島うまれ島そだちの彼女の話
「今年も焼くんです。私、海が好きだから。」
病室の掃除をしてくれながら、彼女はそう言った。
「若い人が入院してきたって言うから。私と同じくらいかな?お子さんもまだ小さいですよね?」
と、あと一年でJust 40(!)の私に向かって悪びれる様子もなく聞いてくる。
私の歳を聞いて、「あっ」とちょっと申し訳なさそうにしながら「お若く見えますね!」とごまかし笑顔でフォローする彼女。
私は、そんな彼女が好きだ。
朝早くから出勤し、入院中の患者さんたちへの食事の準備、時々介助。掃除、洗濯、ベットメイキング、洗い物、入浴の介助、浴室の掃除、ごみ捨て、お茶配り、患者さんとの雑談、声かけ、何かあったらすぐ駆けつける…それらすべてが彼女の毎日の仕事。
黒髪は病院側からの指定だろうか。長い髪をひとつに結び、目には青い縁のカラコンを入れて微笑む瞳の奥はどこか意志の強さを感じさせる。
彼女には、もう高校生になるお子さんがいるそうだ。
自分が厳しく躾られて育ち、それが嫌だったからと、わが子にはできる限り自由にやらせているという。
人様に迷惑をかける様なこと、傷つけるようなことさえしなければ。そして生きてさえいれば構わないと、掃除の手を休めることなく話してくれた。
「毎年、子供と海に遊びに行って焼くんです。今年もやりますよ。」
「あ、でもこないだの体育祭で、腕が焼けてる!」と見せる腕は華奢で、力仕事もあるだろうこの病院勤務をよくこなせているなと感服する。
子どもが大きくなっても、ちゃんと体育祭の応援に行くんだなあ。
こんなに朝早くから出勤して、子どもたちもしっかりやっているんだろうなあ。
そんなことを思っていると、
「子どもの小さなころってあっという間に終わっちゃう。」
「気づいたら大きくなってて、もうあの頃の姿はないんだなあって。」
「もうちょっとしっかり育ててあげればよかったとか、今になって思うんですよ。」
と話す。
いやいや、きっとあなたのお子さんは充分あなたの愛を感じて育ったはずだよ。若くしてお子さん産んで、今も一生懸命働いてすごいと私は思いますよ。きっとそれは伝わってるよ。
と返すと、へへっと笑って「失礼しました~。」と部屋を出ていった。
一見細身で可愛らしい彼女。でもどこか芯の強さを感じる佇まい。そして患者さんと話す時の優しい顔。
私は、そんな彼女が好きだ。
いつか。私の仕事が軌道に乗ってやりたいことが少しずつ形になってきた折には、ぜひ彼女のことを紹介したい。
島うまれ島そだちの、彼女の暮らしと人生の物語。
シャイな彼女に取材を受けてもらえるかどうかはまた、別の話。
2018/06/26 Sunao
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