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[TechGALAイベント参加レポート]ミッション・ドリブン・インベストメント-組織のミッション達成と社会的価値創造の両立は不可能なのか?
組織のミッションを追求しながら、社会的価値を創造するための投資戦略を探る。成功事例を通じて、経済的利益と社会的インパクトのバランスを取る方法や、持続可能な成長を実現するための新しいアプローチを議論する。
登壇者
大櫃 直人
株式会社みずほ銀行 エグゼクティブアドバイザー
1988年みずほ銀行入行。M&A・MBO業務歴任。2013年以来スタートアップ企業支援に従事。2022年常務執行役員就任。2024年4月よりみずほフィナンシャルグループ / みずほ銀行 エグゼクティブアドバイザー就任(現職)。内閣官房「スタートアップ育成分科会」構成員、経産省「スタートアップ・ファイナンス研究会」委員、「J-Startupの検討委員会」有識者就任。企業の成長支援をライフワークとして、日本の将来、産業の育成に日々挑戦。
加藤 道子
Woven Capital パートナー
Woven Capitalのパートナー。Nuro、Ridecell、WHILL、エネコートテクノロジーズをはじめ、国内外における主要な投資を主導。また、HENNGEとエキサイト・ホールディングスの社外取締役も務める。Woven Capitalへ参画前は、AIスタートアップABEJAにてCFOを務めたほか、モルガン・スタンレー証券、世界銀行(IFC)、ユニゾン・キャピタル等で投資・ファイナンス案件に従事。
藤田 淑子
フィランソロピー・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
外資系金融機関のウェルスマネジメント部門で20年。その後、山口県で地域活性化と障害者就労、子ども食堂の運営に従事。日本財団グループの社会変革推進財団にてインパクト投資の推進業務を経て、2023年、企業経営者の方々、および財団のフィランソロピー活動を支援する、フィランソロピー・アドバイザーズ(株)を起業。社会性の追求には、多様なファイナンスの手段が必要と考えている。SVP東京パートナー。
はじめに
企業の存在意義が問われる現代において、経済的価値の追求と社会的価値の創造を両立させることは、すべての組織が直面する重要な課題となっている。この課題に対する具体的なアプローチを探るべく、投資、金融、フィランソロピーの第一線で活躍する3名の実務家が一堂に会し、それぞれの経験と知見を共有した。
登壇者は、スタートアップ支援の第一人者である株式会社みずほ銀行エグゼクティブアドバイザーの大櫃直人氏、トヨタグループのVC部門であるWoven Capitalのパートナー加藤道子氏、そして富裕層の社会貢献活動を支援するフィランソロピー・アドバイザーズ株式会社代表取締役の藤田淑子氏。異なるバックグラウンドを持つ3名による議論は、経済的価値と社会的価値の両立という課題に対する多角的な視点を提供した。
企業における社会的価値創造の現状
トヨタグループの取り組みから見る大企業の挑戦
Woven Capitalの加藤氏は、トヨタグループにおける社会的価値創造への取り組みについて、「めちゃくちゃ意識している」と評価する。特に「モビリティフォーオール」という理念のもと、50年先、100年先の会社のあり方を見据えた投資活動を展開している。例えば、タイヤのリサイクリング企業への投資など、自動車製造の枠を超えたバリューチェーン全体での環境負荷低減に取り組んでいる。
しかし、大企業における社会的価値創造の取り組みには課題も存在する。特に従業員の意識と実際の行動の間にギャップが生じやすい点が指摘された。CSR活動が「やらされ感」を伴うものとなり、真の価値創造につながっていないケースも少なくない。
実効性のある社会貢献の実現に向けて
藤田氏は、効果的な社会貢献活動のあり方について、現場での体験の重要性を強調する。「お金を出すことが現象として捉えられがちですが、現場を見て、支援の結果を確認することで、想像以上の学びが得られる」と指摘。社会課題の実態に直接触れることで、従業員の意識変革と組織全体の価値創造につながる可能性を示唆した。
投資家からみた社会的価値と経済的リターン
加藤氏は投資家の立場から、事業の持続可能性とファイナンシャルリターンの重要性を強調する。「良いことだからできる」というだけでは事業として成立せず、結果として社会的価値も持続的に創出できない。特にモビリティ分野では、サービスの展開に多額の資金が必要となるため、経済的な持続可能性なくして社会的インパクトも達成できないという現実がある。
投資家フィットの重要性
加藤氏は、社会的価値を追求する事業においても、投資家との適切なマッチングが不可欠だと指摘する。特に注目すべき事例として、WHILLのような企業を挙げ、「本業のKPIがそのままソーシャルインパクトに繋がる」ビジネスモデルの重要性を強調した。車椅子の販売台数が増えれば増えるほど、社会的インパクトも大きくなるという事業構造は、ベンチャーファイナンスとの親和性が高い。
一方で、本業とは別に社会貢献活動を行う従来型のCSRについては、投資家からの評価が難しいという課題がある。「事業として成り立つソーシャルなことと、成り立たないことがある」という現実を踏まえ、それぞれの活動に適した資金調達手段を選択する必要性が指摘された。
フィランソロピーと企業の社会貢献
欧米との意識差
藤田氏は、社会的価値創造に対する意識について、欧米、特にヨーロッパとの違いを指摘する。例えば、オランダのトリオドス銀行は数十年前から環境配慮型農業への融資を専門とする銀行として存在し、預金者からの支持を得ている。また、スイスでは直接民主制の下で市民の社会参加意識が高く、企業の社会的責任に対する理解も深い。
個人の富裕層による社会貢献の可能性
フィランソロピー・アドバイザーズを設立した藤田氏は、事業で成功した個人による社会貢献の可能性に着目する。「事業で成功され資産を作られた方が、強い思いを持って、中長期的な資金で支援することで、社会は一歩ずつ変わっていく」という信念のもと、個人の社会貢献活動を支援している。
支援の規模が大きければ大きいほど、支援者自身の学びや気づきも大きくなり、より深い社会課題への理解につながるという。この「作用反作用」の関係性が、持続的な社会貢献活動の基盤となる。
新しい投資アプローチの可能性
社会的価値と経済的価値の両立には、従来の投資評価の枠組みを超えた新しいアプローチが必要とされる。加藤氏は、投資評価における社会的インパクトの定量化について、「理想像としてイメージはあるが、投資家としてのコストと、スタートアップへの負担のバランスを取る必要がある」と課題を指摘する。
長期的視点での価値創造
議論の中で特に強調されたのは、社会的価値創造には長期的な視点が不可欠だという点である。藤田氏は「社会性が低いか高いか、ファイナンシャルが成り立つか成り立たないかは、全く別にパラレルに存在している」と指摘する。重要なのは、資金提供者が「このお金を投じることで何を変えたいのか」という明確な意図を持ち、その実現に向けて適切な時間軸で取り組むことである。
まとめ:持続可能な社会的価値創造に向けて
多様な資金提供手段の必要性
社会課題の解決には、営利事業として成立する領域と、そうでない領域が存在する。そのため、従来型の投資だけでなく、フィランソロピーやインパクト投資など、多様な資金提供手段を組み合わせていく必要がある。特に日本においては、個人の富裕層による戦略的な社会貢献活動の潜在性が指摘された。
組織と個人の役割
大企業においては、CSR活動を形式的な取り組みに終わらせることなく、従業員が現場で実際に社会課題に触れ、学びを得られる機会を創出することが重要である。同時に、投資家やスタートアップ企業には、経済的持続可能性と社会的インパクトを両立させるビジネスモデルの開発が求められる。
今後の展望
経済的価値と社会的価値の両立は、決して容易な課題ではない。しかし、本セッションでの議論が示唆するように、様々なアプローチと可能性が存在する。特に、以下の3点が今後の重要な方向性として浮かび上がった:
本業を通じた社会的価値創造の追求
適切な資金調達手段の選択と投資家との関係構築
現場での実践を通じた組織学習の促進
これらの要素を適切に組み合わせることで、組織のミッション達成と社会的価値創造の両立は、決して不可能ではない。むしろ、それは現代の組織に求められる必須の課題として、さらなる実践と革新を生み出していくことが期待される。
今回の議論は、この複雑な課題に対する具体的なアプローチを、実務家の視点から示唆するものとなった。今後は、これらの知見をもとに、より多くの組織が自らの文脈に即した形で、経済的価値と社会的価値の両立に向けた取り組みを展開していくことが望まれる。
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