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西インドのアチャール

今回は、西インドの各州ごとにユニークなアチャール(漬物)をご紹介していきます。インドは広いので、地域によってアチャールの味も風味も全く違います。ちょっと個性が強すぎるかもしれませんが、それぞれの州ならではの味の冒険を楽しんでみてください。ちなみに、私もアチャールの知識は勉強中ですので、ぜひ一緒に楽しんでいただけるとうれしいです。


ゴア州(गोवा)

ゴア州でよく見られる「Balchão(バルチャオ)」は、魚やエビを使ったアチャール風の保存食で、特にエビを使った「プラウン・バルチャオ」が人気です。バルチャオは、ポルトガルの植民地時代に伝わった料理で、スパイス、酢、唐辛子を使い、ゴアの暑い気候でも保存が利くよう工夫されています。風味を決めるポイントには、カトリック家庭で好まれるココナッツビネガーや、ヒンドゥー家庭で使用されるサトウキビビネガーがあり、タマリンドが酸味のバランスを取ります。スパイスにはカシミールチリやビャダギチリが使われ、赤く鮮やかでマイルドな辛さが特徴です。また、風味を深めるアサフェティダや甘味のジャグリー(非精製砂糖)も加わり、甘酸っぱくスパイシーな味わいが楽しめます。
マサラのバランスは私がマンガロール料理の先生に教わったものに類似しています。「バルチャオ」という言葉は、ゴアの人々にとって郷愁を感じさせる響きがあり、移民にとっても故郷の味として愛されています。ゴア移民の波乱万丈の物語を描いた小説『Bombay Balchao』(英語)は、ムンバイを舞台にしたゴアの家族の物語で、現在日本でも購入可能です。



グジャラート州(ગુજરાત)

グジャラート州で人気の「メティア・ケリ(Methia Keri)」は、酸味の強いラジャプリ(Rajapuri)種の生マンゴーを使用した伝統的なアチャール(漬物)です。このマンゴーは皮が薄く種が小さいため、細かくカットして漬け込むのに適しており、フェヌグリーク(メティ)やマスタードシード、赤唐辛子、塩などのスパイスと共に漬け込まれます。その結果、甘酸っぱく少しほろ苦い独特の風味が生まれます。グジャラート州のアチャールの多くは、スパイスと砂糖を混ぜて太陽の下で1週間以上発酵させる方法で作られます。この工程で砂糖が自然に溶け、素材と調和することで、奥深いコクが生まれるのが特徴です。ただし、「メティア・ケリ」の場合は砂糖を使用せず、スパイスと塩、油でシンプルに漬け込むことが一般的です。ロティやパラタ、カレーなどと一緒に食べることで、食事に深みと風味を加える一品です。グジャラート州で砂糖を加える背景には、乾燥した気候が影響しているとも言われています。塩味を抑えつつ、発酵を過度に進めないよう砂糖の「浸透圧作用」を利用して微生物の活動を制限し、風味を保つためと考えられています。



マハーラーシュトラ州(महाराष्ट्र)

マハーラーシュトラ州では、酸味の強いトータプリ(Totapuri)種のマンゴーがアチャールに使われ、塩やマスタードシード、唐辛子などのスパイスで漬け込まれます。また、小ぶりなカグディレモンを使った「リンバチェ・ロンチェ(Limbache Lonche)」も人気で、塩と砂糖を加えて酸味と甘味のバランスをとった万能な味わいです。ムンバイ特有のアチャールとして、ボンベイダック(Bombay duck)や、パールシー教徒の間でもペルシャとインドをかけ合わせた独自の食文化があります。

パールシー教徒はペルシャ(現在のイラン)からインド西部、特にグジャラート州やムンバイ地域に移住したゾロアスター教徒の子孫。ムンバイでパールシー料理をデリバリーする(Farzeen's Kitchen では魚の卵を使ったアチャールも販売している。

左下:魚の卵をマリネして揚げている

ラジャスターン州(राजस्थान)

ラジャスターン州の乾燥した砂漠地域では、水分や食材の保存が非常に重要視されており、アチャール(漬物)は保存性を高めるための知恵が詰まった食品です。特に人気のある「ムリ・モグリ アチャール(Muli Mogri Achar)」は、ムリ(ダイコンの根)とモグリ(ダイコンの未成熟なさや)を使ったピクルスで、風味豊かで保存性に優れた一品です。

このアチャールは、まずムリとモグリを洗浄し、塩と油で下味をつけた後、フェヌグリーク、クミン、マスタードシード、赤唐辛子、アサフェティダ(ヒング)などのスパイスと一緒に漬け込みます。さらに、保存性を高めるためにラジャスターン州では乾燥マンゴーの粉「アムチュール」を加えることが特徴的です。アムチュールは、酸味を与えながらも果実を加える必要がないため、乾燥地帯での保存食に適しており、食品の酸性度を高めることで腐敗を防ぐ役割を果たします。


こうして見てみると、西インドにもアチャールには驚くほど多彩なバリエーションが存在し、それぞれが地域の風土と人々の知恵を反映しています。アチャールは単なる漬物を超え、家族の歴史と共に受け継がれてきた宝物のような存在です。次回は北東インドの各州のアチャールをご紹介していきますので、どうぞお楽しみに。


アートオブピックルについて

アートオブピックルは、広島県尾道市の島で地元の食材を使ったオリジナルピックルをお届けしています。自分の目で直接みて、信頼できる人から仕入れた質の良い素材で作っています。瀬戸内のレモンを使ったピックルを以下のサイトから注文できます。ぜひお試しください。


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