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「子どもの考える力を引き出すために必要な指導とは」
現代の教育では、「自分で考える力」を身につけることが重要だとされています。学校や家庭でも、「もっと自主的に考えなさい」「自分で調べてやってみなさい」といった言葉がしばしば子どもに向けられます。しかし、このような指導だけで本当に子どもが「自分で考える力」を養えるのでしょうか。多くの場合、この言葉は子どもに戸惑いを与え、結果的に学ぶ意欲を失わせる原因にもなりかねません。では、子どもの考える力を本当に育むためには、どのような指導が必要なのでしょうか?
「考えなさい」と言うだけでは不十分
「自分で考えなさい」という言葉が有効な場面もあるかもしれません。しかし、教育心理学者ヴィゴツキー(Vygotsky, 1978)の研究によれば、子どもが新しい知識やスキルを習得する際には、適切な支援が不可欠です。とくに、まだ思考力が十分に発達していない子どもたちにとっては、課題の目的や進め方を理解できないまま「自分でやれ」と言われることで、不安や挫折を感じることがあります。たとえば、「自分で調べて発表しなさい」といった課題を与えられても、どの情報を集めればよいのか、どのようにまとめればよいのかが分からず、結果として学びが進まないケースが多いのです。
効果的な指導アプローチ
子どもの考える力を育むためには、単に「考えなさい」と指示するだけでなく、指導者が具体的に支援しながら子どもを導いていく必要があります。そのための方法のひとつとして、「足場づくり(scaffolding)」というアプローチが挙げられます。この方法では、子どもが課題に取り組む際、最初は具体的なヒントやサポートを与え、少しずつその支援を減らしていくことで、最終的に自分の力で課題を達成できるようにするのです(Wood, Bruner, & Ross, 1976)。
たとえば、作文の指導を考えてみましょう。「自由に書いてみなさい」という指示だけでは、何を書けばいいのか分からない子どもがほとんどです。しかし、「最初に構成を考えよう」「この構成をもとに1段落目を書いてみよう」といった段階的なサポートを行えば、子どもは書くべき内容や進め方を具体的に理解できるようになります。このように段階的な目標を設定することで、小さな成功体験を積み重ね、子どもに自信を与えることができるのです。
また、子どもが自ら考える力を伸ばすには、指導者が効果的な質問を投げかけることも有効です。「なぜそう思うのか?」「ほかの方法はないだろうか?」と問いかけることで、子どもの中に新しい視点や考え方が芽生えます。このような対話を通じて、思考力だけでなく、表現力や論理力も育むことができます。
指導者や保護者の役割と姿勢
さらに、指導者自身が「考える姿勢」を示すことも重要です。教育学者のデューイ(Dewey, 1933)は、「考える力は模範を通じて伝えられる」と述べています。教師や保護者が多角的な視点で物事を考え、自分自身も学び続ける姿を子どもに見せることで、子どもは自然とその姿勢を模倣します。たとえば、問題が発生した際に、解決策を一緒に考えるプロセスを見せることで、子どもは「考えるとはどういうことか」を具体的に学ぶことができるのです。
おわりに
「自分の力で考える力を養う」とは、子どもにすべてを任せることではありません。むしろ、指導者が適切な支援を行いながら、子どもが課題に主体的に取り組むための環境を整えることが大切です。そして、成功体験を積み重ねることで、自信と考える力を育むことができます。教師や保護者が支えとなり、模範を示すことで、子どもたちは真の「考える力」を身につけるのです。
参考文献
• Vygotsky, L. S. (1978). Mind in Society: The Development of Higher Psychological Processes.
• Wood, D., Bruner, J. S., & Ross, G. (1976). The Role of Tutoring in Problem Solving. Journal of Child Psychology and Psychiatry.
• Dewey, J. (1933). How We Think: A Restatement of the Relation of Reflective Thinking to the Educative Process.