あなたに

MONGOL800の『あなたに』をMrs. GREEN APPLEが歌っているのを教えてもらった。
大切な人に教えてもらったから、すぐ聴いた。
多分どこかで耳か目にして、私を思い出して教えてくれたんだと思う。
その気持ちが一番嬉しかった。

とは言え、私は基本的に、オリジナルな人が歌う事を好む。
どうしても元々の人の方が完成形に思えてしまう。
トリビュート的なものも苦手な部類に入る。
否定しているワケでは決してない。
頭が硬直しているのだ。

でも、ミセスの『あなたに』は全然違った。
モンパチの低い声とベース音はどこへやら。
全く違う曲だった。

と、ここで、硬直した私の頭は一気にモンパチ時代に遡る。

あの頃、勤労学生だった私は、講義の合間をぬってはアルバイトに励んでいた。
ファーストフード、スーパー、家庭教師の3つのわらじを履き、単発でホームセンターの棚卸し、交通量調査なんかもやった。
その中で一番長かったのはスーパーのレジ。
1年の夏から4年の冬まで。23時閉店のそのスーパーに、平日は夕方、長期休みはオープンから締めまでいた。
そこで20人くらいのバイトメンバーに出会った。入れ替わった人もいたけど、最後2年くらいは同じ顔ぶれだった。
同じ大学が8割で別の学校が2割。年齢も上下10くらいあった。
学部も交友関係も全然別なのに、同じ時間に来て、同じ場所で働くことが楽しくてたまらなかった。
くだらない事で笑い合い、小さな事も皆で共有すれば楽しかった。
バイトが終わったらそのまま誰かの家にいって、そこでそのまま寝て、朝になったらそれぞれと言うのはザラだった。
それぞれ、別に大切な人が居る人も居ない人もいて、でもその中ではただのバイト仲間で、そんな関係がすごく心地良かった。


そこで、
免許取ったばかりのNが、実家から持ってきたMTの黒のインテグラに5人ギチギチで乗って流してたのがモンパチの『あなたに』とMESSAGE3曲目の『小さな恋のうた』。
Nの車では、大体流れていた。

Nは大学に入ってできた友だちで、人見知りが過ぎて鉄壁だった私の心の壁を頻繁に力強く叩き続けた人。
彼女が私の人生を変えたと言っても言い過ぎなんかじゃない。
今も続く私たちの関係は、多分これからおばあちゃんになっても一生続く。

モンパチの低すぎるボーカルの低音が出せたのは、Iだけで、顔も体系もチューヤンに似た彼の株は一気に上がった。
エンストを繰り返すNの運転を、他の4人が歌って励ます というのが定番だった。
Nの車に続き、Kがシルバーのインテグラを買った。kは極度のキレイ好きで、大切な人しか乗せなかったから、わたしたちは乗れないままだった。

4年の3月。
私と同じ課のN、何浪何留かした別の学部のチューヤンのI、更に別の学部のキレイ好きなK、美容師の彼女がいたOが同時に卒業した。
バイトは年末で辞めていたのに、
院に進むT、2個下のT、留学が決まっていたK、別の院に進むK、別の学校のM、別の学校のS、M 、N と大勢で祝ってくれた。
袴を履いた私とNの周りには沢山のバイト仲間が写っている。

バイト以外でも繋がりがあった人とは、卒業後も何度か連絡を取った。
でも、バイトでしか繋がらなかった人は、あの卒業式が最後。
今はどこでどうしているか分からない。

でも多分、あの卒業式の時に、これが最後になるかもな、とは誰もが思っていたはず。

だからとても居心地が良かったんだろう。
誰が誰といても同じ心地だった。

音楽は時にそれを聴いていた情景を含んでくる。
モンパチの『あなたに』は、私にとって思い起こす事が多すぎる1曲なのだ。

あの時を一緒に過ごしたうちの誰かがあの曲を聴いた時に、あの日々を思い出してると良いな、と思った。
今日の私みたいに。

多分もうこの先一生会わない。
連絡先さえわからない。
でも、確実に同じ時を生きていた。
元気でいるといいな。

そして、そんな事を想いながら、もう一度聴いてみよう。



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