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海外の食物アレルギー情報 ① アメリカの成人有病率、非営利患者団体

今日は、アメリカの食物アレルギー関連情報をお伝えします。点鼻スプレー式のエピネフリンの処方開始、成人も対象に入っている食物アレルギー患者団体、アメリカの成人の食物アレルギーの有病率について書きます。


1. neffy® がアメリカで処方可能に

8月9日にFDAに承認されたneffy®(点鼻スプレー式のエピネフリン)が、9月25日からアメリカで処方可能になったようです。日本では2024年中の申請を目指している模様。子供も大人も針はちょっと怖い。私も、もしもの時に落ち着いて針をさせる自信がないので、興味があります。

2. 成人の食物アレルギー患者会がない


話題は変わって、食物アレルギーの患者団体について書きます。日本では食物アレルギーといえば、小児の患者さんが主。「成人は視野に入っていない、忘れられている、悲しい」と思うことがよくあります。

説明の冊子やウェブサイト等も、小児の患者さんの家族・学校等に向けて書かれているものがほとんどで、成人には当てはまらないことも多い。

私の調べる限り、成人の食物アレルギーも対象範囲に含まれる患者団体、特定NPOはなさそうです。ホームページ上、食物アレルギーと書いてあっても、問い合わせると、小児向けが主という感じです。

アニサキスの団体はあります。私見ですが、単一のアレルゲンで絞らずに、幅広く食物・食物関連アレルゲンをカバーし、小児・移行期・成人の幅広い年齢層の患者さんが参加できる団体があったらいいなと思います。その中に、必要ならば年齢別・アレルゲン別等の分科会があるという構造の方が、多くの患者さんのためになるように思います。小麦もアニサキスも、除去が大変なのは同じだし、複数のアレルギーがある患者さんも結構いるし。

成人患者さんについては、今欠如している、社会生活と食物アレルギーの両立のためのアドバイスや情報を集積し、励まし合うこともできる。成人と移行期の患者さんが触れ合うことで、お互いの助けになることも多そう(成人は除去の仕方を学び、移行期の患者さんは、社会人から仕事とアレルギーの両立の話を聞けるなど)。

他のステークホルダー(学会、国・自治体のアレルギー担当、民間企業等)と話す時も、説得力が出るし、認知度も組織の運営効率も上がるのではと思います。

3. アメリカの食物アレルギー団体

日本にないなら、海外の情報を探してみようと探してみた所、 Food Allergy Research & Education (FARE) が見つかりました。アメリカ最大の食物アレルギーの非営利団体です。成人患者さん向けのページがあり、ちょっと嬉しくなってしまいました。

日米で環境が違うので、全て当てはめる事はできませんが、いいな、面白いなと思ったことがありました。

例えば、仕事に関連し、新しい職場で働き始める際に、上司と同僚に自分のアレルギーのことを話した方がいいこと、エピペンの場所と打ち方を伝えること、出張や研修時のアドバイス、雇用主も法律に基づいて、アレルギーを持つ従業員に十分な配慮をする義務があること(アレルギーも障がいの1つの形と考えられている)。

仕事以外では、付き合う相手にアレルギーのことをどう話すかや、アレルギーがあっても安全にできるデートの例、外食するときの注意点、アレルギーフレンドリーな大学の選び方、大学入学で親元を離れるの大学生へのアドバイス、除去食のレシピなどもあり、情報満載で、ちょっとわくわくする感じでした。小児から成人への移行期にアレルギーが残っている患者さんに役立つ情報も多く発信されています。

この例からも、アメリカの食物アレルギーが、子供から、ティーンエージャー、大人へという全てのライフステージにおいて、食物アレルギーという疾患を持ちながら、どう生きていくかが視野に入っていることが分かります。各ライフステージで起こる変化に、どう安全に疾患と共存しながら、その人らしく生きられるかを目標にしている。 

それに対し、日本の食物アレルギーに関する治療・情報発信・支援は、小児をターゲットに親御さんや周りの環境中心に限られ、そこで終わっている。ライフステージを通しては考えられていなく、大きな違いを感じます。

成人の場合、「検査で陽性でした」、薬とエピペンを処方されて終わり。栄養指導も保険適用外、何をどう除去するかも孤独な手探り。

成人としての生活と食物アレルギーをどう両立していくか、冊子もサイトも、支援団体もない。自分で小児の親御さん向け情報の中から、使えそうなものを拾いながら、何とかするしかない。

投稿などを見ると、成人発症の食物アレルギー患者さんは、私と同じような経験をされている方も多そうです。自分でネットで情報を探し、何とかやりくりしている方が多そうです。

世界的にも、成人発症の食物・食物関連アレルギーについての議論や統計が増え、軽視できない状況になりつつあります。 

日本でも、食物アレルギー治療・支援における「小児と成人間の大きな壁」を取り払い、誰でも同じようにアレルギーの治療ができ、支援が受けられる環境を整える必要があります。

4. アメリカの成人食物アレルギーの人ってどの位いるの?

話をアメリカに戻します。上記で紹介した団体のように、成人の食物アレルギーの患者さん向けの情報も結構充実しているので、成人の患者数も多いのかなと思い、調べてみました。

  • 2021年のNational Center for Health Statistics (NCHS) によると、アメリカの成人の食物アレルギーの有病率は6.2%

  • 年代別では、18〜44歳が6.6%、45〜64歳が6.7%、65〜74歳が5.1%、75歳以上が4.5%で、年齢層が上がるにつれ低下

  • 性別では、女性が7.8%で、男性の4.6%より有意に高かった

  • 人種別では、Black 8.5%、White 6.2%、Asian 4.5%、Hispanic 4.4%だった

  • 以前のNCHSの調査では、小児(0〜17歳)のみが対象だったが、2021年から成人も初めて対象に加えた。また、食物に反応が出るかという質問だけでなく、医師からアレルギーの診断を受けたかどうかも質問項目に加え、有病率の精度向上に努めている

日本の成人の食物アレルギーの有病率は、いろいろな資料で違いがあり、よく分かりませんでしたが、1%前後という低いものもありました。

アメリカの成人全体で6.2%、アジア系成人で4.5%という数値を見ると、日本でも、潜在的な成人の食物アレルギーの患者さんが相当数いる可能性もあると思います。

社会全体でいろいろな人が協力して、成人も含めた食物アレルギーの診療体制、診断後の支援体制の整備を考えるべきでは、と思います。

花粉症を診てくれる病院は既に星の数ほどあるのに、成人の食物アレルギーを診て頂ける病院は本当に少ない。アンメットニーズのある所を増やす必要があると思います。みんなでタッグを組んで進められるといいですよね。

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