美と畏怖
目指せスーパースター。蕎麦宗です。
一度帰宅して夕飯を済ませた後に、所用があって三島へと車を走らせた。
雨はまだ小降りでワイパーはゆっくりのまま、その先の光の明滅をフロントガラスに映しながらハンドルを握る。韮山と三島との間は、直線距離にしたら10kmあるかないかなのに、
『ここでいつも天気が変わるんだよな』
という*蛇ケ橋を渡り国道136号線をひた走ると案の定、大粒の雨に変わった。ワイパーを速めて拭った先にはまだ、壊れた蛍光灯のような青白い光が、分厚い夕闇の雲を照らしている。
雷雲は御殿場あたりだろうか。流れに乗りつつも車のスピードは少し落として、音すら聞こえない遥かな遠雷をガラス越しに眺めながら走る。
ふと、思う。
『綺麗だな』
と。
あの一瞬の怒号とともに光るその場所に思いを馳せれば失礼極まりないはずなのに、なぜ不謹慎にも美しいと思うのだろう。
過日、田園から遠く見渡した線状降水帯と思われる土砂降りのカーテンも、山の緑を背景に西から東へと風に乗って流れる様は北欧のオーロラのように美しかった。あの豪雨の真下には自宅があり、薄いカーポートの屋根は穴があきそうな勢いで叩きつけられているに違いないのに。
でも、子供の頃から変わらない田舎者の僕は、いつだってあの《美しさ》と同時に存在する自然への《畏怖》を忘れない。薔薇の花と茎の棘が一つのものであるように。
三島へと着いた。まばゆい閃光が怒涛の雷鳴と合わさり、瞬時に地面を叩きつける。さらに強くなった雨の前にワイパーは意味をなさない。ボンネットは滝壺で打たれる僧侶の頭。水飛沫に隠れた先の光の閃は、それでもやはり、美しい。
よし、ガンバラナシませう。
*蛇ケ橋…狩野川の支流来光川にかかる橋。函南町のここを境に天気が変わる。
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