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作品を生む4つの要素 #7

一人のパントマイミストが自身の作品を成り立たせるために必要な要素を上げるとしたら

脚本:物語を創作する力
演出:脚本の内容を構成する力
テクニック:演出に沿って表現する力
演技:感情を伝える力

の4つのスキルが必要だと考える。
それぞれのパラメーターが100としたら、自分にはそれぞれどのくらいの数値をイメージするのか。自分の事を知っておくことは作品を生み出すこと、そして活動を継続させていくという側面においてとても重要だ。不足している部分や特化している部分を考えることで、今後の活動の方向性を見出す参考になるだろう。

脚本を書く力

パントマイミストは自身で作品を書かなくてはならない。なぜなら、演劇などのお芝居の台本は”台詞”有りきで書かれているからだ。無言劇として創作するつもりなら、基本的には台詞やナレーションがなくても成立する作品にしなければならないし、小道具や舞台セットを用いず、全てパントマイムで演じるのであればそれがどんな世界感なのか、物語設定がお客さんに伝わるよう構成しなければならない。どのようなお話にし、どうやって起承転結をつけるかという点で、台詞のある脚本とは違う方向から脚本を書く力、物語を構成する力が必要となる。

また、パントマイムの表現は多岐に渡るので、場合によってはダンス的な空間表現に特化することもあるし、不条理で理解の難しい作品であることも魅力の一つだったりする。これらの方向性で作られた作品であっても、作品としての流れは構成されているので、それらも含めて脚本を書くというくくりになる。いずれにせよ、演劇の台本をそのまま流用は出来ないため、パントマイム作品として物語を創作する力は必要である

演出する力

大前提として言葉を用いない作品であった場合、どのような物語なのかが伝わるよう構成する必要がある。場面設定として【場所、季節、時間、人物、目的】などの要素がまるで理解できない作品は、集中力や想像力が物凄く必要となる。観ているだけで疲労する作品は、結果的に観ることを放棄し、お客さんは傍観しだす。それでは楽しめない。

エンタメを目指した作品ならば、物語が最低限理解出来るように、演劇的な側面として衣装や小道具、舞台美術や音楽の取り入れ方を考えなくてはならない。また、場面や役柄が一人の演者で切り替わることの出来るパントマイムのテクニックを用いたのならば、今の場面や場所、役柄を観ている方にも自然に伝わるような展開方法を考える必要がある。これらが演出力である

パントマイム作品ならではの効果的な演出方法も存在しており、例えばその場で一回転すれば別の役に変化するとか、スライド移動することで場所が移り変わったりなど、衣装やセットを変えなくても、場面を切り替えていく演出方法がいくつもあるのだ。落語家さんが左右に顔を振ることで役柄を変えたりするものも、そのジャンルならではの演出方法だろう。演劇における手法と違っている以上、パントマイムを学ぶ中で知っておかなければならない脚本の内容を構成する力が必要となる

テクニックを使う

どのような作品においてもパントマイムで演じるならばテクニックを用いることになる。テクニックというのは、いわゆる壁やロボットなどの不思議な動きのことも含むが、それ以上に見えないものを認識させる技術だったり、場面を理解させる為の体の使い方のことを言う。

ものを持ち上げたり、ドアを空けたりのシンプルな動作でも、一挙手一投足にこれらのテクニックの出番があるし、暖かさや寒さなど空間的な要素も体の使い方で生み出す事が出来る。それらの所作がわざとらしかったり、これ見よがしに演じられると場面のリアリティがなくなり、その作品が嘘の世界のものとなる。以前も語ったように虚構と嘘は別物だ。嘘を感じると笑えないし泣けない予定調和のものとなってしまう。

難しいのはテクニックをさらっとやることだろう。パントマイムを習って間もない場合や、テクニックを大仰なものとして受け取ってしまうと、脚本の意図に沿った物語ではなく、自身のテクニックを目立たせてしまいがちだ。大げさなテクニックが必要のない作品の場合は、そこだけが悪目立ちしてしまい、肝心の物語に没入出来なくなってしまったりする。

自身はパントマイムにおけるテクニックの振れ幅をクラウン表現からリアル表現まで4段階に分けて考えている。演じている作品によってそれらの強度を使い分け、テクニックをコントロールすることがとても重要である。ここをおろそかにすると特定の方向性に沿った演目しか出来なくなってしまうので注意が必要だ。

演技力を身に付ける

パントマイムとは感情だと語ったとおり、演技力がないと面白い作品にはならない。笑える作品だろうが泣ける演目だろうが、それは演者が実際にその場面に生きているから動く感情なのだ。演技に嘘があると興醒めする。笑っている風、泣いている風の空虚な表現ではなく、腹の底から感情が動いていないとダメだ。

フィジカルシアターと呼ばれる外的要因から感情を推察出来るのがパントマイムの特徴でもあるのだが、体を動かすためには心を動かす必要がある。鶏が先か卵が先かということでもなく、体と心、両方を動かせるように訓練し、舞台上にいる自分がリアルにそこに存在出来た時、目線や所作一つとっても、お客さんは感情の機微を感じとる事が出来るだろう。

人は普段からパントマイムをしている。電車が来なくてイライラしているおじさんや、面接会場で緊張しながら座っている就活生など、言葉を発していなくても体は如実に感情や精神状態を語っている。パントマイムにおける演技においても大げさに演じる時もあれば、リアリティをもってそこに存在する事もある。先程のテクニックの項でも話したように、どの段階の表現をしているのか、意識して使い分ける事が出来ると演技の幅も広がってくる

全てを自分でやらなくても良い

【脚本、演出、テクニック、演技】という4つのカテゴリーは、例えば他のジャンルであればそれぞれを専門の人がやっている。脚本家、演出家、振付師、出演者、それぞれが一緒ということのほうが少ない。もしこれらをお願い出来る優秀なパートナーがいるならば、力を借りた方が良い。自分一人で全てをやると、どうしても自意識に凝り固まったり、客観的に作品を見れなくなってくることがある。

それと共に、音響、照明、舞台美術、衣装製作なども自身でやることが多いパントマイミストの活動だ。どれもこれも全部得意ということはありえない。餅は餅屋という言葉もある。もし自身が苦手を感じている部分があり、そこを助けてくれる仲間がいるのなら、頭を下げて力を貸して貰おう。パントマイムの目的は自分一人で作品を作ることではなく”お客さんを楽しませること”なのだから。

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