見出し画像

[TechGALAイベント参加レポート]AIと創造性

AIが創造的プロセスに与える影響を探る。 芸術、デザイン、音楽などの分野でのAIの活用事例を紹介し、人間の創造性との融合が生む新しい可能性や、AIによる創作の倫理的課題を議論。未来のクリエイティブなコラボレーションを考察する

登壇者

名古 摩耶
株式会社MAGUS / ARTnews JAPAN編集長
1978年生まれ。『Esquire』日本版、『WIRED』日本版などを経て、『VOGUE JAPAN』Features & Culture Lead就任。在任中の2020年、様々な社会課題について発信する「VOGUE CHANGE」プロジェクトを立ち上げる。2022年10月、1902年創刊の米アートメディアの日本版『ARTnews JAPAN』編集長に就任。

深津 貴之
株式会社THE GUILD 代表取締役 インタラクション・デザイナー
株式会社thaを経て、Flashコミュニティで活躍。2009年の独立以降は活動の中心をスマートフォンアプリのUI設計に移し、株式会社Art&Mobile、クリエイティブファームTHE GUILDを設立。現在はnoteのCXO、横須賀市のAI戦略アドバイザーをはじめとして、領域を超えた事業アドバイザリーを行う。近著に『ChatGPTを使い尽くす! 深津式プロンプト読本』、『先読み!IT×ビジネス講座 画像生成AI』。

平野 啓一郎
小説家
1975年、愛知県蒲郡市生まれ、福岡県北九州市出身。京都大学法学部卒。在学中の1999年に文芸誌『新潮』に投稿した小説『日蝕』で第120回芥川賞を受賞した。以後、一作毎に変化する多彩なスタイルで、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。主な著書に、小説『葬送』、『高瀬川』、『決壊』、『ドーン』、『空白を満たしなさい』、『透明な迷宮』、『マチネの終わりに』、『ある男』、『本心』等、エッセイに『本の読み方 スロー・リーディングの実践』、『小説の読み方』、『私とは何か 「個人」から「分人」へ』、『考える葦』、『「カッコいい」とは何か』、『死刑について』、『三島由紀夫論』等がある。2024年、短篇集としては10年ぶりの発表となる最新作『富士山』を刊行。

はじめに

生成AIの発展により、創造性の本質が改めて問われている。AIは人間の創造性を補完するツールなのか、それとも創造の主体となりうるのか。この問いを深く掘り下げるトークセッションが開催された。登壇者は、小説家の平野啓一郎氏、インタラクション・デザイナーの深津貴之氏。モデレーターを務めたのは、ARTnews JAPAN編集長の名古摩耶氏だ。

創造性の本質を問う

「人間が物を作ることが、基本的には創造性だと思うんです」と語り始めたのは平野氏だ。しかし、その創造性は完全なオリジナリティとは異なる。「どんなアーティストでも、どんな小説家でも、人類が築き上げてきた文学なり芸術なりを自分なりに勉強して、そこから影響を受けて物を作る」と指摘する。

ここで平野氏が提示したのが「オリジン」という概念だ。「オリジナリティは、オリジンになりうるということが非常に重要」と述べ、その作品からさらに新しい創造が生まれていく可能性こそが、真の創造性の指標になると説く。

一方、深津氏は創造性を「未探索空間の探索」として定義する。「宇宙空間で虚無の部分と惑星がある部分があるように、世の中の可能性が満ちている空間の中で、探索されていない空間を探索して、価値のある発見をすること」が創造性だという。さらに、その発見を基点に「さらに先の世界を探索できるようになる」ことを、平野氏の言う「オリジン」に重ね合わせた。

AIと人間の創造プロセス

議論は、AIが創造プロセスに与える影響へと展開していく。平野氏は人間の創造性における「身体性」の重要性を強調する。「人間は身体を持っているので、物を考えるにしても何にしても、常に身体的な痛みとか心地よさとか、そういうことと結びつきながらものを考えている」と指摘。これは現状のAIにはない特質だという。

深津氏は、AIの活用について実践的な視点を提供する。「生成AIは基本的にはインターネット中の言語を組み合わせてパターンを学習して、確率的に話すマシン」であり、「既に人類に探索された空間、既に答えがある空間ほど得意」だと説明。そのため、真に創造的な活用のためには、問いの立て方自体を工夫する必要があると主張する。

芸術分野におけるAIの影響

特に文学の分野において、平野氏は独自の視点を示す。「言語化がまだされていないことを言語化することが、創造性という点で最も重要」と述べ、人間の日常的な経験や感情が創作の源泉となることを強調する。「多くの場合、この世界のシステムの中で生きていると感じるストレスを言語化していったときに、読者が『これまさに自分がうまく言えなかったことを言葉にしてくれた』という感動がある」と説明する。

しかし同時に、創作における分業化の可能性も指摘する。音楽制作を例に挙げ、「プロデューサーがロックバンドをプロデュースする際、間奏部分にジャズ的なソロを入れたい場合、従来はジャズミュージシャンを起用する必要があったが、今ではAIで簡単に実現できる」と具体例を示す。

深津氏は、AIの導入について実践的なアドバイスを提供する。「やりたいことをAIにやらせると、たとえ成果が出てもチームが疲弊してしまう」と警告し、「チームがやりたいことをやるために、やらなければいけないけれど自分たちはやりたくない部分をAIに任せる」というアプローチを推奨する。

未来への展望

対談の終盤では、AIとの創造的な共生の可能性が議論された。平野氏は、既存の創作方法に慣れ親しんだ世代として、すぐにAIを導入する動機は見いだせないとしながらも、「これから創作していく人たちは、少なくとも部分的活用はかなり巧みにやっていく」と予測する。

深津氏は、より積極的なAI活用の可能性を示唆する。例えば、「物語の主人公が時空還流に巻き込まれた場合の並行世界での可能性を、AIに展開してもらう」といった、人間の創造性を補完する使い方を提案する。

まとめ

本セッションを通じて浮かび上がったのは、AIと人間の創造性は対立するものではなく、相補的な関係を築く可能性があるという視点だ。人間の身体性や経験に基づく創造性は、依然として重要な価値を持ち続ける。一方で、AIは特定の領域で人間の創造性を増幅させ、新たな表現の可能性を開く。

重要なのは、AIを「何に」使うかではなく、「どのように」使うかという視点だ。創造の主体としての人間の立ち位置を確認しつつ、AIとの効果的な協働を模索していく―それが、これからの創造的営みにおける重要な課題となるだろう。

#AI #創造性 #平野啓一郎 #深津貴之 #名古摩耶 #ARTnewsJAPAN #生成AI #文学 #芸術 #オリジナリティ #オリジン #未探索空間 #身体性 #インターネット #ロックバンド #ジャズ #プロデューサー #時空還流 #ChatGPT #THEGUILD #分人 #創作 #テクノロジー #創造プロセス #クリエイティビティ

いいなと思ったら応援しよう!