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【エッセイ】若い人に学び エールをおくり ことばをつなぐ


 ひとりの若い女性のキャリアアップが、私に「未来のためにできること」を考えさせた。
 彼女は、私が週に一度通っているリハビリ施設の職員。今朝、送迎の車中で「今月いっぱいで退社するんです」と聞かされた。
 喉の奥が小さく鳴った。
 彼女の想いは察せられたが、何よりも私にとって、ささやかなサプライズ〟であった。
 実は昨夜、夢あるいは幻覚の中で、それを予感していた。彼女と特別に近しい間柄にあったわけではない。
 わたしは、学卒の介護福祉士が日本国内に何名いるか、などの統計数値を知ってはいない。どういう経歴の人たちがケアの第一線で働いているか、 分からない。だが、わたしがパーキンソン病を発症しデイケアにお世話になり始めてから7年、見てきた少ない経験のなかでも、介護に従事する男女が、今いる介護の技術から少しでも高みへ昇ろうと努めているのだな、ということは、ひしひしと伝わってきた。介護職員にしても実務者研修から始めて認定介護福祉士になるまでの資格取得も並大抵ではあるまい。
 このほど退職することになった女性は、某大学の医療科学部・医療福祉学科を卒業し、社会福祉主事として働いていたが、社会福祉士になりたいと考え、数年受験を重ね遂に合格したのである。なかなかに難易度の高い国家資格らしい。まずは、おめでとう。そして、がんばれ! 福祉の教科・学問が医療科学部の一翼を担うものであることを知った。不勉強を恥じている。新しいことを学んだ人とはもっともっと交流の必要がある。
 私が注目したいのは、「学びたい」という社会や世界へ向けてのベクトルである。今夜テレビで、南米アマゾン州での小学校教育がはらむ、通学路の極めて困難な実態を取り上げていた。小学4、5、6年生3人が 毒蜘蛛の徘徊するジャングルをゴム草履で1時間歩き、さらに細い腕でカヌーを漕いで危険な河川を渡り、計2時間強かけて小学校にたどり着く。そこで四時間半の 授業を 受ける。休憩はたったの15分だけ。もう一人の少年は、ひとりで小さなカヌーを水を捨てながらアマゾンの大河を渡る。往復4時間。誰もが言う、いっぱい勉強して都会に出て、今より豊かな暮らしがしたい、と。
「今よりももっと~」世界のあちこちから、この声が聞こえるが、わたしは崖っぷちで宙ぶらりんになったまま、足の指先が蕩けてくるのを待つだけだ。何とか言葉だけでも、と思うのだが、手の指が動かない……。

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