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【小話】安眠の作法

 最近寝つきが悪い。

昔からどこでも寝れるのが自慢で、のび太君キャラを自認してきただけに正直なところショックだ。
僕は不眠とは無縁だと思っていたのだが、やはり男齢三十を越えてくると色んなとこにガタが出だすようである。

特に生活習慣が悪いわけではないと思う。生来の朝型人間で、休みの日でも極端な夜更かし朝寝はしない主義だ。「寝る直前にものを食べると寝つきが悪くなる」という話を聞いてそこも気を付け、夕食もなるべくさっさと摂るようにしている。お酒が悪さしてる線もあるが、こちらもそれほどは深酒しないようにはしている。だが寝つきが悪い。スマホを見ずに目をつむってもそのまま何時間も覚醒していたり、

やはり寝れないというのはストレスが溜まるし、翌日にダイレクトで差しさわりが出るので何とかしたいものである。

そんなことを思いながら仕事中あくびを噛み殺していた僕に、先輩が「寝不足か?と訊いてきた。そうです最近寝れなくて・・・と、上記の悩みを打ち明けると、先輩も同様に不眠で悩んでいたそうで。やっぱり歳を重ねるごとに睡眠の悩みを抱える人というのは増えるようだ。

しかし、「悩んでいた」とのことで、先輩の睡眠障害は一定の解決を見たそうで、ここはやはり人生の先達に教えを乞いたいと、安眠の秘訣について色々聞いてみたのである。
例によってオチもなにもないただの備忘録ではあるが、僕同様に眠れない人のヒントになれば幸いです。


一、身体を清める

 すなわち「風呂に入れ」と言い換えて差し支えない。僕は基本的に寝る前にきちんと風呂なりシャワーなり入るのだが、その辺がまちまちになってたり、朝入るのが習慣になってる人も結構いると聞く。

温浴が副交感神経を優位にしてリラックス効果を得られるのはよく聞く話だが、先輩曰くそれよりも、「心の引っ掛かりをなくす」方が大事なのだという。
風呂に入らなきゃと思って入ってない罪悪感、汗でべたつく髪、肌の違和感。ふとした時に気付く自分の体臭。歯磨きしていない口内にも同様なことが言えるか。こういうものが意識下でも無意識下でも安眠を妨げているので、寝るときにはそういった日常の汚れをすべてリセットする習慣をつけるのが大事なのだという。
洗うだけでなく、髭剃りなどももう夜に済ませてしまうのがよいらしい。朝はバタバタするし、じっくりきれいに剃って保湿剤を縫ってさっぱりすれば、その気持ちよさもリラックスにつながる。

更に付随して、寝間着についても考えた方がいいそうだ。僕は着古したTシャツなどを寝間着に使いがちだったが、そうではなく「寝るときの服」をきちんと決めた方がいいそう。それを着れば体が今から眠るのだと認識できるようにである。
あと体への締め付けは無い方がいい、吸湿・吸汗性など、諸々の点で先輩的にはバスローブがおすすめだそうだ。白い無地のバスローブ。ホテルなどで着慣れずなんとなく落ち着かないのだが、慣れるとこれじゃないと寝れない境地までいけるそうなので、真似してみようかと思う。

一、光を見ない

 これもまあ、頷ける話である。元来夜に光は無いものだ。人間は文明によって夜でも明るい生活を手にしているが、生物としての遺伝子には「夜は暗いものである」と刻み込まれている。なかには暗いと不安になって眠れないという人も居るそうだが、それはまた別個の話になりそう。僕自身光が気になる性質なので、なるべく真っ暗にして寝るようにはしてる。

遮光カーテンを使う、寝る前にスマホはいじらない、などはよく聞くが、先輩は更に光をカットするために目に覆いをかけるべきだと言う。

となるとアイマスクが思い浮かぶが、正直僕はアイマスクをつけて寝れたためしがない。実際光が気になってつけて見たが、それ以上に締め付けが気になったのである。先輩も同様だったようで、そこでオススメされたのはハンカチである。ハンカチを顔の上に置いて寝るそう。

綿のしっかりしたものだと息苦しさがあるので、絹の薄手のものがいいらしい。清潔にして、好みのアロマなどを少量かけてもよい。(かけすぎて匂いが強くならないように注意)

これはやってみたが実際悪くない。顔の上に物が乗ってる感じはあるが、光を気にするあまりうつぶせになるよりはよっぽど息がしやすいし、そのうちハンカチの存在も気にならなくなった。

一、室温を下げる

 これはわりとびっくりしたが、先輩は冬でも冷房を入れることが多いらしい。気密のしっかりしたマンションでは暖房をかけなくても暑くなりすぎるということだそうだ。夏は当然のように最強冷房にしてるとのこと。

たとえ室温が20度前後で過ごしやすいとしても、寝具の中の体は体温がこもるので、局所的に30度を超えるわけでその分寝苦しくなる、室温は寒いくらいでよい、寒い分は布団などでカバー。というのが持論だそう。

極端ではあるが、暑いよりは寒い方が寝れるというのはなんとなくわかる話ではあるとは思った。

一、スペースを絞る


 曰く人間にセミダブル以上のスペースは必要ないらしい。シングルで十分、なんなら90度くらい難なく寝返りが打てるくらいあればOKとのこと。
寝相が悪いというのは結局のところ上記から生じる寝苦しさからくるもので、慣れれば朝までほぼ真っすぐな姿勢で寝れるしそちらの方が眠りも深いとのこと。理想はカプセルホテルのような睡眠スペース。

あとこれも精神的な話であるが、人間にはパーソナルスペースというものがある。公衆の人と居れる距離、親しい人との距離、そして何人も入れない自分だけの距離。この最小単位のスペースを、壁と天井・ベッドの幅できっちり区切ってあげるのが心の安らぎにつながるのだという。

思えば子供のころ二段ベッドで寝てた時期があったが、あの頃はほんとによく寝ていた気がする。子供だったからというのもあっただろうが。
閉所恐怖症のような人も居るのでこれも万人に通じるかというと何ともだが、個人的には結構共感を覚えた。
ふと思ったが今のアパートがロフト付きの構造もあって天井が高すぎるのがよくないのかもしれない。それ以外にも不便多く正直あまり肌に合わない住環境なので、早く引っ越したいものだ。


 とまあ色々メモしてみたが、先輩が最後に言うには「本当に眠れないのがストレスな時はさっさと睡眠導入剤を飲むべき」という。
なんとなく依存性とか、危険な気がして敬遠しがちだが、処方の元適切に使えば当然危険なことは無いし、なんなら薬局で診察無しで買える睡眠補助薬(効き目の弱い睡眠剤)もあるので、とりあえず手元に持っておくとよいということで。
僕もさっそく買い求めてみたが、人間心理とは案外単純なもので、「いざとなったら薬がある」と思うだけで割と気が楽になるのである。買ってしばらく経つが、まだ1粒も飲む機会はない。


・・・なんだか冗長になってきたのでこの辺にしておこう。睡眠の悩みというものは割とみんな経験すると思うので、そんなとき本稿を思い出してもらえれば。

眠れない夜は身体を綺麗にし、室温を下げ、顔にハンカチで光をカット。狭いベッド空間に体を潜らせ。いざとなれば薬もある、ということで。

おやすみなさい。

 

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