蕎麦宗店主の自転車クロニクル その13 【ミソノイサイクル】
浜松へは、よく行く。
静岡県は東西に長くまた『遠州』・『駿河』・『伊豆』と三つの國から成り立った経緯があるため、文化圏があまりに異なる。その中にあって、特に伊豆のひとは東京ばかりを見ている。もともとは江戸幕府の直轄地だし、三島–品川は新幹線で30分と充分に通勤圏。それゆえに静岡や浜松といった西方面に興味を示すことは少ないが、自分の場合、母親の在所がジュビロで有名な磐田市ということもあり、子供の頃から馴染みがあるためだ。
大学受験に失敗して(って何もやらないのだから失敗ではない)浪人生活が決まった時、ちょうど代々木ゼミナール浜松校が出来た。当時、新宿・横浜の代ゼミか、名古屋の河合塾に行くのが同級生達の定番だったが、そんな都会に行ったらこのサボリな自分がますます勉強するはずもない。その知らせは自分にとって吉報。磐田の織田の叔母さんの家に居候して浜松へ人生初の電車通学。
ところが浜松は伊豆の田舎もんにとっては大都会だった。あちらこちら好奇心をくすぐる刺激がたくさん。当時はまだ西武や松菱といったデパートが健在。時はバブル期、*スプロールも進んでいなかったので街は活気にあふれていた。そのなかのひとつに《ミソノイサイクル》がある。鍛冶町の小さなショップに舶来ものの高級自転車やパーツが所狭しと溢れている。
予備校の帰り道に、浜松市図書館で《*サイクルスポーツ》のバックナンバーを読み漁り、ミソノイでチャリンコ眺めて雑談して遊んで帰るのが日課だった(勉強しろ)。そこで出会ったのが【リッチーP-23】だ。つづく
*ミソノイ…僕の行きつけ。この店現存する自転屋の中で日本最古の老舗。
*スプロール…無秩序に外側に向かって街区が開発され、中心街が不活性化すること。
*サイクルスポーツ…1970年創刊の老舗の自転車雑誌。