特級呪霊(11月エッセイ)
この間、仕事帰りに後輩とファミレスで話していたら、見知らぬ女の子が俺の前で立ち止まった。
じっと俺のことを見つめていた、というより睨んでいたと書いた方がいいかもしれない。
最初は知り合いかと思ったが、心当たりはなかった。
というか、まだ睨んでいる。
もしかしてこの子は俺にしか見えていない?
それとも俺に何か憑いているのか?
結局、その子は知らない家族の子どもだったし、帰り際も5秒は睨まれた。
俺は特級呪霊だ。
GWに付き合って7月に別れた彼女のことを忘れようとマッチングアプリに明け暮れたり、気持ちを誤魔化すためにそんなに好きでもない人と付き合ったりしたが、やっぱり無理だ。
LINEはブロックされているから連絡手段はない。
まずもう連絡してはいけないのだけれど。
本当に大好きで大好きでしょうがなかった。
毎日こんなに素敵な人と付き合えていることが信じられなくて、幸せで、ずっと続くものだと思っていた。
あまりにも別れが突然だったように感じたが予兆はあったのかもしれない。
今思うと、あまりにも俺の彼女への気持ちが強すぎた。
重かったのだ。
愛情の熱量が釣り合っていないと、片方が我慢することになる。
俺はなんと愚かなことをしてしまったのだろう。
彼女とは温泉が共通の趣味の一つだった。
彼女に教えてもらった温泉にどうしても行きたくなる時がある。
もしかしたら会えるかもしれない、そんな思いも少しだけある。
もしすれ違っても話しかけることはできない。
俺はそんな彼女の幻を追いかけて、彷徨い続ける呪霊と化したのだ。
このままではいけないと思い、マッチングアプリを再開した。
今思うと、何か他のものに熱中するべきだった。
別れた彼女をアプリで発見するというショッキングなこともあったが、自分が重くならないように、そんなにタイプではない人と付き合うことにした。
しかし、それは逆効果だった。
別れた彼女のことを余計に思い出してしまった。
※全て心の中で思っていることで連絡をしたりストーカー行為などはしていません。
こんな不誠実な理由で適当に付き合ってしまったことは申し訳ないが、ここでアクシデントがあった。
適当に付き合った彼女の呪力が非常に重いのだ。
今度は俺自身が特級呪霊を生み出してしまったのだ。
なんとか別れる方向で進んでいる。
君が心に棲みついた。
"UR MY SPECIAL"
という大変な拗らせ方をしていた2023年の秋だった。
先週、タイヤ交換をした。
街にイルミネーションが輝くようになった。
季節が変わりゆくように、俺は人間へと戻っていった。
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