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文章は800字が基本?

もう10年以上前の話ではあるけれど、ある交通系フリーマガジンの編集長から聞いた言葉がとても印象に残っており、今でもたまに実践しています。それは、
「人が一気に読める文字数は、800字が限界。だから見開きに800字以上は入れない」というもの。なるほど。だからその雑誌は本文量が少なかった。

800字となると、見開きのどこかに文字のかたまりがひとつあるだけ。よほど写真が強くない限り、ほかのスペースがもったいなく感じられるほどでした。
とは言え交通系の雑誌なので、次の乗り換えまでに読み切れる本文量という意味もあったようです。

一気に書ける文字数も800字かもしれない。

この話が気になっていた理由は、読むだけではなく、書いていても「800字の壁」があるな、と思ったから。
仕事であれ趣味であれ、文章を書く習慣のある人は誰でも経験があると思いますが、普段は苦労して書いているのに、なぜか一気に書けてしまうことがあります。
その「一気に書いた」ときの字数が、僕の場合はおよそ800字になっていることが多い。長くても1000字以内に収まっています。それは、数千字という長い文章の途中の800字でも同様です。

最近、良いプレーを続けるアスリートが、たびたび「ゾーンに入る」という言葉を使いますが、まさにそんな感じ。
書きながらゾーンに入ると、周りの音は聞こえなくなり、文章は勝手に空から降ってくる。それをつかまえて、キーボードに打ち込むだけという自動書記状態。

そうなるとゴールははっきりと見えてくる。早くたどり着きたくなる。その一方で、こんなエピソードも入れてみようとか、どのあたりで笑わせてあげようとか、心に余裕を残しながら思いのままに書き進めることができる。
やがて、意識的にこの状態を作り出すことが、書くことを職業にするためには必要ではないか、と思うようになります。

僕の場合、ゾーンに入って書く800字〜1000字に、要する時間は30〜40分ほど。長くても一時間。とは言え、乗らないときには2時間も3時間もかかりますが。
人によって違いはあるのかもしれないけれど、人が集中できる時間にそれほど差があるとは思えないので、だいたい似たようなものじゃないかな、と思います。

そして何より大切なこと。それは、ゾーンに入って気持ちよく書けた文章は、読んでいても気持ちがいいし、わかりやすい文章になっているはず、ということ。だからこそ、「人が一気に読める文字数は800字」なのかもしれません。
(ちなみにこのnote、ここまでで800字を越えてしまいました)

常にそれができれば苦労はしない。

ここまで読むと、この小見出しのようなことは誰もが思うはずです。
そこで言っておきたいことは、書き慣れた人ほど、この「ゾーン」への入り口がわかっているということ。とは言え、うかつにその入り口に向かわない理由は、一度ゾーンに入ると、かなりの体力を使うことがわかっているから。
文章を書くには体力が必要です。体力というか、脳の酸素摂取量。そしてそれを邪魔する雑念や煩悩の数々。

これらを解決しておかないと、せっかくゾーンの入り口に立ったところで時間の無駄になるだけ。途中でやめるか引き返すことになるわけです。
これは体調不良のまま、登山道に踏み込むのと同じ理屈。体調を整えて、カラダを温めて、ストレッチもしてから山に入らないとケガをするのと同じことです。

逆に言えば、取材や予備知識は充分。書くべき材料も、途中でどれかを捨てなければならないくらい充分に揃っている。そして文脈という名の、およそのルートは決まっている。ゴールもはっきり見えている。あとは体調を整えるだけ。
という状態を作り出せば、いつでもゾーンに入ることができます。

ついでに言うと、山に入るときの装備を文章に例えれば、山登りの道具は取材した材料や知識、磁石や地図は起承転結、山道を楽しむためのさまざまな知識は豊富な語彙、予備の食料はいざという時に使うエピソード。
などとも言えるかもしれない(これは今、書きながら思いついたことですが)。

多くの広葉樹に守られた森は、落葉の色もとりどりで、心地よい風景を作り出す。それぞれの葉っぱの色は、文章では語彙に例えられるのかも。←ワレながら、いいこと言ったつもりです。

だから、なかなか書き始めないライターさんだっている。
彼はわかっているんです。自分がゾーンに入るためには、どのようなココロの状態が必要であるか。だからこそ、たかだか800字程度の原稿は30分で書けるのに、書き始めるまでに2日も3日もかかったりすることがあります。

自分にとって、気持ち良く書ける文字数を把握しておく。

なお、ここで想定している文章とは、ワンテーマで自由に書くエッセーのような文章です。ところが雑誌の記事や小説などなど、世の中にはもっと長い文章の方が多い。資料を引用しながらの論文や、ビジネスの文書なども同様です。

しかし、どんなタイプの長い文章でも、この800字の積み重ねだと考えられます。読まれなくては意味が無いのだから、読んでもらえるように書く。そのためには、800字でゾーンを抜けたら一回休み。再びエネルギーを補填し、次に書くべきコンテンツを確認して、再び800字の旅の始まり。
これを一日に2回では物足りない。僕の場合、3回繰り返せば自分をほめてあげます。4回繰り返せば周りもきっとほめてくれる。

長い文章の中の一部である800字を、どのように位置づけ書き進めるのか。それについて話し始めると、今回も長〜い投稿になりそうなので、いずれ改めて。

なお、ここで言う「800字」には、体力、集中力、経験などなどによる個人差があるはずです。なので、書くことが好きな人には、一度「気持ち良く一気に書いたときの字数」や「ココロの状態」を把握しておくことをお勧めします。
これがわかると、文章を書くときのペース配分や、さらにはコンテンツの配分まで自在にできるようになり、書くことがさらに楽しくなるはずです。

その点で、noteには右上に字数が表示されるので、とても優秀なペースメーカーになりますね。






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