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言の葉


私は話すときや文を書くときに、異常に取り繕って変な壁を築いてしまう癖がある。
「こう書いてしまったら、変に思われないだろうか。」
「こんな話をしたら、誰か嫌な思いをしないだろうか。」
「生意気だと思われないだろうか。」

自分が『変な人』と思われないように。
誰かが嫌な思いをしない様に。 

自分の率直な思いや心の中に秘めたる思いを出すことが出来なくなっていることに気がついた。

私がその事に気がついたきっかけはゼミの先輩に連絡をする用事があった時だ。
「必要な事が分からなくて困っている」
と言うことが私の伝えたいことだった。
私の当初、先輩に送ろうとした文は「必要なことが分からなくて、どうしたら良いか分からなくて………」といった感じで「困っている」の部分が抜けていたのだ。
文が纏まらないと父親に相談したときに、「『困っている』ってことを伝えないと助けてもらえないよ。」と指摘され、私は自分の文の重大な欠陥に気付いたのだ。
相手を困らせたくない。初っ端から迷惑をかけたくない。
無意識の内に、プライドと体裁から生まれたフィルターを通すことで、自分の本当に伝えたい思いが見えない様に隠していた。

思えば、昔から自分の本当に伝えたいことが伝えられないことがあった。
相手が100%の思いを私に見せてくれていたとしても、私は60%や50%しか本当の思いを相手に伝えていないのだ。
元々明るく人当たりの良い性格も災いして、それでもやり過ごせてきてしまった。
私からしたら「本当に言いたいことを伝えられない相手」に「何でも話せる大切な友達」だと言われた時には申し訳なさを感じた。
言われた当初は
「あれ、私は話せる友達の1人のつもりだったけど相手にとってはもっと親しい仲だったんだな。」
と申し訳なさを覚えつつも好意を向けられている事に感謝して、距離を縮める努力をしようと思った。
しかし人を変えても同じ様なことが積み重なると、さすがに自分の「人とのキョリ」がおかしいのだと気づき始めた。

伝えたいことを伝えないからキョリを感じるのだという事に気づいたのは大学に入ってからだが、気づいたところで長年の癖が改善ができるわけではなかった。

「本当に伝えたいことを伝えたい」
友達同士だから大した思いではない。でも些細なことの積み重なりを重ねる内に、私は人とキョリや壁を感じる様になってしまった。

私はそれでも良いのかなと思っていた。
自分の発信する言葉に「自分の本当に伝えたい思い」を阻害するようなフィルターが存在していても。そのフィルターがあるせいで、人とのキョリが遠く感じても。
生活を送る上では何も困らない。
人と関わり合うことはできる。

ただ自分が見えない壁のようなものを感じて寂しく感じるだけだ。


その思いを変える出来事が、この数ヶ月の中であった。
自粛期間中に刀剣乱舞を始めたことがきっかけで、姉に舞台刀剣乱舞•通称刀ステを勧めてもらった。
春先に刀ステに出会い、それまでの全ての作品を見させていただいた。またその感想は別のブログで話していきたいと思う。

今年の夏に上演された

『舞台刀剣乱舞/灯 綺伝
いくさ世の徒花
改変 いくさ世の徒花の記憶』

私はライブビューイングで科白劇を見させていただいた。制約が多い中、とても迫力のある素晴らしい舞台だと感動した。
千秋楽が無事に終わってカーテンコールの際、キャストの方が1人ずつコメントされる時間があった。

とある俳優さんが、カーテンコールでおっしゃっていた言葉。

結構巷では話題になっていたので、敢えてここでどの方のどの言葉だったか明言することは、差し控えさせていただく。

その方の話を聞いた時
なんてまっすぐな言葉なんだろうと感じた。

真っ直ぐで、綺麗で、ダイレクトに。

こんなに心に響く言葉に、生きてきた中で初めて出会った。

心の中で考えていらっしゃる言葉が、私の胸の中にスゥッと溶け込んでいくのを感じた。

知らないうちに涙が流れていた。


その方にとってその言葉が100%伝えたいことが伝えられるものだったのかは分からない。
それでも、言いたいことを隠して取り繕って伝えられない私の何百倍も、その方の言葉は真っ直ぐで綺麗に感じた。


それと同時に私は自分の今まで発してきた言葉の薄さに恥ずかしさを覚えた。
フィルターを張って体裁を整えているつもりが、むしろ薄っぺらい言葉を紡いできたのではないか。
「本当に伝えたいことが伝えられない」言葉を発して、人とキョリを感じてきたのは、私がうまく言葉を紡げない事が原因だ。

今更遅いかもしれないけれど、私もこんな真っ直ぐで、綺麗で、誰かの心に響くような言葉を紡ぎ出せるようになりたいと思った。





私が「本当に伝えたい事を伝える」事はまだ難しいことだなとひしひしと感じる。
先程も書いた様に、長年の癖であるからこそなかなか抜けない。
この文を書いている今も、誰かがこの文を読んで嫌な思いをしたらどうしようと不安で仕方がない。
しかしあの時感じた思いをきっかけに、私も真っ直ぐな言葉を伝えられるようになりたいと前向きに考えられる様になった。

人との距離を縮められる様に。
思ったことを、伝えたいことを言えるように
人と話す時により意識するようになった。

慣れていないから纏まらない文や拙い言葉になってしまう事もある。
怖くて声が震えている時もある。

それでも私が本当に伝えたいことを伝えられた時。
伝わったと分かった時
共感してくれた時
「こうなんじゃない?」とアドバイスをしてくれたりした時
私は前よりも人との距離を感じなくなった。

もちろんまだ私は
「本当に伝えたいこと」を伝え切れていないだろう。
それでも少しずつ「繕わない自分の素直な言葉」を、人に伝えられるようになりたいと思う。


長い文、読んでいただきありがとうございました。

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