髪を切ることの葛藤 鬼滅と真田丸による会話/兎の中の人
最近、前髪が鬱陶しくなってきた。
そういえば、美容院へ行ったのは何カ月前だったか……
ここ数年行きつけになった美容院の店長さんに鬼滅の刃の映画がそろそろ始まるという話をした気がするから、その前には間違いないだろうとは思うのだが。
ネット予約ついでに見てみると、なんと前に行ったのは10月だったようだ。
もう2月になるのだから、ほぼ4ヶ月経つのかと驚く。
髪も伸びるし鬱陶しくも感じるはずだ。
少し前に店長さんに「会員番号の桁数が少ないので初めの頃から通ってますよね」などと言われてしまったぐらいで、お店からしたら常連のお客様という扱いになっているようだ。
金額が安いとか腕前が飛びぬけていいとかではない。
トリートメントがなんとなく私の髪に合っているのとシャンプーの香りが選べるという楽しさは確かにある。
だが、通う一番の理由は店長さんがアニメ、漫画、特撮に強く会話に困らないので通ってしまったというべきだろうか。
ここ最近はアニメをあまり見れてないが、その分おススメを教えてくれたりもする。
市場でどんな作品が流行っているのか知れるのは、ありがたい。
とはいえ、2020年はアニメに疎い人でも『鬼滅の刃』を見ているほどの社会現象になったため、私も知識としては知っていた。
美容院に行った時には案の定、店長さんに「今のアニメと言ったら鬼滅ですよ!!」と力説されてしまい、困ったことは言うまでもない。
次回行くまでには見ておかなくてはいけないと思いつつも残念ながら、私は総集編の2回目と思われる蜘蛛の敵が現れる回のみしか見れておらず、漫画もまだ読めていない状況だ。
私の知識は主人公の名前とその妹ぐらいは分かるかな程度。
だが前髪が鬱陶しいし、暗めの色とはいえ髪も染め直したい。
担当はおそらく店長さんにはならないだろうが、きっと私の顔を見れば隙を見計らって『鬼滅の刃』の話題を出してくるかもしれない。
だからといって、それが嫌だからと別の美容院に行くのもなんだか気が引ける。
実は前に少しでも写真写りを良くしたくて別の美容院へ行ったことがあったのだが、たまたまスマホについていたストラップの真田丸ドーモくんに目を付けられてしまったことがあった。
店員さんも会話を得るために悪気なく聞いたのだろう。
「このキャラクターなんですか?」
どう説明したらと、一瞬悩みはしたがごまかすのもどうかと思い、正直に「大河ドラマの真田丸の甲冑を着たドーモくんです」と答えると店員さんも悪気はなく、無邪気に返答してくれた。
「オレ、歴史詳しくないんですけど、なんか名前は聞いたことがありますね。どんな武将ですか?」
祖父と父が武田家につかえ、上杉家、豊臣家に人質として奉公し、さらに父と共に家康を上田上で2回追い払い、更に戦国最後の大戦『大坂の陣』で家康を追い詰めたすんごい武将なんです!!
……とは、説明できるわけもない。
歴史が詳しくない人でもきっと教科書ぐらいには載っていたであろう人物の名前を使って簡易的に説明してみようと思い、『一時期、豊臣秀吉の元にいたことがあるんですよ!』と言ってみた。
「豊臣秀吉って、名前がまさか美容院で聞けるとは思わなかった」
きっと、悪気はない。
悪気はなかったのだ彼は。
ただ純粋に私の発言を面白そうに笑って聞いてくれたのだが、なんとなくその美容院は行きにくくなり、オーディションへ向かう前の一度だけ二度目の来店をしたきり行ってはいない。
若干お値段は高いが、トリートメントとマッサージの良さに加え、用意されるお茶がすごくおいしかっただけに少し残念だ。
そして現在、数日後に美容院へ行く予約を取った。
もちろん例の店長がいる所だ。
まだ鬼滅の刃はしっかりとは見れていないが、きっとあの人なら攻めることはせず、別のアプローチでアニメなり特撮なりの話をすることになるだろう。