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EP2 「これ、ください」 SNOW SHOVELING BOOKS ON THE ROAD物語 〜いかにして街のはずれの本屋が移動本屋として遠くの人にも本を届けようと思ったか〜
(前回からの続き--- 遥か駒沢の書店SNOW SHOVELINGの店主ナカムラは、別に自分が欲しいとも言っても思ってもなかったのに、神様のようにおせっかいな知人から寄せられた、「キッチンカー」ならぬ「ライブラリーカー」の販売情報に出会ってしまい、急にそれが頭から離れなくなり、思いつきで"晴れの国"まで見に行ってみようとなったのだった。。。
この物語は、物語でさえないのだけれど、街のはずれの雑居ビルにある本屋が、「旅する本屋」と自ら称して、移動型の本屋をはじめるにあたり、何を想い、何を考え、具体的に何をして、その先に何があるのか--- そんなことをやってみる日々を、あるいは回想してみたり、そして起こるかもしれない未来の記憶を書き記す、現在進行形の雑記である)
『人生であと何回あるだろう、こんな決断』
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家を買うとか、結婚を申し込むとか、そんな人並みなやつはきっと僕には訪れない(だろう)。あなたにもきっと心当たりあるでしょう、人生を左右するような決断。留学するとか、内定もらった会社を二者択一とか、大切な人と別離するとか、転職とかドロップアウトとか、人それぞれに。
僕にとってはその”人生に何度かある”大きな決断が今回のコレだった。そう、移動図書館の車を手に入れること。たかが車一台という考えもなくもない。そして(金額だけなら)大きな買い物は他にも過去にもあるけれど、そんなスペックとか金額とかの相対的なものではなく、これを購入することが、何か人生の筋書きのようなものにバッチリ抵触していて、それが今まさに文字通り「こうであったかもしれない」世界から「それがこうなりましたとさ」という世界に書き換えられるような感覚なのだ。
そして後戻りできないところまで来て、誰も驚かないと思うのだけれど僕が選んだのは「これください」だったのだ。
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***
時を戻そう(20時間くらい)。
テンテンテンテテン♫ 新幹線の窓際の席に座り、ボンヤリと綺麗でもない景色を眺めながら、頭の中であれこれシミュレーションをしている。鞄の中には書類も印鑑もなんやかんや揃っている。Chicken or Fish?でもなくAll or Nothingでもなく、買うか、買わないかの話。そうそう、車の話。移動本屋をはじめるかもしれない、移動図書館の車を見に行くのだ。
ナカムラの計画はこうだ。とりあえずオカヤマの業者にアポをとり車を見せてもらう約束を取り付けた。事前にもらっている画像を(それはもう)何度も見返しチェックポイントを洗い出す。そして実際に試乗をさせてもらうときのチェックリストも入念に。そして仮にもしif、僕の中のオノ・ヨーコが「yes」と言ったなら、そのまま現地であらゆる手続きをして乗って帰る方法と準備も万端すぎる山羊座のA型。
そんな感じでフワフワしたまま何度も何度も頭の中で妄想を繰り返しながら
列車は(ペットショップ・ボーイズを聴きながら)西へ西へと走る。いよいよオカヤマ駅へ着き、バスとタクシーを乗り継いで、ヴィム・ヴェンダース的にどことなく荒廃した郊外に。スクラップ置き場のようなところかと思いきや、割ととても綺麗な工場のようなところへ。いよいよ対面の時が来た。2005年式のデリカ・カーゴさん。思い焦がれた顔の知らない文通相手に会うかのように興奮しているのは僕だけで、担当の方はそれはもう事務的に、「こちらがソレです」と紹介されたのだった。
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その後のことはあまり憶えていない。
ずっと大好きだった人に告白されて、涙が出るくらい嬉しいのに「ちょっと考えさせて」とクールにわざわざ保留する、あまり性格の良くないかつての"フットボーラーが夢だった"学生時代の某ナカムラのように、「1日考えて明日また来ます」と、その車屋を後にし、レンタカーを借り、ホテルを1泊とり、駅前で美味しいうどんを食べた(RPG感ハンパない)。
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そのあとは車を走らせ児島(県の南部)へ行き、ある人に教えてもらった僕の巡礼地「王子が岳」へ行き、大きな岩の上に腰を下ろし、瀬戸内海を眺めながら大袈裟にいうと、この先の人生のことを考えた。青空も静かな海も岩も、オケラだってアメンボだってみなトモダチだから、心はとても穏やかで、でも周りの猫や猪が気づかないくらいに、静かにとても興奮(鼓動)している。
「あぁぁぁ すごい たのしい かも いま」
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確か、岡本太郎さんの言葉で、"迷った時は困難な道を選べ"みたいなこと言ってたのが頭をよぎる。そうそう、できそうもないことだから「怖い」んだけど、それだから挑戦する価値があり、その向こうの景色には予想もつかないことが待ってる。
今までもそうしてきたじゃないかキミは。
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ひとりで本屋やってて、お店がいちおう10年くらい続いてて、その状況で突然車買って移動本屋やるなんて、やる理由は猫の額くらいなもので、やらない理由だけでアメリカン・フットボールのチームが作れる。学生の頃は「異端児」に憧れるイタい奴だったので、結局何も学んでないし、大して変わってもいない。そう、好きなんだね無茶とか無謀とか冒険とかが。よーくわかったよ。「結局キミはそうするしかないんだね。」と『海辺のカフカ』の聖地の対岸で、もうひとりの自分(カフカで言うところのカラスと呼ばれる少年)がそんなことを言う。そう、こんなの最初から決まってたのだ。車の画像を初めて見たときに、値段が幾らか知ったときに、ソレはもう決定事項だったのだ。
翌朝レンタカーを返し、再びヴィム・ヴェンダース的に繰り返される風景を横目に車屋に戻ってきたナカムラはこう言った。
もう皆さんもご存知だろう。
「これ、ください」
つづく
(この物語は、物語でさえないのだけれど、SNOW SHOVELINGの移動本屋ができるまで、あるいはできてからどんなことがしたいとかまで、そんなことをサリンジャーよろしく9つの話「ナイン・ストーリーズ」にまとめてみる試みであるが、今のところ9つにまとまるかも、どこに着地するのかもわからない僕の雑記である)