あしながおじさんはいないけど……/兎の中の人
以前私が投稿したもので『兎の中の人、都会に負ける』がある。
信じてない人もいるかもしれないが、本当にあったことで今でこそ心の整理がある程度ついたものの本気で悔しかった出来事だ。
あの時のことを思い出すと今でも泣きそうになる。
私以上に悔しい思いをした人は多いだろうから、あまりわがままを言ってはいけないだろうが現時点でも都会へ行くことが出来ず悔しい思いを残したまま過ごていると時折深くナイフでえぐられるような痛みを感じ何もやる気が出ない。
―――来ればいい、通えばいいじゃないか。
ネットや外を見るとそういう人はたくさんいるが残念ながら身近にいる田舎の人たちは首を縦に振ることはない。
大概は『今は我慢しかないよね』である。
他の田舎への旅行ならいいのに、夢を追うために都会へ行くことは『悪』というのは如何なものだろう。
それでも本当に生活できるだけの資金があれば何も考えず行くのだが、残念ながら養成所に通う金はぎりぎりあっても生活資金がない。
何も仕事せずに生活できる基盤があれば良いのだが前に通っていた養成所と不慮の事故の手術代でそんなものは消えうせ今の私には存在しない。
ぽーんと数百万円くれるあしながおじさんが存在してくれればいいのだが、今のところ私の目の前には現れてくれたことはない。
* * * * * * *
あしながおじさんはいないが、私の夢を応援してくれる人が過去にも今にもいる。
とある養成所に通っていた時だ。
授業の集大成として、卒業公演にてある役が決まった。
主役やヒロインのような華々しい役ではなかったが、なかなかに癖のある面白い役をいただいた。
メインの登場人物に比べ、表舞台に出る時間は格段に少ない。
それでも私が出ると聞いて駆けつけてくれた人たちがいた。
最初は介護が必要な祖母を置いては行けないと、ずっと言い続けていた母が突如、娘の活躍をどうしても見たくなったと言い出した時には正直驚いた。
自分も学生時代に演劇部で活動していたことを思い出したのか、相談にものってくれることもあった。
結婚していなければ、もしかしたらやりたかったことだったのかもしれない。
地元の友人や妹も駆けつけてくれた。
一緒に小林賢太郎さんの舞台を見に行っていた学生時代からの友人は、私が舞台上にいるのを見て感動して泣いてしまったそうだ。
―――賢太郎さんと同じところに雪兎がいる
舞台後のお見送りのときにも泣きながら言ってくれたのが何よりも私は嬉しかった。
見に来てくれたそれだけでも十分だったのに、それ以上に嬉しい言葉を与えてくれる彼女が親友でよかったと心から感謝している。
養成所に入る前にいた専門学校での友人たちも何人か駆けつけてくれた。
別の養成所に通いながら、仕事やバイトで生活を切り盛りしている友人たちにとって数千円のチケット代を出すのは大変だったのではないだろうかと、思う。
来れなかった仲間も当日に応援のメッセージを送ってくれていて、帰りにみた通知の多さに驚き電車の中で泣きそうだった。
そういえば、都会に来ることすらないはずの職場の方も来てくれていたらしい。
……いや、らしいとしか言えないのは私が直接来てくれていたのを見れていないからだ。
職場の中でも一番来ないだろうなと思っていた人だったから行きたいと言ってくれたのを聞いたときは正直、驚いた。
後で聞いたら新幹線すら一度も乗ったことがなかったので切符の買い方ですら戸惑ったと聞き、本当に来てくれていたんだと実感した。
何度か通ったことがある私ですら、間違えて快速に乗ってしまうなんてことをやらかしてしまうのに……そこまでして来てくれたことに感謝以上の言葉が浮かばない。
* * * * * * *
現在の私だが、養成所に行くことを諦めた代わりにエブリスタで作品やエッセイを投稿している。
悔しかった想いを書きなぐった冒頭のエッセイは、何人かの人に刺さったようでコメントや感想を下さり応援してくれる人がいた。
全ての人にお礼を言いたい気持ちはあるが、その中でも一番、お礼を言いたい方がいる。
『エブリスタ☆おすすめ作家紹介』というYouTubeで配信で紹介してくれたとのさんだ。
おそらく私のほかの作品よりもぐしゃぐしゃになった感情を書きなぐった『兎の中の人、都会に負ける』に感動してくれたらしく、この作品がなければ紹介されなかったのではないかと思っている。
しかも『エブリスタ☆おすすめ作家紹介』にて、ゲストで出演させていただいたこともあり、この世に自分の声を発信させていたく貴重な体験をさせていただいた。
もし新型ウイルスの猛威がなく、養成所に行ったものの芽が出ず諦めることになっていたならばこんな素晴らしい経験をさせてもらえることはなく、下手すると文章すら書くことを止めていただろう。
『のーたりんな人生を送る』なんてタイトルでやってはいるが、多くの人のやさしさに支えられて今の私はあるのではないだろうか。
あしながおじさんのようなやさしさをいっぱいくれた応援してくれる一人一人に、何かを残せるようにがんばりたいと思うのである。
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