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「作られた分断」について(米軍基地編)

2017年12月よりスタートした連載企画「作られた分断」では、みんながイヤだと思っていることを誰に押しつけるのかがテーマとなっている問題、おもに米軍基地問題、原発再稼働の問題を取り上げています。

本連載を途中から読まれる方にも理解していただけるよう、米軍基地問題、原発再稼働問題に関する基礎情報を2回に分けて掲載致します。1回目の今回は在日米軍基地をめぐる問題です。

◇沖縄県への基地集中は1956年ごろから

2019年現在、日本に存在する米軍基地の数は51。そのうちの約7割が沖縄県に集中している。

日本にある米軍基地=防衛省

現在の沖縄県への基地集中がはじまったのは1956年ごろ。この当時、朝鮮戦争が勃発し、日本も戦場となるおそれがあったことから、米軍基地は岐阜県や山梨県など本土に広範囲にわたって存在していた。

しかし、朝鮮戦争も停戦がなされたことにより、本土では米軍基地不要論が高まり、基地反対運動も激しさを増す。その結果、米軍基地や米軍の主要部隊は続々と本土から沖縄県へと移駐されていく。

沖縄県でも、島ぐるみ闘争とよばれる沖縄全土に広がった基地反対運動がおこなわれていた。

島ぐるみ闘争のようす 普天間基地がある現・宜野湾市で=沖縄公文書館、1956年)

しかし、このとき沖縄県は米国の施政下にあり、地理的にも日本本土から離れていることから米国務省は、「反基地感情を沖縄県のみにとどめることができる」と期待した。(https://note.mu/snoopiro7/n/n4560889ed1f0)

◇世界一危険な軍事基地、普天間飛行場

沖縄県宜野湾市にある米軍普天間基地は、世界一危険な軍事基地と呼ばれている。その所以は、住宅や幼稚園、小中学校、大学などの文教施設が基地を囲むように密集しているからだ。

宜野湾市の中心部に敷設された普天間基地=宜野湾市HP

この普天間基地に配備されている米軍機はこれまでに多くの重大事故をおこしてきた。2004年には、沖縄国際大学の構内に米軍ヘリが墜落する事故が起きている。2016年末にも、普天間基地所属のオスプレイが名護市の海上に墜落した。

名護市の海上に墜落したオスプレイ=沖縄タイムス、2016年12月

2016年12月の墜落事故以降1年間、オスプレイが起こしたトラブル=沖縄タイムス、2017年12月13日付

普天間基地に配備されているオスプレイ

◇米兵少女暴行事件を契機に反基地感情は最高潮に

1995年秋、米兵がおこした少女暴行事件を契機に普天間基地返還論がようやく議論の俎上に載せられた。翌年3月、日米両政府は普天間基地を5~7年以内に返還することで合意。県内にヘリポートを含む代替施設(普天間基地と同規模)を建設することが条件とされた。そんななか、移設候補先として浮上したのが名護市のキャンプ・シュワブの辺野古沖だ。

名護市のキャンプ・シュワブ、メインゲート前(2017年3月撮影)

さらに、98年移設先に浮上した名護市で行われた市長選では移設容認派候補が当選。この当時県知事も辺野古移設容認に傾いていたため、2002年辺野古沖合に新たな基地を建設することに県・市ともに合意した。

◇いまだに尾を引く「最低でも県外」の頓挫

2009年夏の衆院選において、政権交代を果たした鳩山・民主党政権は普天間基地の移設先を「最低でも県外」との公約を掲げていた。しかし、鳩山首相は辺野古移設を既定路線としていた米側から門前払いされ、もはや辺野古回帰は避けられない情勢となった。2010年5月末、首相は「辺野古移設容認」を閣議決定し連立を組んでいた社民党党首の福島大臣を罷免。6月に入って、その責任をとる形で鳩山内閣は退陣した。

辺野古移設閣議決定を報じる朝日新聞2010年5月29日付朝刊

政権交代からわずか8ヶ月での退陣。小沢一郎氏も表舞台から姿を消した。(朝日新聞2010年6月2日付夕刊)

鳩山政権の「最低でも県外」が頓挫してから、辺野古ありきが加速。民主党政権末期の2012年秋には野田佳彦首相が米海兵隊と普天間基地へのオスプレイ配備で合意し、沖縄県民の猛批判を受けた。

辺野古移設をめぐる問題で沖縄県民の信用を完全に失った民主党政権は、政権奪還からわずか3年3ヶ月で終焉をむかえる。

◇基地建設着工は現政権から

2012年12月に政権の座に返り咲いた自民党・安倍晋三政権。辺野古移設に反対する民意はゆるがないなかで、県と国の対立はより先鋭化していった。

2014年8月、基地建設予定地に埋め立て範囲を区画するため海上にブイが設置され始めた。翌年3月には埋め立て区域内にコンクリートブロックを投下し、域内に生息するサンゴ礁を死滅させている。

赤枠で囲まれた箇所が埋め立てられ、新基地となる(2019年2月24日撮影)

このように、辺野古新基地建設が着手されたのは安倍政権になってからだ。現在は、域内への土砂投入が少しずつではあるが進められている。

◇埋め立て区域内に超軟弱地盤 膨れ上がる工期と工費

2018年3月に沖縄県防衛局の調査によって、埋め立て区域内にマヨネーズ並みの強度である超軟弱地盤の存在が明らかになった。軟弱地盤が見つかった場合、大量の砂杭を打ち込む地盤改良工事が必要となる。そして、その工事は5年ほどかかる見通し。また、軟弱地盤は最大90mの深さまで到達しており、過去に70mを越える地盤改良工事の経験を持たない日本にとっては前例なき難工事になるとみられる。

埋め立て区域に見つかった軟弱地盤の地質図(2019年2月24日撮影)

この地盤改良工事も含めると、辺野古新基地完成には13年を要すると試算されている。工費も昨年末に沖縄県が算出した金額は2兆5000億円。

◇移設工事を強行する政権 今後は

これまで十数年間、在日米軍再編のなかで揺れてきた普天間と辺野古。現政権が完成まで民意を無視しながら、十数年間工事をすすめるとするならば、普天間の危険はその間置き去りにされたままだ。しかも、辺野古新基地は普天間返還の条件を満たさない基地。つまり、辺野古新基地が完成しても普天間は返ってこない可能性が高い。現政権は「普天間の危険を一日でも早く除去するため」と辺野古移設の正当化をくり返す。
いったい何のための正当化なのだろうか。

※今回掲載しました情報は、より多くの方に在日米軍基地問題を考えてもらうための判断材料にすぎません。ここで触れた内容について本編では深く掘り下げていきます。

・「作られた分断」マガジン
https://note.mu/snoopiro7/m/m30c31d875864

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