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留学思い出話〜憧れの先輩とジャズとの出会い

1995年、コロラド州デュランゴという町にある小さな総合大学の音楽学部1年生の時の話。

訳のわからぬまま大仕事を引き受けてしまった…

大学生活が始まり、まだピアノをしっかり勉強し始めたばかりの私に、先生がものすごいチャレンジングな話を持ちかけてきました。トランペット専攻の先輩Erinnのシニアリサイタル(卒業リサイタル)で演る曲の伴奏をやってみないか?とのこと。
渡された楽譜に”CONCERTO”と書いてあったけれど、当時まだ協奏曲の意味も、その伴奏がオーケストラリダクションだということもわかっておらず「???」という状態のまま、先生に「大丈夫よ、やってみなさい」と半分押し切られる形で引き受けてしまいました。

曲はアレクサンドル・アルチュニアンという作曲家のトランペット協奏曲でした。

今聴くととてもカッコいい曲です。。

が、当時の私は譜読みをし始めてから「これはやばい…」と非常に焦りました。9月の新学期が始まって割とすぐにその話をもらったと思いますが、彼のリサイタルは12月。3ヶ月弱しか時間がありません。
初めて見るオーケストラリダクションの楽譜はピアノ曲とは違ってとても変則的で、読むのも弾くのもとても難しく感じました。(今ならわかる…その曲、"現代音楽"ですもの。ある意味複雑に感じて当然でした…笑)
しかも人の伴奏をするなんて、高校の合唱コンクールくらいしか演ったことが無いし、その上4年生の先輩の卒業コンサートだなんて、、絶対に足を引っ張るようなことはできない…!!と大きなプレッシャーを感じ、自分のレッスン用の曲などそっちのけで伴奏の猛練習を始めました。

当時大学敷地内の寮に住んでいましたし、そもそも日本と違い家にピアノがあるわけではないので、その頃から毎日大学の練習室に深夜まで入り浸る生活が始まったと思います。幸い練習室は24時間使うことができました(0時頃に建物の鍵がかけられてしまう前までに中に入ればそのままずっと居られました)。
おそらく人の伴奏にそこまでたくさん時間をかけて必死に練習する人はあの学校で始めてだっただろうと思うので(笑)、時々Erinn本人が心配して「大丈夫?」と声をかけに来てくれたりしていました。

なぜか本番のことは全く記憶にないのですが、記憶にないということはまあなんとかなったんだと思います。おそらく弾くことと彼の音に合わせることに必死で、あまり演奏自体を聴ける余裕はなかったんだと思います。
とにかく終わった後に、Erinn本人から直筆のサンキューカードとお礼の20ドル札をいただけたのが嬉しくて嬉しくてたまりませんでした。それまでのプレッシャーやその他諸々は全て吹っ飛びました。笑

初めてのギャラは尊すぎて使えず、
そのまま大事に取ってあります。。

初めてジャズを生で聴いた!

彼のシニアリサイタルは、その協奏曲が最初で、続けてモーツァルトのオペラからボーカルとのデュオで2曲、休憩を挟みヘンデルの室内楽、そして最後の3曲がジャズでした。
「Summertime」(Gershwin)、「Well, You Needn’t」(Monk)、そして「A Night In Tunisia」(Dizzy Gillespie)。
どれもスタンダードな有名曲だと今ならわかるけど、当時の私にとっては初めて聴いたジャズの曲。しかも学校のリサイタルはクラシックしかやらないものと思っていたので、「うわー!!めちゃくちゃカッコいい!!!」とものすごい衝撃を受けました。

せっかくこんな超かっこいい先輩に出会えたのに、このリサイタルが終わったらErinnは卒業して居なくなってしまうのかぁ…と残念に思っていました。が、なんと彼は地元の高校で教育実習に行くことになっていたらしく、その後もしばらく地元デュランゴに居てくれることがわかりました。そして私は、彼のやっているバンドがダウンタウンのバーで演奏しているらしいことを学部の掲示板のフライヤーを見て知りました。
私は翌年5月に21歳になるのを待って(アメリカでお酒は21歳から)、誰か一緒にそのバーに行ってくれる大人はいないか…と、渡米して最初の夏にホームステイしていたところのホストマザーに付き添いを頼んで、一緒に行ってもらいました。そしてついに念願の、彼のいるバンドThe Fulldogsのライブを見ることができたのです!

たぶんリサイタルでやっていた上記3曲もレパートリーだったと思いますが、小さなバーでの演奏だったのでチルな雰囲気の曲を多く演っていたと思います。
まず驚いたのは、トランペット専攻だったはずのErinnがキーボード弾いていたこと!しかも普通にソロも取っていました。で、曲の途中におもむろにトランペットを構えて要所要所で入れてくるのです。「え…、なんてかっこいいんだ!!」とものすごく興奮しました。
しかもすごいのは彼だけじゃなくて、サックス専攻のMikeもメインはアルトサックスですがソプラノサックス、フルートはもちろん、彼もまたキーボードを弾きます。ギターもトランペット専攻のMattが担当、そしてベースはMattのお兄さん(音楽学部ではない)のPhilが担当していました。
日本に居た時は、まず身近にバンドをやっている人物がいなかったし、その上複数の楽器を担当して人前で演奏してる人達を見たことがなかったので、このバンドがギター・ベース以外は曲によって(もしくは途中で)キーボードと楽器が入れ替わったりすることに、当時の私はものすごい衝撃を受け、カッコいい!!!と速攻大ファンになりました。

週末はパーティーガール…?!

9月に大学2年になると、楽典のクラスでサックスのMikeと同じクラスになるというご縁もあり、1人でも彼らのライブに行きやすくなりました。私は最初の頃は"いつも深夜までピアノを練習しているクソ真面目な日本人"と学部生の間で認識されていたと思うので、最初に1人でライブを観に行った時は彼らにちょっと驚かれました。笑 
教育実習とはいえErinnだけが働いている身だったので、毎回ライブにいた訳ではないのですが、バンドはおそらく週末、月2〜3回のペースで店を変えてライブをしていました。私はほぼ皆勤で通っていて、「チエはパーティーガールだな!」と(冗談で)言われたりもしてました。笑  私としては「クソ真面目な日本人」のイメージを払拭したかったのもあったので、こう言われたことは実は嬉しくもありました。学校では真面目、夜はパーティーガール…ってのがなんか良いなと思って。笑 

そんな彼らのライブで出会った曲が
・Harbie Hancock(The Headhunters)「Chameleon」「Cantaloupe Island」「Watermelon Man」「Maden Voyage」など
・Chick Corea「Spain」
・Miles Davis「So What」
・Wayne Shorter「Footprints」
・Candy Dulfer「Pick Up the Pieces」
・The Meters「Cissy Strut」
etc…だったりします。
特に「Chameleon」「Pick Up the Pieces」「Cissy Strut」辺りの曲を彼らが少しテンポアップしてパーティーチューンにアレンジしたのはライブでめちゃくちゃ盛り上がる鉄板曲で、ビール片手にフロアで踊りまくっていました。楽しかった。。笑

そんな感じで、Erinnとの出会い、The Fulldogsとの出会いを通じて、私は初めてジャズに触れた訳ですが、ファーストコンタクトが彼らによってかなりジャズ・ファンク/ジャズ・ロックにアレンジされた曲たちで、しかもそれが大好きになってしまったので、オリジナル版だとちょっと物足りない…みたいな状態になってしまいました。笑 でも、ジャズへの入り口としてはとてもありがたかったと思います。

Erinnが実習を終えて、デュランゴを離れた後も新たにパーカッション専攻の同級生で主にビブラフォン、たまにギター・キーボードも演るGregがバンドに入り、活動は続きました。おかげで私も週末の楽しみを奪われずに済みました。小さい田舎町では娯楽が本当に少なかったので、彼らの活動は私にとってとても大切だったのです。


先輩への恋心は、ほろ苦い思い出

さて、余談の恋バナになりますが…(またですか?笑)、
そんなかっこいい先輩Erinnを私が好きにならない訳がないのですよ(←免疫ないのですぐ好きになってしまう…笑)。彼はトランペットとピアノができるのに加え、細身で若干コワモテのシャープなルックス、そしてニューヨーク出身というコロラドの田舎町には珍しい人物でした。さすがニューヨーク!センスがステキ…!とか思ってました。笑

私が大学2年の頃に、州の色んな高校・大学からブラスバンドが集まるコンベンションがコロラド・スプリングスという所で開催され、うちの大学からはブラスバンドとコンサートクワイアー(授業として他学部からも参加可能の100名近い合唱隊)が一緒に演奏ツアーへ行った事がありました。私はクワイアーの1人として参加していたのですが、そこに実習中のErinnがブラスバンドの指揮者として参加することになり、ツアー先で一緒になる事ができました!(もうその時点で嬉しくて舞い上がっていた私です…。笑)
コンサートが終わってホテルで一泊。
クワイアーには日本人の友達も一緒だったので、夜は彼女達と一緒に過ごしていましたが、私はちょっと抜け出してバーにカクテルを買いに行きました。そしたら、そのバーでErinnとバンドの仲間たちがくつろいでいたのに遭遇しました。
私はカウンターからジントニックをゲットして、もちろん彼らに挨拶をしました。すると「一緒にどう?」って誘ってもらえたのです。にもかかわらず!!私は悩む必要なんて無いのに、「向こうで友達が待ってるから…」とか言って少し悩んだフリをして…。で、部屋に戻ろうとしたら、Erinnに手首を掴まれて止められたんですよ!!(マンガでよく見るやーつ!!笑) まあ、多少酔っていたんでしょうけども…、そんなこの上ないチャンスだっていうのに、私はその手を離して「行かなくちゃ…」とか言って逃げてしまったんですよね…。。
くぅ〜〜、、、戻らなきゃいけない理由なんて無いのよ!もう何をやってるんだ、私はー!!!って話ですよ。苦笑
自分の英語力に自信がなさすぎたのもあるのですが、こうして私はチャンスを逃すタイミングの悪い女…という負の恋愛パターンが脳内に刻まれてしまったのです。。。

数年前、SNSでErinnの結婚を知りました。モテそうなのに案外遅かったな…(←いや、いまだに独身の私が言うなし)。笑 そして、ラスベガスのショーの音楽に参加した、みたいなことをチラリと記事で見かけました。
あんなにどこにも知られていないような大学の小さな音楽学部なのに、同じ頃にいた学部の仲間達は皆ちゃんと音楽(演奏)に関わる仕事をしていて素晴らしいです。私は自分を信じられずに勝手に見切りをつけてしまったので…。
いつからだって再スタートできると思うけど、でもやっぱり若い頃に自分で自分の可能性に制限を設けてしまうほど勿体ないことは無いな…と気付かされる今日この頃です。。

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