帰る場所
私にはここ数年の記憶がない。
それは病気的な意味ではなくただ単純に覚えていないだけ。もしかしたら覚えていたくないのかもしれない。
自分の性分に合わないことばかりやっていたからだろうか、部分的に記憶がぶっ飛んだり吐き下したりすることが多かった。その時は本当に焦っていて、原因となるもの全てを投げ出してしまいたかった。なんなら人生丸ごとこの手で捨ててしまえと思ったぐらい。日常生活もおぼつかないなんて経験は初めてで、どうすれば良いか分からない。そのとき私は初めて自分を見つめ直したかもしれない。どうやら私は意外とストレス耐久が低いのだ、ということに気付いた。
なんでその原因物質を投げ出せなかったかというのはそこに数少ない私の仲間がいるからという簡単な理由でしかない。向こうがそう思ってくれてなかったら悲しいけどそんなことはどうでもいい。私にはもうそこしか居場所がないから。今考えてみると本気の病みだなと思う。でもその居場所を守るために、居させて貰うために、他の大勢にもここを居場所だと思って貰えるように必死だった。
学生は卒業やら入学やらで節目が多いからどんどん人間関係が新しくなる。昔のコミュニティなんぞ希薄も希薄。そんな中で幼い頃からずっと学生時代を共有する仲間がいるということが自分にとってどれだけ大事だったか。
そう考えれば考えるほど余裕はなかった。
それから彼らと共に色々良いことも悪いことも一緒に経験して何年かたった。10年近く一緒に居た仲間達とついに袂を分かつ時、ある人から声をかけられた。
「実は君がここで一番最初にできた友達だよ」
なんでだろう、本当かどうかは一切分からないけど限界な私には刺さった。直接的な表現が一番分かりやすく私を仲間と認めてくれた。どうやら私は些細な一言に涙を流せるらしい。
「これからもよろしく」
私にもいつでも帰れる場所がある。
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