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暮らしのはじめに椅子ありき

 旅するスーパースター、蕎麦宗です。

 年始に発注していた、蕎麦宗の奥のテーブル席用の長椅子が入荷した。JLモラー社の63Aというモノで、カウンターに並んだ【Yチェア】とのデザインテイストをバランスよく収めることが出来た。

 これらの椅子は

《お客さんに長居をしてもらう》

という、蕎麦屋としてはあまり一般的でない蕎麦宗の新しいコンセプトを体現するための一環。
 これら名作椅子を知ってる方も知らない方も、皆さんごゆるりと快適に過ごされているようなので僕としても満足!奮発した甲斐がありました。

 さて、その搬入の時に静岡の北欧家具店《クラフトコンサート》さんと話して共通したのは、

『暮らしを始めるにあたっての家具選びはまず椅子ありき』

、ということだった。

 一般的に新居を構える際に、多くの方がダイニングセットやらキャビネットやらと全てを揃えんとする。ゆえに合算すると高額となり、限られた予算的には無理が祟ってしまう。
 それならば、注ぎ込むべきは何か?となり、その答えが現代生活の中で*一番長い時間を過ごす《椅子》、とあいなった答えがそれ。

 ダイニングテーブルは、例えばビールケースを積んで、ベニア板敷いて、お洒落なテーブルクロスでも掛ければひとまずこと足りる。収納は段ボール箱積んでも、ニトリやコストコでとりあえずでも良かろう。その分の予算を自分の気にいる《ホンモノ》に傾注させて、思い切り奮発して良い椅子を手にするのが理想、だと思う。

 これから新生活を始める若者はもちろん、最近は《おうち時間》の大切さを実感している人も多いだろうし、子育てがひと段落して余生を迎えるための準備を始めた同世代も居られるはず。そんな方々はぜひ《椅子》選びに精を出してみてはいかがかな、とお伝えしておきましょう。

 さて、そんなこんなで意気投合した後に、僕は再び《クラフトコンサート》さんへと伺い、これまた悩ましい体験をしてしまった。
 続きは次回に語るとしましょう。

 では、ガンバラナシませう。

*一番長い時間…単に時間的には寝具。でも寝ていて意識がないので二の次とする。人生の1/4は睡眠時間なので、大切な時間ですけどね。

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JLモラー63AとアルテックAMA500(照明)

 では、続きの後半。

《お客さんに長居をしてもらう》

という、蕎麦屋としてはあまり一般的でない蕎麦宗の新しいコンセプト。これを体現するための一環として、カウンターにはカールハンセン&サン社のYチェアを7脚揃え、奥のテーブル席にはJLモラー社の63Aという長椅子を用意した。

 さて、その搬入の時に静岡の北欧家具専門店《クラフトコンサート》さんと話して意気投合したのが

『暮らしのはじめに椅子ありき』。

で、その後《クラフトコンサート》さんへと伺った際にした《悩ましい体験》、それが【ザ・チェア】である。

 移転した別館への案内を受けてあれやこれや見て廻るなか、2階へと階段を登りきった角の一段高くなった目線の先の棚に、燦然さんぜんと煌きらめくその椅子。Yチェアと同じくハンス.J.ウェグナーのデザインで、かのケネディ大統領がニクソンとの対談にて使用した際、そのあまりの座り心地に

『これこそ,椅子の中の椅子だ!』

と言った逸話から【The Chair(ザ・チェア)】、と呼ばれるようになった。その日にはまだ、この逸話を知らぬ僕でさえ、神々しい佇まいに息を呑む程だった。これはなんとも優美で、堂々たる品格と存在感。繁々しげしげと眼で舐め回して眺めていたら、そこにクラフトコンサートの店主さんが一言添える。

『座ってみる?』

『えっ,イイんですか?!』

と,図々しいこの僕がこう返答したワケは、後ほどの説明を待って貰おう。店主さんは小柄な身体をめいっぱいに伸ばして肘掛けの袖を掴み、ゆっくりと棚から下ろしてやさしく床に置く。それに手を添えていた僕は、*ジーパンのポケットから財布とクルマのキーを取り出し側そばに置き、【ザ・チェア】の革張りの座面にはんなりと腰を下ろした。

『ヤバいっ。これ座っちゃダメなヤツですね』

思わずこぼれる笑みに、店主さんもニコリ。このところ【Yチェア】の座り心地にいたく感激して悦に入っていた気持ちを、さらにふた回りほど大きくして包んでくれる【ザ・チェア】。広げた掌で肘掛けを撫で摩さすりながら、丸めた背中を背もたれに乗せる。うわっ《至極》、のひと時。正直言ってYチェアがかすんでしまった。勿論,アレはあれでとても素晴らしいモノだのに。

『いや、ヤバい!久しぶりですよ、この感覚!』

僕は【オガハウス】で最上級のウールジャケットに袖を通したあの瞬間を思い出し、かの入店試験の話をサラリと披露した。そしてチラリと値札を見遣りながら二回、ゆるりと顎を縦に振って頷いた。なぜならこの椅子、100万円超え価格の一品だから。

『その手のと同じね。これ以上はないから』

『いや、これは…座っちゃダメだ』

恍惚な悦楽に身動きさえ取れぬまま柔らかく固まった僕に、クラフトコンサートさんはもう一言添える。

『蕎麦宗さん、いくらだったら出せる?在庫品だから特別に〇〇万円ならイイわよ』

すっかり《強欲》に取り憑かれている僕も、さすがに我に帰る。なぜって、値引きされてもウチのあのYチェアが6脚買える価格。テレホンショップみたいに『うわ〜、それってお値打ち〜。社長、安〜い』とはならない。

『まぁ、ちょっと無理ですけど…いや、欲しいな、〇〇万か〜、いや、イイなぁ』

手持ちがありもしないくせに、買う買わないの逡巡しゅんじゅんもマヌケてる。しかし、ちょいとこれは手に入れたい。そこまで思わせる座り心地、つまり《至極》。そんな悩ましい体験だった。

 帰り道。借り物の軽自動車のシートに、肘やお尻・背中に残った感触の反芻はんすうを転写して浮かべながら、あの【わらしべ長者物語〜】の東京タワーを想い出し、《欲》に喜んでいるこの自分に重ねた。そして翌日、バイトに入ってくれたyuto君にその話をする。

『宗さん、買っちゃいますね、多分』

と、横でニヤニヤと笑顔を浮かべる大学院生。

『いやぁ、イイなぁ〜!あれ欲しいは!久々のアホな物欲だよ。フェラーリだな、まさに!』

 そんなワケで、久しぶりの《欲》と《感激》に心躍ったのでした。うん、いま、ちょっとアレを手にするのは目標です。ひょっこり蕎麦宗に置いてあったら席料upチャージでどうぞ!なんてね。みんなに蕎麦食べに来て貰わなきゃなっ。って《もりそば》何枚分よ(汗)

 ははは、ガンバラナシませう。

*ジーパンの…傷などつけないようにするマナー。どんな価格の家具でも売り物は売物。時計とか気をつけましょう。

ザ・チェアとJ.Fケネディ

#わらしべ長者物語 #ザチェア #欲 #おうち時間の過ごし方


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