ソシャゲで薄利多売が出来ないワケ
「1人から1万円取るんじゃなくて、10人から1000円取ればいいのに」
ソシャゲで遊ぶユーザーの大半が考えたことがあるだろうし、実は僕自身も同じように考えていた時期があった。
それも、実際に運営側に回るまでではあったけれど……。
ネットサーフィンしてたら、久しぶりにこの手の主張を見たので、今さら感があるけど、改めてこの件についてまとめてみようと思い立ったので、勢いでまとめるぞ。
■無課金の壁
さて「1人から10000円を貰う形を、10人から1000円貰う形に変える」
それをザックリと図解すると、こういう感じだ。
このイメージについて異論は無いと思う。
さて、それじゃ次に、この図をより現実の運営に近付けてみよう。
キーになっている「10000円」という額。これがどういうモノかによって、大分話は変わってくるんだけど……。
まずは単純に、「10人に対して合計10000円という売上を達成したい」という観点で考えてみよう。
そして、運営的な現実に即した数値を一つ反映しておきたい。
それは課金率だ。
課金率と一言で言っても、
「毎日の課金率」
「毎週の課金率」
「毎月の課金率」
「運営全期間を通しての課金率(課金経験)」
と、まあ情報として考えれるものは色々あるんだけど……。
今回は、毎月の売上目標ということを考えて「月間の課金率」で考えてみたいと思う。
ここからは、個人的な経験則に基づく数値になってしまうけれど、月額の課金率は大体30%に対し±5%程度に落ち着くことが多い。
今回は分かりやすく、さらに低めに見積もって20%=10人中2人としてみよう。
こんな感じだね。
2人が5000円ずつ払ってくれたら、目標額達成だ。
1人あたり1万円……ってところより額は小さくなったけれど「1人あたり1000円」という目標からは遥かに遠い。
じゃあ、ここから10人で1000円ずつ――
となるか、というとならないわけだ。
もう一度、思い出して貰いたい。「月間の課金率」について、なんて書いたか。
月額の課金率は大体30%に対し±5%
……そう、これは「これ以上、課金率増えない」ということでもあるのだ。
なので、課金率を踏まえた現実を、図にするとこうなる。
「そんなことないんじゃない?」と思うでしょ?
例えば――
『販売物の値段を下げたらいいんじゃない?』とか『運営の努力が足りんないんじゃない?』とかね。
さてここからは私見だ。
まず値段を下げたとしても、課金しないと決めている層は、本当に、ビックリするくらい、無課金スタイルが揺るがないのだ。
恐らく無課金で積み上げてきたプライドとか、そういう部分を、課金という行為で汚すような感覚があるんじゃないかと思う。
もしくは、ゲームに課金するという行為自体に、拒否感があるタイプかだ。
運営施策として100円でゲーム内で1万円相当の商品を買えるとかであれば、もう少し課金率は上がるかもしれない。
ただし安易な安売りは、その場で課金率が上がったとしても、長期的には毒にしかならないので、「やれない」ではなく「やらない」
というわけで今回の場合、なんとか色々頑張って「なら、ちょっと課金してみようかな」と思ってくれる人の余地が、20%から35%まで伸びたらいいなという感じだ。
その先には、絶対的な「無課金の壁」がそびえたっている。
つまり最初の目標を、課金率という現実に合わせると……こうなる。
1人の負担を10人に分配するのではなく、2人の負担を3.5人で分配する。
目標額1万円なら、1人当たり約3000円ほど。
これが「一人当たりの課金額を減らして、課金者数で補う」としたときに、現実的に運営側が取り得るプランだ。
■金銭感覚の壁
10人に対して売上1万を目標とした時に、頑張って「2人から5000円を貰う形を、3.5人から3000円貰う形に変える」のがせいぜい。
……という所まで話したが、じゃあこの「3000円」というの額は、課金者にとって「高価なのか?」「安価なのか?」という所を考えてみよう。
だって、そもそもこの話は、1人1万円は高いよって前提からスタートしたものだと思うし。
「そんなの、人によるでしょ」って、思ったアナタ……。
正解です。
まあ身も蓋も無い話だけど、お金の価値というのは、払う人によって全然違うんだよねえ……。
でもここをあえて、個人的経験に基づく、独断と偏見で、課金への感覚と許容額をザックリとしたグループに分けようと思う。
A:ゲームに課金とかありえない。課金は負け。絶対無課金。なんなら無課金で課金者を倒すのが楽しい。
B:よほどコスパがいい商品に限って、1000円以内なら課金しないでもない。
C:毎月1000円前後なら課金する。買うとしたらガチャなどのランダム性があるものより、課金パスのような投資価値が明確なもの。
D:10連ガチャ単位で考えるが、1万円で一番コスパ高い課金石を月1回購入が限度。
E:月の娯楽費は、基本ゲームへの課金につっこむ。大体3万~5万位に収まって欲しい。
F:欲しい商品は全部買う。10万円台でもOK。
G:金に糸目はつけない。ゲーム内のトップを狙う。課金上限なし。
もちろん、ここに含まれない人もいるだろうけど、あくまで「大別したら」という感じで見てほしい。
ここでポイントとなるのは、CとDのグループの金銭感覚の差だ。
Cの層にとってみれば、5000円の課金額が3000円になったところで、「高い……」という感覚が変わることはない。
Dの層にとってみれば、元々10000円くらいまでは課金にためらいがないわけで、課金率アップのために運営が行うアレコレで、お得になった感はあるだろうが、課金額としてはそう変わらないだろう。
つまり課金率を上げつつ一人当たりの平均課金額が5000円から3000円に収まるように努力したとして――
ユーザーの体感的に大きな変化が無いのだ……!
お分かりいただけるだろうか……。
ユーザーの金銭感覚に合わせていくと、ハンパな薄利多売は意味がないのである……。
ハンパじゃなくすれば、確かに意味はあるかもしれない。
が、そこまでの一人当たりの顧客単価の減額をしたとしても、課金率の壁によって、減った利益を人数で補えない以上は、ただ売上が減るだけなんだ……。
とまあ、色々語ってきたけど、敢えて触れてない話題が。
それは課金率を20%から35%に上げるのは、実際にやるとドチャクソ大変だってこと。
一時的になら、施策的にやれなくはない。
けれど恒常的となると、話が大分変わる。確実に、抜本的なマネタイズシステムの改修をしないといけないレベルだ。
というか、運営の立て直しみたいな話だよ。毎月の課金率を20%から35%に引き上げるっていうのはね。
そこまでやるからには、当然改修費用も売上として回収しないといけない。
つまり「顧客単価を落とす」だけなんてことは、やっぱり許されないんだよなあ……。
という感じで、色々と並べ立てたけれど、なんとなく理解して貰えたろうか?
ソシャゲで薄利多売が出来ないワケ。