「浮気は悪か本能か?―一夫一妻制の矛盾と進化の視点から考える現代社会の課題」
最近、巷を騒がせている政治家やスポーツ選手、芸能人などの浮気スキャンダルが後を絶たない。
ネットやテレビを通して、このような話題が子どもたちの日常にも浸透している現状がある。一部の結婚に否定的な若者たちが、こうしたメディアの影響を受けている可能性は否めない。社会倫理の観点から言えば、浮気は「悪」とされ、社会的制裁として職を失うなど致命的な影響を受けることは明らかだ。しかしながら、リスクを伴うにもかかわらず、このような行為が絶えないのはなぜだろうか。
浮気が人間社会で例外的な現象ではないことを示す統計データ
浮気が決して稀な現象ではないことを示す統計がある。たとえば、日本では浮気経験のある既婚者の割合が男性で約20~30%、女性で約10~20%とされている(白河, 2020)。このデータは、一夫一妻制が一般的である現代社会においても、浮気が根深い問題であることを明確に示している。また、浮気が単なる倫理的な逸脱ではなく、人間の生物学的本能や進化の産物として理解されるべき側面を持つことが、この問題の複雑さを際立たせている。
一夫一妻制の社会的意義
一夫一妻制は、人間社会の安定と秩序を保つための重要な仕組みだ。
この制度は、配偶者間の信頼を基盤に、子どもたちに安定した養育環境を提供している。また、財産や権利の継承を明確化することで、社会全体の効率性を高める役割も果たしている(Fisher, 1992)。そのため、多くの文化や社会が一夫一妻制を採用してきた。
しかしながら、現代において一夫一妻制の維持は難しくなっている。晩婚化が進むことで結婚の機会自体が減少し、少子化が進行する中で、一夫一妻制が果たすべき役割への期待と現実との間に乖離が生じているのだ。また、個人主義や自由恋愛の広がりが、一夫一妻制の存在意義を揺るがす場面も少なくない。
生物としての人間:浮気の進化的背景
進化生物学の視点から見ると、浮気は繁殖戦略の一環として理解されることがある。男性は、より多くの遺伝子を残すために複数のパートナーとの関係を持つことが進化的に有利とされる一方、女性は、より優れた遺伝子を持つ男性を選びつつ、自分と子どもを長期的に支えてくれるパートナーを求める傾向があるとされている(Buss & Schmitt, 1993)。
晩婚化や少子化の影響も、こうした進化的背景に影響を与えている。
たとえば、婚期の遅れや高齢出産のリスクが、生殖行動に新たな課題をもたらしている。一方、少子化が進行する中で、家庭が子どもを安定的に養育する場としての役割が再評価されつつあり、一夫一妻制の意義が見直される動きも見られる。
一夫一妻制と浮気の共存:矛盾と調和
こうした背景を考えると、一夫一妻制と浮気の間には本質的な矛盾があるように見える。一夫一妻制は社会的安定をもたらすルールである一方で、人間の生物としての本能を完全に制御するものではない。しかし、浮気という現象が一定の頻度で発生していることは、この矛盾が解消不可能なものではないことを示している。
また、晩婚化や少子化の進行は、この矛盾をさらに複雑にしている。晩婚化による出生率の低下や、結婚を選ばない人々の増加は、一夫一妻制が前提とする家族モデルに挑戦を突きつけている。このような状況下で、一夫一妻制の意義を再確認しつつ、新しい時代に適応した家族観やパートナーシップの在り方を模索する必要がある。
社会性と生物的な在り方のバランス
浮気という現象は、一夫一妻制が持つ社会的意義を揺るがす一方で、生物学的には人間の進化の結果として必然的に生じる側面を持つ。一夫一妻制が社会の安定に必要不可欠であることは疑いようがないが、それが生物としての人間の本質に完全には沿っていない可能性を認識する必要がある。
この矛盾をどのように理解し、共存を図るかを考えることは、晩婚化や少子化といった現代社会の課題解決に向けた一助となるかもしれない。たとえば、柔軟な結婚制度やパートナーシップの在り方を模索すること、または子育ての負担を社会全体で分担する仕組みを整えることが、これらの問題を緩和する鍵となり得るだろう。
個人を批判の対象として晒すことで社会的制裁を加えるのは社会維持の機能としても、それで終わりでは根本的な解決には至らない。問題の根本を理解して社会の安定、個人の自由、そして生物学的欲求のバランスを取ることは、現代社会が向き合うべき重要なテーマの一つではないだろうか。
参考文献
・ 白河桃子 (2020).日本人の結婚と浮気の実態.東京:新潮社
Fisher, H. (1992). Anatomy of Love: A Natural History of Mating, Marriage, and Why We Stray. New York: W.W. Norton &Company.
Buss, D. M., & Schmitt, D. P.(1993). "Sexual Strategies Theory:An Evolutionary Perspective on Human Mating". Psychological Review, 100(2), 204-232.