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めんどくさい夫婦になる宣言/兎の中の人

―――良いニュースと悪いニュース、どちらの報告を先に聞きたい?

海外のドラマや映画なんかでありそうな台詞の一つだが、まさに私の私生活でこの台詞が使えそうな場面が現れた。
別のところで書いたエッセイでは『嬉しいことと悲しいことが同時に起こる』としたが、今回は私自身というより身の回りで起きたことのため嬉しいより良い事、悲しいより悪い事と表記したい。

さて、どちらを先に書こうかと思ったが今回は悪いことからにしよう。
ちなみに不幸な目に遭ったのは父親だ。
エブリスタでの『兎の中の人』では、お茶目ながらもなかなかのキャラクターをした父親だった。
もちろん今回もやらかしてくれた。

現在彼は仕事に行けなくなってしまった。

……そう書くと、このご時勢だ。

「ついにマスク嫌いなおっさんがあのウイルスに!?」なんて思う人もいるかもしれない。

だがありがたいことに父含め、我が家族は今流行りの病にはかかることなく、ピンピンしている。
ちなみにマスクを毛嫌いしていた父も実は布マスクより不織布のマスクの方が息苦しくないと気付き自分の好んだマスクをするようになった。
まどろっこしい書き方になってしまったが、仕事に行けなくなってしまった理由は病気ではなく怪我だ。

仕事の最中に足を捻った上に小指を強打して骨をやってしまったらしい。
やんわりと書かせてもらったが、要は折れたよりもややこしいく骨が陥没したとかなんとかで、杖なしでも歩けなくはないが治るまでに時間もかかるとのことだ。

しばらくは家で養生しなくてはならなくなった。
父の寝室がある二階へ向かうのも困難な状態だ。
今、私が作業用に使っている仏間を父の寝床にしなくてはならないかもしれない。

だがその心配は父親の一言でなくなった。

「いやだ」

理由も言わず、3文字で返すとは……。
相変わらずの子どものような態度にはこちらも呆れて何も言えないが、確かに寝床が変われば寝つきも変わるだろうから仕方ない。
私もありがたく、仏間で作業続行させていただいている。

だが問題は家に常に父がいるという状況だ。
声を収録する際には必ず家族に声をかけるようにしているが、割と父は気にせず入ってくる時がある。
ゲーム実況のときは無駄な編集が増えるし、声の収録のときは泣く泣く録りなおさなければならない。
いつもなら父が仕事へ行っている間に行う収録も周りの環境を気にしながら行わなければならなくなってしまった。

私の問題はまあ、いいとしよう。
母も思うところがあるらしい。

「定年後のめんどくさい夫婦が予定より早くいる状況になったと思いなさい」

初日から私と妹に謎の宣言をしたかと思ったら、翌日から確かに面倒な小さな争いが増えた。
医者からもあまり動き回るなと言われているにも関わらず、ちょこまかと動き回る父に呆れ文句を言う母。
元よりゴミをごみ箱に捨てることのできない父にイライラしながら片づける母。
更には一週間もしないうちにじっとしていることに飽きて、暇だと文句を言う父に大きな声で文句を言い出す母。
夫婦間でテレビチャンネルの覇権をめぐり戦争が勃発することもしばしばある。

……定年後の老夫婦って、皆こんな感じなのだろうか?
終着地点がこんな形なら結婚なんぞするもんではない。
私の中の元々あまりなかった結婚への憧れというものが遠い宇宙のブラックホールの先に消え失せたのは言うまでもないだろう。

とはいえ、文句を言いながらも包帯を巻きなおしてあげる母の姿はいうほど父を嫌いではないのではないだろうか。
リビングから二人の声が聞こえるたびに思う。

―――頼むから収録やオンラインレッスンの日は静かにしてくれと。

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