井伊家ゆかりの田んぼを見に行く〜静岡県浜松市北区井伊谷。
僕が一年でいちばん好きな5月が去りました。
とは言っても、梅雨の晴れ間、突然現れる6月の空は、5月よりも青くて明るいことがあります。
そんな日に、水の入った田んぼを撮影に行く人は多いようですね。水を引いて、いったん土と混ぜ合わせる「代掻き(しろかき)」という作業を終え、再び落ち着いた水面が見せる水鏡は、この時期ならではのもの。田植えを終えて、苗が少し成長して、うっすらと緑に染まる田んぼも、これまたうつくし。つまり、ここ一ヶ月しか見ることができない風景というわけです。
ここは、わざわざ見に行く価値のある田んぼです。
ここに引っ張り出した写真たちは、ちょうど2022年の今ごろ。6月上旬に撮影したものです。
浜松で友人に会い、新東名高速の「浜松いなさインター」から帰ろうと走っていた途中、道路の行き先標示に、「井伊谷(いいのや)」、「龍潭寺(りょうたんじ)」という文字が現れました。
そうか、大河ドラマの直虎の舞台だな、とわかりました。実を言うと、大河ドラマの中では、特に『おんな城主 直虎』が印象に残っています。派手な戦闘シーンが少なく、その代わりに事務仕事に追われる武士のようすや、領民の暮らしぶりにも細かく触れていて、とても好感が持てました。
そして何より、音楽がいいんです。あの劇伴を担当した菅野よう子さんはCM音楽の世界では有名な方らしいけれど、日本の古い民謡や童謡、ヨーロッパのトラッドにまで精通していないと、あのメロディは書けないはず。
などなど、ドラマの話はこのくらいにして、まずは出家した後の井伊直虎が過ごしていたという龍潭寺に寄り道。その後で、この田んぼを眺めました。順序は逆になりますが、まずは田んぼの方からご案内いたします。
なぜわざわざ田んぼを見に行ったのかと言うと、案内板には「井伊家発祥の井戸はコチラ→」と書いてあったから。ドラマの中では森の中に井戸があったけれど、実物は田んぼの中にあるんですね。
ミシュランガイド風に言うならば、この田んぼと龍潭寺のセットで、「クルマに乗ってでも、わざわざ見に行く価値がある」と思える風景でした。ここは、東京から約200kmくらいでしたっけ? 首都圏からは日帰りもできる距離。ついでに浜名湖で鰻を食して帰るもよし。
龍潭寺の庭は見ておかねば。
井伊家代々の墓所もあり、井伊家の菩提寺でもある龍潭寺は、臨済宗妙心寺派。それはもう由緒ある、立派な禅寺です。しかしその割に訪れる人は少なく、井伊家の宝物以外は撮影も自由で、とてもおおらかな雰囲気です。とは言え、祈りの場所では無闇にカメラを取り出さず、この静けさに身を委ねるのが正しい観光客のあり方というもの。
順路に入って間もなく、右手に大きな釈迦牟尼仏が現れます。とは言え、この仏像は傷だらけでとても痛ましく、写真は遠慮しました。
明治期の廃仏毀釈で、近所の子どもたちに転がされ、金箔が剥がされたとのこと。その後も傷だらけのまま、手が届きそうな目の前に鎮座されています。座像ながら3mの大きさ。この仏像は、遠州でいちばん大きい仏像らしい。
興味がある方は、ぜひぜひその目でご覧ください。
そして何より、このお寺は庭園で知られています。作庭は小堀遠州。江戸時代初期の作品とのこと。デヴィッド・ボウイが愛した、京都・正伝禅寺の庭も小堀遠州だったけれど、小堀さん、みごとに繋げてくださいましたな。
ここでもツツジの刈り込みが多用されている。
デビッド・ボウイに見せたかったな。この庭は横に広く、そのスケール感も見どころのひとつ、パノラマで撮る以外にありません。
《中央に守護石、左右に仁王石、正面に礼拝石(坐禅石)が配され、更に池の型が心字池となっていて寺院庭園として代表的な庭である。数多くの石組みと築山全体で鶴亀が表現されている》とは、龍潭寺のウェブサイトによる説明です。
なおこのとき、運良く「井伊家宝物展」も開催中でした。こちらはさすがに撮影禁止。長篠の戦では、長大な馬防柵を速攻で仕上げた功により、織田信長から褒美でもらったという、あの天目茶碗も信長の花押とともに展示されていましたよ。
今年は全国的に梅雨入りが早く、6月上旬の青い空をなかなか拝めそうにありません。でも、もしも晴れたら、この日帰りコースはお勧めです。もちろん遠く離れた地方の方も、ぜひ近所の田んぼへ。あれは何年前だったか、岩手県花巻市の広〜い田んぼは、点在する屋敷林が島のようで美しかったなぁ。
などなど。日本ならではの田園風景が、最もキラキラと輝く季節をよ〜く見ておきましょう。