芸人・マルセ太郎さん
芸人・マルセ太郎さんが好きだった。
あの落語家・立川談志に、「ビートたけしは文明だ。マルセ太郎は文化だ」と言わせた芸人。
その事を「EXテレビ」の会議で話すと、やってみろという事になった。確たる自信がある訳では無かったが、企画は既に走り出していた。
マルセさんの神戸公演の後、時間をもらった。鮨屋のカウンターで横並びに座り、番組の企画を説明。すると、マルセさんは言った。「俺の芸はテレビの短い時間では表現できない。テレビは嫌いだ」と。
その頃、マルセさんは舞台に出て来て、まず漫談をやり、その後、一本の映画を一人で演じ、語り下ろす映画再現芸「スクリーンのない映画館」をやっていた。
特に、映画「泥の河」の語りが人気だった。
マルセさんと相談した結果、観客は上岡龍太郎さん一人。マルセ太郎さんには自由に話してもらう事になった。
マルセさんの芸に触れていない視聴者の為に、大分県日田と福岡県小倉の公演を追いかけた。どちらの公演も満員。マルセさんは漫談で笑わせて、「スクリーンのない映画館」でお客さんを号泣させていた。
収録日、マルセさんがスタジオ入り。マルセさんと上岡さんは打ち解け、打ち合わせは1時間続いた。
スタジオは黒い布で囲まれて、作務衣姿のマルセさんが座る箱と上岡さんが座るイス以外、何も無い。二人がスタジオ入り。「日劇ミュージックホールの話」「芝居の話」「映画再現芸の話」マルセさんの世界に酔いしれた。廻ったVTRは1時間40分。
メイクを落としたマルセさんと最初に打ち合わせしたパーラーで、再び楽しそうに話し込む二人。時間は午前4時になっていた。
マルセさんに誘われて、何度か御自宅にお邪魔した事がある。夜7時頃に伺って、帰宅するのは深夜1時頃だった。マルセさんが楽しそうに話し、時間が過ぎていった。今考えても、とてもとても贅沢な時間だった。一期一会の出会いが奇跡を生み出したと、今でも僕は思っている。