サンタクロースは本当にいる その③【三嶋大社と鉄博(てっぱく)】
約束の時間に蕎麦宗に皆が集まると妻が見送ってくれた。来客があるので一緒に行く事はできなかったからで、自分とコウノスケ、そして芸術家姉妹の4人で『鉄道模型展』に行くこととなった。
向かう先は三嶋大社の宝物館。一階のギャラリースペースがその会場で、そこまでの道すがらもコウノスケはずっとソワソワしている。到着して扉を開ける。目線の高さと同じくらいのところに大きな高架線路が飛び込んできた。単純なオーバル型の線路の一方の直線にはホームが並び、修理用の車庫まで建ち並んでいる。そう、この*レイアウト、新幹線の三島駅を再現しているものだった。さすがは地元の愛好家の展覧会だけある。そして、しかも巨大だ。東海道新幹線のフル編成は16両あり、1/160縮尺の*Nゲージですら4m以上ある。それが真っ直ぐの矢となって走り抜け、駅のホームへと滑り込む様が再現されていた。
実際の線路も、三島駅を出て新大阪方面へ向かうと車両整備基地の建屋が途切れ、本線が下ってゆく横に水平の立体高架橋が見える。新幹線に乗ることが一年に一度の贅沢だった子供時分には、じっくりと眺めていた。まるであの名作アニメ《銀河鉄道999》で機関車999が地球を飛び立つ時の線路のように思えて興奮したものだ。
その頃の僕の興奮と同様、いやそれ以上の高揚感を小さな身体中に満たして、アングルを変えながらあちらこちらで観て回っている一人の少年がいる。コウノスケだ。控えめな性格の彼のこと、決してその喜びを爆発させるような派手な仕草をする訳ではない。それでも、嬉しそうに、楽しそうに、興奮冷めやらぬ素ぶりを隠せずにいるその姿は、帰り際に彼らと別れるまで続いていた。
後日、コウノスケから連絡が来た。
『お父さんに鉄博へ連れて行ってもらった』
と嬉しそうに伝えてくれた。母親が付け加える。東京へ帰宅したあともコウノスケノの興奮は冷めなかったようで、その姿を見た父親が「そんなに好きなのか、鉄道」という事で父子で一緒に行ったようだ。もちろん、あのHOゲージの巨大ジオラマも見たといい、感激した様子が手に取るように浮かんだ。
その話を聞いて僕も嬉しくなったことは説明いるまい。面映ゆい気持ちもありつつも「なんだかいい事した気分だね」と妻と二人で話した。
そんなコウノスケも一年また一年と大きくなり、圧倒的な鉄道に関する知識を手に入れ、増やしていった。やがていつしか、もう母が付き添わなくとも一人で伊豆まで来れるようになっていた。違うルートで*乗り鉄しながら蕎麦宗に一人でも寄ってくれた。そして来るたびに*鉄分は濃厚になって、今度は僕が教えてもらう立場に代わっていった。
だから、あの時、僕の鉄道模型コレクションを彼にあげようという気持ちになったのは必然だった。つづく
*レイアウト…模型の線路をつなげ構成したもの。風景をシーナリーと呼びそれらを総合的に造ったものをジオラマという
*乗り鉄…色々な鉄道路線や車両に乗る事を主とする鉄道趣味の志向
*鉄分…鉄道好きの度合いをこう呼ぶ
#鉄博 #鉄道模型 #親子で出掛ける #銀河鉄道999 #三嶋大社
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