もう一度夢を叶えられたことに感謝し、ジムへと去っていきます。
タッグ解消。そこには裏切りや引退など様々な理由が存在しますし、大体はビターな終わり方です。旭とレスラーGのタッグ解消も、作中の独自的な設定こそあれど、タッグ解消というビターな気持ちを十分に表現し切っています。たった1回のタッグ結成。しかし、2人の絆や歩んできた時間という行間が感じられる名シーンです。

何回も繰り返しますが、この回は最初から最後まで、製作陣の徹底的なプロレスへの理解とリスペクトに満ち溢れています。ガッチャードは製作陣の丁寧な作品作りが魅力の一つだという声が多いですが、この回はその代表格ではないかと思います。
また、CGや特撮技法は最小限に抑えられ、あくまでリング上の生身の戦いをカメラワークや演出でさらにパワーアップさせるという、プロレスの魅力を昇華させ表現している、ある意味プロレスの新しい可能性の一つとも言えるような回でした。旭とレスラーGにも負けない、プロレスと特撮という新しい名タッグの可能性が存分に感じ得ました。

おそらくこのnoteを読んでる方の大半は、プロレスは好きだけど仮面ライダーは見た事ない。逆に仮面ライダーは毎週見ているけどプロレスは見た事ない。という方が殆どだと思います。そんな諸兄方にはぜひ、それぞれ見た事ない方を見ていただければ嬉しい限りです。

ガッチャードで表現されたリングでの攻防を生身の人間がバンバンやっているのがプロレスです。また、試合以外にも選手間、更には団体間の因縁や歴史、絆がこれでもかとリングに溢れています。
仮面ライダーも今回の様に、それぞれのモチーフやテーマへのリスペクトに満ち溢れた製作陣が心血を注いで作っています。50年という年月の中、様々な作品が世に出ては愛されてきました。きっと、読者諸兄のそれぞれのお気に入りの作品にきっと出会えるでしょう。
お互いについてよくわからなくても、十分楽しめる要素はたくさん存在しますし、人生を生きる力を与えてくれるに違いありません。

最後に改めて、演者の方々含む製作陣の皆様、大変お疲れ様でした。そして1年間、素晴らしい作品をありがとうございました。
ガッチャ!仮面ライダーガッチャード!

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