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「自己肯定感」と「自己愛」はきっと別物だ

ピンとこなかった「自己肯定感」という言葉

この数年で「自己肯定感」という言葉をよく聞くようになった。ネットで検索をかければ、「自己肯定感が低い人がやってはいけない”残念な考え方”とは?」「日々の生活習慣で自己肯定感を高める方法」「自己肯定感が低い人のパターン」など、コンプレックスを煽りビュアーを惹きつけようとする記事や、自己肯定感が低いことを問題視する記事が多くヒットする。

これまで私は自己肯定感の低さに悩むという経験をしたことがなかった。それどころか、むしろ自分自身のことは大好きで、「自己肯定感」という言葉自体あまりピンときていないほどだった。おそらく自己肯定感はとても高い。自分のことは好きだし、他人と比べることもなく健全に自己を肯定することができているという感覚があった。

他者からの好意に対する違和感

そんな私の自己肯定感に揺らぎが生じたのは、他者から好意を向けられたときだった。きっと自己肯定感がしっかりあるとすれば、他者に好意を向けられたときに「ありがとう」とは思えど、違和感や疑問は生じない。私は他者に好意を向けられたとき「ありがとう」よりも先に「なんで?どうして?」と思ってしまった。

———どうして自分なんかに好意を向けるの?
他者からの好意に対する疑問や違和感は、突き詰めて考えれば自己の価値を外側から肯定できていないということだ。自分の価値は十分に理解できているつもり。でも、それがすなわち自分を客観的に見たとき、他者の尺度から見たときに「自分は魅力的に映るはずだ」ということを意味するわけではなかった。

「自己肯定感」と「自己愛」

では、今まで自己肯定感が高いと感じていたのはどうしてだろう。自分のことが好きであることには変わりないが、他者からの好意に違和感を抱くのはなぜなのだろう。そう考えたときに気づいたことがある。

きっとこの「自分のことが好き」という気持ちは、「他者に愛されないかもしれない」というネガティブな感覚から生じている
私が私を愛さない限り、私は他者に愛されないかもしれない。それはある種の強迫観念のように、自分を愛することを駆り立ててきた。

自己肯定感と自己愛は同一視されがちだが、実は全くの別物なのかもしれない。
自己肯定感の裏付けには、他者の存在があるのではないだろうか。臨床心理学者高垣忠一郎は、自己肯定感とは「『他者と共にありながら自分は自分であって大丈夫だ』という、他者に対する信頼と自分に対する信頼」であると定義している。
一方、自己愛とは単に自分を愛することであり、他者を媒介しない。ある意味エゴイスティックな感覚と言える。

「自己肯定感」の低さを補うための「自己愛」

「他者に愛されないかもしれない」という不安は、私が私の一番の理解者になって自分自身を愛することによって解消できる。つまり、私がこれまで自己肯定感として捉えていた「自分のことが好き」という気持ちは、他者を媒介しない「自己愛」だったのだ。そして、それはおそらく自己肯定感の低さを補うための自己愛だったのだと思う。

とはいえ、冒頭でも話した通り私は自己肯定感の低さに悩んだことはない。ということは、きっと自己肯定感は低かろうがさほど問題はないのだ。問題は、自己肯定感が低く、そのうえそれを補うための自己愛もないときに生じる。「自分は価値がない人間だ」と感じてしまう。

たぶん「自己肯定感」は低くてもいい

自己肯定感の低さはよく問題だと言われる。周囲の環境によって自己肯定感を持つことができない人もいる中で、なんて無責任な論調だ、と思う。自己肯定感が低いことそれ自体は何も悪いことではないし、ネガティブに捉える必要もないのではないだろうか。

自己肯定感は低いままでもいい。他者が介在する中で客観的に見た自分に価値を感じなかったとしても、他者を一切媒介せずエゴイスティックに自己を愛する軸を一つ持つのも手だと思う。

例えば、「走るのが得意だ」という意識は、他者の目線を媒介することで出鼻を挫かれる。自分より走るのが早い人なんていくらでもいるからだ。そんな時「他者と共にありながら自分は自分であって大丈夫だ」と自己を肯定するのは難しいかもしれない。

他者を一切媒介せずに自分を愛するとは、「走るのが得意で、なおかつ話すのが上手くて、音楽がこんなに好きなのはきっと自分だけだ」くらいに捉えることだ。たくさんのピースを拾い集めて「きっとこんな人間は自分くらいしかいない」という感覚を持つことで自己肯定感の低さを補うための自己愛を育むことはできるかもしれない。


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