あきおさん
思いがけないはなむけの品
長男は毎日幼稚園バスにゆられて帰ってくる。
今日は夫がバス停までお迎えに行ったのだが、
「これ、見てよ!」
と、帰宅早々何やら入ったビニール袋を差し出してきた。
中にはたくさんのどんぐりコマ。
聞けば、幼稚園バスの運転士である「あきおさん」が、退園する長男のためにと新天地での友達づくりのきっかけに使って欲しいと下さったのだそう。
わざわざバスを降りて「使って下さい。」と直接手渡されたという。
どんぐりコマとは
どんぐりコマは、長男の幼稚園で毎年秋頃から登場する風物詩だ。
ここのバスの運転士さんは用務員的な役割も担っているので、仕事の合間に拾ってきたどんぐりに楊枝をさして手作りのコマを作る。これが子供たちに大ウケしている。
楊枝の部分を持ってクルッと捻るとどんぐりがくるくるとまわる。うまく回すのに少しコツがいるのも子供心をくすぐるのかもしれない。
長男はその都度ちょっとしたご褒美にもらったり、「ちょうだい」と言ってもらってきたり。せっせと集めては大事に箱にしまっている。
あきおさんとの出会い
「あきおさん」は長男の乗車する幼稚園バスの運転士さん。おそらく年齢は還暦を過ぎてしばらく経つくらいだと思う。他にも運転士さんはいるが、コースの関係でいつも乗るのは「あきおさん」のバスだ。
まだ入園間もない頃、バスの中で既にギャン泣きだった長男を大事に抱っこして降ろしてくれた。
教室でギャン泣きして手に負えない時には、職員室で迎えてくれて一緒に電車遊びをしてくれた。
長男は赤ん坊の頃から年配の方が大好きなので、もしかすると一緒にいて心地よかったのかもしれない。
特に入園したての頃は慣れないし不安な気持ちになってしまう。そういう時、担任の先生方が全力で子供達と向き合う中、裏方のあきおさんみたいな存在が長男を支えてくれていた。
「あきおさん」と呼ばれて
後から知ったことだが、長男の幼稚園であきおさんのことを「あきおさん」と呼ぶ人はいないのだそう。みんな苗字にさん付けで呼んでいる。
私たち家族からすれば、担任の先生方のことは「〇〇先生」と下の名前で呼ぶのだから、当然運転士さんのことも名前で呼ぶものだと思っていたが、そうではなかった。
「あきおさん」と呼ばれて、照れくさそうに「あきおさん…かぁ…。」とつぶやいていた、と先生が教えてくれた。
周りの先生方も長男が「あきおさん」と呼ぶのを見て、ああそうか下の名前はあきおさんだったね…などと話のタネにもなったそう。
「あきおさん」にとって長男はどんな風にうつっていたのだろうか。
一緒に写真を撮ってもらった
先日のクラスでのお別れ会の合間にカメラを持って職員室に行き、「あきおさん」と一緒に写真を撮らせてもらった。
終業式で最後になること、遠方へ引越しする事などを話すと、「元気でがんばってね。」と長男の肩に手をおいて目を見て話してくれた。
長男は少し恥ずかしそうに固まっていたが、一緒に撮った写真は孫とおじいちゃんそのもの。二人の間もちょうどそんな距離だったのかもしれない。
感謝
この一年間、行きも帰りも「あきおさん」のバスにゆられてきた。入園した頃は毎日バスに乗った途端泣き出していたのが、やがて笑顔で乗るようになり、時に大きな声で「おはようございます!」と言うようになった。
親としては、ハラハラ不安な思いもある中でバスに乗せる。見送る時に泣いていると胸がぎゅっとなったものだが、そういう思いも全部「あきおさん」はじめ幼稚園で働く皆さんに受け止めてもらったと思っている。
穏やかで真面目で無口、実直な印象の「あきおさん」。ただひたすらに淡々と仕事をこなし全うすることは一見簡単そうに見えて大変なことだと思う。毎日子供達の安全を考えながら時間を正確に守り運転する。「おはよう」「バイバイ、また明日ね」と必ず声かけして下さる。目立たないかもしれないけれど、こういう方々のおかげで長男は一年間がんばることができた。
改めて今、感謝している。
「あきおさん」との出会いは、きっと長男の大事な思い出になる。
あきおさん、どんぐりコマありがとうございました。新天地での長男の人間関係は、きっとうまくいくと思います。どうか、いつまでもお元気で。
2018/03/05 Sunao
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