『リーゼ・マイトナー:核分裂を発見した女性科学者』読了記録 第57回夏休みの本(緑陰図書)(全国学校図書館協議会)高等学校の部を読んでみた(2)
第57回夏休みの本(緑陰図書)(全国学校図書館協議会)高等学校の部を読んでみた(3)
★『リーゼ・マイトナー:核分裂を発見した女性科学者』
マリッサ・モス 著
中井川 玲子 翻訳
岩波書店 (2024/3/28)
以下、出版社web siteより引用
「二十世紀前半、物理学が大きな発展を遂げた時代に活躍した物理学者、リーゼ・マイトナー。なかでも「核分裂の発見」という業績は後世に多大な影響を及ぼしたが、第二次世界大戦後、発見の栄誉は共同研究者に奪われてしまう。ユダヤ人差別、女性差別に遭いながらも研究を続けた、「人間性を失わなかった物理学者」の生涯をたどる。」
※感想
不勉強で、この本の主人公について、この本を読むまで全く知識が無かった。女性の科学者が珍しかった時代、戦争の時代、ユダヤ人への迫害の時代、そんな困難な時代を信念をもって生きた一人の人間の生涯を描く好著だと思った。
本書では、マイトナーの生涯を40章にわけて追っている。各章の初めにその章の内容の概説や、文章だけではわかり難い科学的な内容を漫画で説明していて読みやすかった。
オーストリアに生まれ、ドイツで研究職を得ながら、ナチスによるユダヤ人迫害から逃げなければならなかったこと。研究者同士の派閥争いや女性差別など、いまでも無くなってはいない悲しい現実が書かれていて、読んでいてつらくなる部分もある。しかし、オランダへの出国やスウェーデンでの就職など彼女の周りには、彼女を助ける研究仲間もたくさんいたことは救いだ。核分裂の発見者の一人であると最近では認められているとのことだが、ノーベル賞は共同研究者一人に独占されてしまっている。
しかし、彼女の死後ではあるが、その功績を称えて、元素の名称に彼女の名前が冠されている(原子番号109;マイトネリウム:Mt)。
巻末には、彼女の詳細な年表と本書に登場する科学者の一覧が短い解説入りでまとめられていて、さらにこの時代のことを勉強したいものには良いガイドとなっている。理系を目指す若者だけでなく、多くの大人に読んで欲しい本だ。