復職後に観た、映画『アット・ザ・ベンチ』が刺さった
ずっとそこにあるベンチという一つの題材だけで、こんなに多様な人間模様が描けるんだ。
そう、脚本家が違うだけで引き出しのバリエーションが増えることを目の当たりにして刺激をもらった。
ベンチ一つとっても人によってはいろんな見方を投影できる。ベンチをまなざす人が変われば、その人の数だけ物語がある。
この一つの映画を作るのに奥山由之監督が自分以外の3人の脚本家にベンチの紡ぐ短編物語を任せ、それを一つの作品として仕立てている。
この映画は1人の頭ではできず、様々な人たちの頭を借りている。
これは私が何でも自分一人で考えて、仕事をしようとしても想像以上のものができないことの限界を示してくれたような気がした。
この復職後2週間で疲労感のたまってきたこのタイミングに観て良かったと思う。
また1人で考え切らないと、人を頼るタイミングに至れない私に戻りそうになっていたこのタイミングでの鑑賞は、自分にとって意味があった。
仕事終わりに何となく思いつきで駆け込んだだけだったけれど、平日の始まりの、仕事終わりのタイミングにぴったりの映画だった。
80分なので真夜中の帰宅にはならないし、翌日に響かない。むしろ翌日の仕事の活力をもらって帰ってくる感じ。
上映館が少なく、日頃あまり行かない映画館でしかやってないけれどもし行けなくはないのであれば私と同じ平日の頭に仕事終わりに観てほしい。
ep1,5
脚本:生方美久
出演:広瀬すず、仲野太賀
何かきっかけがないと連絡できないけど、こんなしょうもないことでもこの人なら来てくれるという絶対的な安心感がある、そんな間柄の友達がいる人ってどのくらいいるんだろう。
幼馴染でずっと好きだったけど、特に関係性が変わるきっかけを持てずにお互い大人になってしまった2人。
何かきっかけを作ることを言いそうで言わない瀬戸際を常に攻めている。そのキワキワ感が楽しさに変わり、特に発展しなくても楽しいけど越えたいラインがある空気を絶妙に描いていた。
同じではなくとも、誰しもが特定の誰かを連想して思い出す記憶があるのではないだろうか。
ep2
脚本:蓮見翔
出演:岸井ゆきの、岡山天音、荒川良々
めちゃくちゃ蓮見節!それをそれで例える意味って、、、なるほど!みたいな頭の回転を何周したことか。天音くんが蓮見くん、ゆきのちゃんが百依子ちゃんにしか見えないくらいダウ音声で脳内再生された。良々さんは上原くんかな。笑
別に大したことじゃないんだけど嫌だというストレスのちりつもがこんな艶やかに表現されると、みんな発狂せずに笑ってやり過ごせるのになと思った。そして何より普段は絶対避けるけど、変なおじさんも時にはいてほしいと思った。
回らない寿司バカにできない。明日買おうかな笑
ep3
脚本:根本宗子
出演:今田美桜、森七菜
これもめちゃくちゃ根本宗子節。
映画『もっと超越したところへ。』を観ていたのもあって、この女性の感情の爆発、ヒステリー感を描かせたら右に出る者はいないと感じた。
しかも、今をときめく若手女優さんたちがきらびやかさとは真逆の剥き出しの演技をしているという事実。他では観られないし今後も観ることはないであろう。
こんなに感情が爆発することが私にはなくて。
どちらかというと底辺に気持ちが落ちて這い上がれないことのほうが想像できるから、自分にない沸点の感情爆発が逆にストレス発散になった感覚。
ep4
脚本:奥山由之
出演:草彅剛、吉岡里帆、神木隆之介、古舘佑太郎
同じ物を見ても、人によって解釈が違う。それは言葉を介すからこそ。
解釈が違っても言葉で意思疎通を図ろうとする人間の営みの難しさを、コミカルに描いていた。
同じ言葉でも意味が変わるし、同じことを言いたくても使う言葉が違うのに、言葉で人間がコミュニケーションを取っていて思わず普通に社会が回ってのが不思議に感じてしまう瞬間も。
ep1〜5の中で唯一ファンタジーの物語なのに、不意にグサッと刺さって考えさせられた。
ベンチ一つとってもこんなに想像力をふくらませることができる。仕事で同じテーマを与えられても人によって描くものが違う。描く担当が1人しかいなくても、チームのメンバーや頼れる仲間の頭を借りながらより良いものを作っていこう。
パワーみなぎる。観て良かった、アット・ザ・ベンチ。
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