走れ、踊り子
目指せスーパースター。蕎麦宗です。
本格的に梅雨空となり、毎日の雨に致し方なく電車通勤をしている。さすがに毎日では乗り鉄気分とは行かず、ぼ〜っとふつうに通うのみ。
帰路。ほんの少しの雨の合間に傘をささずに蕎麦宗を出て、三島田町駅まで歩いている途中の1つ目の踏切を渡り終えると、鐘が鳴り遮断機が降りはじめた。
「走れ!」
この場所で下り列車が来るのなら、間に合う事を知っている。待っても15分。田舎にしてはたいした待ち時間ではないものの、つい急ぎたくなるものだ。線路沿いの道を走り御殿川を渡る小さなガーター橋をくぐり、2つ目の踏切を過ぎる頃にその列車が踊り子号だと分かる。
以前【サフィール踊り子】という記事で書いたように185系踊り子号の運行も残すところあとわずか。この昭和を代表する国鉄最後の特急は、伊豆箱根鉄道区間に限って特急料金なしで乗れる。しかも自分の降りる伊豆長岡駅までの間、大場駅以外の4駅を通過するので特急気分まで味わえ早く帰れる。だからなおさら急いだ。
*切符を買っているところへ踊り子号が滑り込む。それがなぜかいつもは1番線なのに地下通路をくぐらないといけない3番線に停まった。なぜ?。それはいずれ真性の鉄ちゃんに聞くとして、とにかく走れ!。階段を駆け下り駆け上り、なんとか間に合った。
こんな時に役立つものでランニング始めていてよかったと、呼吸を落ち着けながらシートへ腰掛ける。*E235系みたいな今時の通勤電車の方がよほど座り心地も乗り心地もいい。これでも特急、さすがは昭和で老朽化は否めない。でもこのノスタルジーは捨てがたく、クルマでいうところの旧車の味わい。
40年近く東京と伊豆をつなぎ走ってくれた、緑の斜めのストライプを伊豆長岡駅で見送って跨線橋をのんびりと上ったり下ったり。改札を出て少し歩いて北側の踏切を渡ろうすると遮断機が降り、今度は上りの踊り子号がやってきた。大仁駅で踊り子同士のすれ違いだったのだろうか。そうして目の前を過ぎて行く緑の斜めのストライプをまた見送る。
「走れ、踊り子」
三島方面へ向かって小さくなってゆく踊り子号を踏み切りの真ん中に立ってしばらく眺めていた。そこへ突風とともに大粒の雨が降ってきた。
「走れ!」
風にひっくり返る傘に引かれて急いで踏み切りを渡りきり、駐輪場の屋根の下で雨宿る。折れ曲がった傘の骨を延ばしながら、梅雨空を見上げて恨めいた。
まぁ、ガンバラナシませう。
*切符…伊豆箱根鉄道は未だ切符のみでSuicaなどが使えない
*E235系…山手線に使われている電車
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