マガジンのカバー画像

ハイファンタジー「虹の向こうへ」作品関連

8
運営しているクリエイター

#キャラクター小説

【短編】Before Dark

テーマ:余映 [日が沈んだり、灯火が消えたりしたあとに残った輝き。]

 落日の余映が、室内を仄かに明るく照らしていた。
 季節の節目に向けて少しずつ遠退く陽、その輝きは空に美しくも奇妙な色を浮かび上がらせる。光の屈折に、水蒸気による散乱。古典で読んだ現象への理屈を辿りながら、空の燻みに漂う彩雲を見上げた。
「……戻らなきゃ」
 足下に倒れた少年に肩を貸し、透火(とうか)は自分よりも大きな身体を

もっとみる

【短編】愛日

愛日......冬の日光。冬の穏やかな太陽。時間を惜しむこと。

 彼女の死が思い出となるまでに、どのくらいの星が眠りに落ちたことだろう。
 一人の夜を忘れた刹那は、春の夢のよう。再び襲い来た寂しさとかなしみに、毛布を被って誤魔化す日が続いて一つ二つと闇を重ねる。
 止まらぬ時計の長針に急かされ生きて、二年。
 瑣末ながらも長い時間が記憶に残ることはなく、短針が脳に記憶を刻み出したのは、花も凍る冬

もっとみる

【小噺】透火の好きなもの

 透火(トウカ)はドリアが好きだ。
 ドリアは野菜を溶かしたホワイトソースを炊いた穀物にかけ、発酵した乳の塊を薄く切って乗せた料理だ。これをじっくりと焼き上げることで風味をより楽しめ、冬に食べると一層美味しく、味わい深くなる。
 この美味しい料理は、小麦粉が主食の王城でも、滅多にお目にかかれない類の代物だ。なにせ、この材料自体、運搬過程に課題が多く、食べられる状態で王城に届くこと自体、年に一度ある

もっとみる