[ネタバレあり]映画:「西湖畔に生きる」自己承認欲の悪用
映画: 「西湖畔に生きる」を見ました。
劇場公開日: 2024年9月27日
撮影監督: グオ・ダーミン[郭達明]
総評
ストーリー: ★ x 7
キャラクター: ★ x 6
演技: ★★★★★
演出: ★★★★☆
映画館で観たい: ★★★★☆
総評: ★★★★★★★★☆☆ (8.0/10)
中国の田舎の映像美から始まり、マルチ商法やカルト宗教にハマらせる手法や、洗脳されて狂ったり、それを取り戻そうとする家族の様子の演技が狂気の域でした
あらすじ(公式サイトより)
最高峰の中国茶・龍井茶の生産地としても有名な西湖(せいこ)
そのほとりに暮らす母・タイホア(苔花)と息子・ムーリエン(目蓮)が本作のメイン。
タイホアは山の美しい茶畑で、茶摘みの仕事で生計を立て、ムーリエンは大学卒業後に見つけた仕事は詐欺まがいで、仕事は続かず、無職になってしまう。
一方、タイホアも、茶畑の主人チェンと懇意になったことで、
その母親の逆鱗に触れ、茶畑を追い出される。
そんな時、タイホアは怪しげな「足裏シート」を販売するバタフライ社に出会う。その実態は違法なマルチ商法だった……。
彼らに洗脳され、別人のようになってしまうタイホア。
ムーリエンは、母をなんとか違法ビジネスの地獄から救い出そうと
一線を超える決断をする……。
感想
中国の茶畑の美しさを描いた映像から一変
この映画のタイトル「西湖畔に生きる」や
オープニングは明朝の西湖のほとりにある茶畑の茶摘みの様子を
わざわざドローンまで用いて上空から撮影しており、
自然や昔ながらの農業を営む農家の一日を追っている映像だったので、
自然の美しさを織り交ぜながら農家のドキュメンタリーのような序盤。
後から再考するといい形で騙されたなと思いました。
マルチ商法のリアリティ
しかし、母親が茶畑の主人と不倫がバレて茶畑を追い出されたところから一変。都会に出た手の時や金銭不足や心が弱っている時には一攫千金を追うのが人の常のようです。
そんな時に、カルト宗教マルチ商法に引っかかる場合が多々あり、自分が承認されることもなかったこの母親も見事に引っかかっているが、そのプロセスが妙にリアルで臨場感がありました。
いつの間にか自らもサクラの一員になっている被害者。自己承認欲求をこれでもかというぐらい昇華させる手法。
まあ盛り上がっているパーティにステージにあがり目の前でマイク越しに勧誘されればYesとしか言えないわな。と同情せざるを得なかったです。
調べてみると、撮影監督自ら実際のマルチに潜入取材を試みて、実際の洗脳プロセスやそこから商品を購入したり勧誘行為が全く恥ずかしくなくなるかを調査し、実際に体験しているのでリアルさに拍車がかかってました。
マルチにハマる前は、田舎の美女なナチュラルメイクで伝統的な農家の服装だったのが一変。ハマった後は、急に金持ち風のメイクや派手な服に身を纏っており、自己承認に満ちる前後の母親の凶変っぷりがわかりやすかったです。
素の状態で狂気の演技が見どころの一つ
この作品は、仏教の故事で、釈迦の十大弟子のひとりである目連が地獄に堕ちた母親を救う「目連救母」にヒントを得ており、メインテーマの一つ。
マルチにハマってしまった母親、それを救おうとする息子。ただいくら息子が言っても聞かない母親。特にワンシーンでは警察が介入し、その後釈放こそされたが、それでも目を覚さず狂気に満ちた母親とそれを必死に救おうとする息子の迫真の演技。
演技というより俳優は事前情報を与えなかったようで、そのことが、狂気の人々を"演じる"のではなく俳優が素の状態から文字どおり狂気に至った。と監督インタビューであり、その狂気のシーンだけでもスクリーンで見る価値はあったと感じました。
ラストと総評
まあそんなマルチで一攫千金なんて結局できずにマルチ会社は摘発され、全てを失い母親は廃人同然となってしまいそれを支える息子。
とはいえ世間は"そんなこともあったっけ"と全て流れてしまう様子と当事者の失った儚さ。それを自然の中で抗う映像は厳しさとそれを浄化する様子に見えました。
この筆者も入ってはいないがマルチに勧誘されたことは何度かあり元々入っていたがコロナ前に足を洗っている友人もいます。
共通して言えるのは、社会人の知らない人との付き合いは慈善だけはなく、基本的に自分のメリットもどこかで考えている場合が多く、上手い話には裏があり、上手い話手のメリットがない。
無料や安くていい話なんてないものです。
ということを学生上がりだったり、急に社会に投げ出された時にはわからないのでハマってしまう要因がゴロゴロあるものです。
社会は恐ろしいです。
蛇足ですが、息子役のウー・レイ[呉磊]氏、カッコ良すぎます。