旅立て赤い靴
旅するスーパースター、蕎麦宗です。
前回描いた、夏の終わりの魔女体験にての
『光る先へ進むために、手放せ』
というアドバイス。それは魔女Kさんのヘッドスパの施術の中で、オラクルカードから伝えられたメッセージだった。
それからというもの、思い浮かんだモノ・コト・ヒトをひとつずつ少しずつ手放している。そんな最中、部屋のオブジェになっている古い足踏みミシンの、小脇に飾ってある赤い靴が目に入った。亡き妻・ユミが使っていたもので、スペインの《エルナチュラリスタ イグドラシル》。手にとって埃を払う。天然ゴムのソールもまだ柔らかく、赤い皮も艶やかなままだ。ふっと、
『もう少し旅がしたい』
と、そんな声が聞こえた。
魔女や霊媒師以外の、僕と同様なフツーの人には、靴を擬人化して捉えているのだと思って貰えばいい。この靴は10年前に二人でイタリアへの旅をするために買ったものだった。はじめての海外旅行で、彼女にとっては最後の旅だった。
その赤い靴の声に応えて、『誰かに履いて貰おう』と、そう思った。
浮かんだのはバイトスタッフのMさん。背格好もユミと同じくらいだし、彼女がやっていたお店《ひむ香》のお客さんでもあった。そして何より旅が好きな方。写真を見せて、靴のサイズを訊ねる。『実際に履いてみて決めていい?』との返答。『もちろん』。
なので直近のバイトの日に、仕事前に履いてもらおうと持って行く。すると、
『何これ、ピッタリだよ!サイズも形も!』
例え、見た目が気に入ったとしても寸法が同じであっても、フィット感や履き心地は履いてみないと分からないのが靴。
『そっか!じゃぁ、せっかくだから貰ってよ。でね、お願いがひとつだけ…』
僕はこの靴を履いて旅して欲しいと話した。するとMさんが尋ねる。
『ユミさんはどこか旅したい所ってあった?』
『韓国には行きたいって言ってたな、俺が興味なくて行かず仕舞いだったけど。でもね…』
僕はこう伝えた。《亡き妻の代わりに》旅をして欲しいのではなく、まだまだ元気なこの靴からの声が《旅をしたい》という切なる願いだ!と。
そういうMさんも色々な事情もタイミングも重なり、あまり旅を出来ていないようだ。旦那さんや息子を置いてプラっとフランスへ行ってしまうような人なのに、このコロナ禍は勿論のこと、なんとなく脚が重くなる時があるのも仕方ない。
『この靴をどこかへ連れて行ってあげてよ!。そして反対に…きっとさ、この赤い靴がどこかに連れて行ってくれるよ!』
その日、あの【太っ腹礼賛・ランボルギーニ】の渡正さんご夫妻も来て、ビックリするようなシンクロニシティもあって、沢山笑って色々と楽しい一日だった。だからとても賑やかだった。僕の静謐な心境とは裏腹に。
なぜならこの日は亡き妻・ユミの7回目の命日。でも、ユミも僕も、悲哀に暮れる時間を望んではいない。
さて、赤い靴。その他の遺品は7年前の四十九日が終わるまでに、義母と共にほとんどを整理した。友人知人に貰って頂いたりして、使ってくれているのは本当に有難い限り。あの頃、なかなか手放せずにいる僕に、そして潔く手放す僕に、ユミの親友・ミッキーはこう言っていた。
《物への執着と愛着は違う》
と。その言葉はとても救いとなった。ならば手元に置くのも、手放すこともまた愛情。それに、モノにも《意志》がある、と僕は思っている。それを自分の思慕だけで引き留めてしまうのはエゴなのではないか。ゆえに今、前に進むために手放そうと思う。この靴の他、数点残っているものも区切りをつけよう…。
だから、【旅立て赤い靴】。きっとまた新しい旅路が始まるのだ。そして、未来は一歩づつ近づいて来る。
さてと、ガンバラナシませう。
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#あの選択をしたから