「NHKをぶっ壊す!」はどこまで広がる?
政治のことはよく知らなくても、「NHKをぶっ壊す!」というフレーズはどこかで耳にしたことがあるはず。
4年に1度の統一地方選挙で「NHKから国民を守る党」通称N国党が東京23区のうち17区で当選者を出すという大躍進を果たしました。が、通称N国党をご存知でしょうか?
◇受信料の支払い義務は法律で定められている
N国党の代表を務める立花孝志氏は元NHKの職員で、NHKの内部情報を週刊誌にリークしたことにより懲戒免職されました。
「NHKをぶっ壊す!」というフレーズは、この懲戒免職に対する腹いせに起因するものだと思われ、彼らの活動目的はNHKを解体することしかなく、それ以外の政治的主張はいっさい持たないのが特色です。
NHKはわが国唯一の公共放送で、営利目的である民放が放送しない手話ニュースや、低年齢層をターゲットとした教育番組を放映することで、あまねく国民の視聴ニーズに応えており、それができるのは、放送法第64条で支払いが義務化されている受信料を徴収しているからであり、CMを出すスポンサーからの広告料で成り立つ民放とは性質が異なります。
そして、NHKの放送網を支える受信料を「払う必要がない」と主張しているのがまさにNHKから国民を守る党なのです。
その理由について立花氏は「受信料を徴収しに来る訪問員の態度が悪いから」、「偏向報道がヒドいから」、「NHKを観ていない人にまで受信料を払わせようとしているから」の3点を挙げています。
私が一番気になるのがは、3つ目の「NHKを観ていない人も受信料を払わなければならない」というものです。
◇NHKに有利となる判例を作ったN国の大罪
現在、受信料の支払いを義務付けられているのは、自宅あるいは事業所にテレビを設置している者、ワンセグ視聴が可能な携帯やカーナビなどのデジタル機器を持っている者です。
要するに、これまで一度たりともNHKを観ていなかったとしてもテレビやAndroidスマホなどを所有していれば必ず受信料を支払わなければならないということになり、そこに対して、「NHKを観ない、観たくない人たちがNHKに受信料を払わなければならないってのはおかしい!」というのがN国党のスタンスです。
彼らは「テレビやスマホを持っていてもNHKを観たくない人は払わなくてもよい」と呼びかけていますが、これは立法を担う政治家自らが法律を破れと言ってるようなものです。NHKのやり口がいいか悪いかは別として、法治国家においてこの主張はいっさい通用しない、というよりかさせてはいけません。
ところで、今年の3月最高裁で「ワンセグ視聴が可能な携帯(Androidスマホなど)を持っている者は受信契約を結ぶ義務がある」という判決が出されましたが、じつはこれ、N国党の大橋議員と立花議員が原告となってNHKを相手に訴訟を起こし、わざわざ「ワンセグ付きの携帯を持っているだけで受信契約を結ばなければならないのか」と聞き、NHKが「そうだよ」って答えて、それがそのまま判例として成立してしまったのです。
つまり、N国側がこんなしょうもない裁判をふっかけなければワンセグ携帯の所持は受信契約義務の対象外のままでした。
バカのひとつ覚えみたく、「NHKをぶっこわす」とくり返してるうちに、NHKに有利となる判例を作ってしまった彼らの罪の重さは小さくありません。
◇ネット配信を開始へ チューナーの有無は考慮されなくなる?
NHKは早ければ、今秋から放送をテレビだけでなくインターネット上で同時配信をスタートさせる予定で、NHKはこれまで受信契約義務の対象外としてきたチューナー無しのパソコン、ワンセグ機能を持たない携帯電話も支払い義務の対象にする方向で調整しているとのことです。
これが実現すれば、日本に住む人はほぼもれなく受信料を支払わなければならなくなります。こんな理不尽を許していいのでしょうか?
◇NHKに拡大解釈を許さないためには
「NHKをぶっ壊す!」しか言えない集団にこれ以上、NHKが有利になるような判例を作られたら大迷惑なので、まずは彼らの主張にはいっさい与しないことが必要です。
彼らはNHKが憎いからという私怨を根拠に放送法第64条に定められた受信契約義務を守らなくてもいいと主張する違法集団であり、挙句の果てには「国民のために仕事をするのが我々の仕事なので、市民のためには働くな」と謎かけみたいなことを言い出す始末です。
法治国家では、国民であっても政治家であっても等しく法律を守らなければならず、罰則がないから破っても大丈夫などという屁理屈は通用しません。
さらに言えば、受信契約義務は法的根拠が存在するためテレビを設置しているにもかかわらず、設置していないと虚偽の申告をしていたことが発覚すれば、NHKはテレビを設置した年月に遡って受信料の支払いを求めることができ、実際にNHKに訴えられた人に裁判所から支払い命令が下った事例はたくさんあ離ます。
NHKに訴えられればまず勝てないと思った方がいいでしょう。
しかしながら、NHKはこれから支払い義務対象を広げるにあたっては公共放送であるがゆえの慎重さと謙虚さが求められます。
たとえば、「NHKと受信契約を結ばない者はNHKを観ることができなくなる」という措置が最も効果的とは思いますが、これでは受信料収入が減り、番組の質も職員の給与も下げざるを得なくなるという腹の声が聞こえてきそうです。しかし、もし、番組制作費を削りたくないのであれば、年1000万を超える職員の給与を減らすだけでも十分に対応できるでしょう。
NHKは世のため人のための情報を発信する放送網なのだから、嫌われ上等というわけにはいきませんが、NHKを観る人だけが、受信契約を結ばなければならないということであれば誰も反対しないはずだと思います。
最後にこれだけは言わせてください。
「NHKから国民を守る党」に騙されてはいけません。彼らは頭の悪さゆえにNHKだけでなく、国民生活もぶっこわすのですから。