鏡
わたしは
鏡には何も与えない
姿も愛も風景だって
与えるつもりはない
ただ鈍色をして地に伏せていればいい
鏡よ
与えないと云うのに
鏡は
欲張りにもこの世界を次々と掠めとる
映す権利など認めないというのにわたしの姿を
(しかも老いをあからさまに)映し
恥ずかしげもなく
わたしの手に収まっている
手鏡
太陽でもないのに
きらきらと光を放ち
映写機のようにすべてを流れるようには
見せないくせに
すべてを反転させて見せる
反対側の世界を映すのなら
せめて昼を夜に
夜を昼に
映せよ
主義主張を映すのなら
その反対の意見も
強き者しか映さないのならば
その反対側の弱い者の姿を映せよ
咲き誇る花を映すのならば
散った花の残骸をも映す余地を残せ
そうして反対側の世界を
映していけ
生を映すのなら
必ず死を映す余地を残せ
鏡よ
鏡